信頼関係を築くためのコミュニケーションの必要性

――実際の現場でのコミュニケーションについて伺います。現場において、脚本に書いてある以上のことをアドリブで行なうことを良しとする風潮であったり、「撮影は生モノだ」という考えの下で、インティマシー・コーディネーターの存在をクリエイティブを阻害する存在として煙たがられることなどはないですか? 実際の現場で苦労される部分などについて教えてください。
たしかに日本ではそういう風潮は強いですし、そういう信念を持ってらっしゃる方も多いと思います。その中で、私はとにかく「同意を得る」ということを大切にしています。先ほども言いましたが、インティマシー・コーディネーターは、あくまで“コーディネーター”なので、何か権限を持っているわけではありません。ただ私がその作品に呼ばれたということは、プロデューサーや制作会社が、インティマシー・コーディネーターの必要性を認識して、俳優の尊厳や安全を守っていこうとしているんだと信じて、現場に入るようにしています。
とにかくきちんと話をして、そこで信頼関係ができれば、撮影当日もうまくいくと信じています。とはいえ、まだこの職業が理解されていないこともあって、煙たがられることも当然、あります。ただ、そこできちんと「何のためにインティマシー・コーディネーターが入っているのか?」をお伝えすることで、理解者は確実に増えていると思いますし、特に俳優部のみなさんからはたくさんの好意的な感想をいただいています。
俳優のみなさんには、撮影前の最初のヒアリングの面談で「インティマシー・コーディネーターという職業をご存知ですか?」という話から入るんですけど、正直、警戒されていることが多いです(苦笑)。「この人に説得されて、脱がされることになるんじゃないか?」と構えて面談に来られる俳優さん、マネージャーさんもいますが、そうではなくて俳優を守るため、そして良い作品を作るためにいますということを丁寧に伝えることで、インティマシー・コーディネーターという存在を理解していただけています。
――「露出が多い=よくやった! 体を張った」と評価されがちな傾向がありますが、もちろん「どこまでOKか?」は人それぞれです。でも、なかなかそれを現場で俳優さんから伝えづらいという空気もあると思います。俳優さんにとって、浅田さんは“味方”であると認識してもらうというのは、大事なことですね。
はい。特に男性の俳優に対して、どういったケアをしているのか? というところは、想像しづらい部分もあるかと思いますが、実際に話を伺うと、センシティブシーンの相手役の女性を傷つけないようにと気遣いをされている男性の俳優は非常に多いんです。
ただ、そうした気遣いをあれこれとしなくてはいけないことによって、その俳優さんの仕事が増えてしまうわけで「お芝居に集中したいけれど、相手のケアもしないと…」という部分に関して「そこは私に全て任せてください。きちんとサポートさせていただきますので」と伝えることで「すごくやりやすくなった」、「負担が軽減された」とおっしゃっていただけることが多いです。

――先ほど、講習の段階で疑似セックスシーンについても学ばれたという話でしたが、必要に応じて現場で監督に「こういう撮り方はどうか?」などと提案されることもあるんでしょうか?
そうですね。事前に絵コンテなどがある場合は、基本的にその内容を確認しつつ「ここからここにいく時の流れはどんな感じですか?」など必要な質問をし、そこで逆にアドバイスを求められることもあります。そういう時は私なりの考えをお伝えします。
また「こういうシーンにしたいけど、この俳優さんが見せられるのはここまでだったら、どうすればいいのか」といった場合に「じゃあ、こういうやり方はどうでしょう?」とか「こういう見せ方なら大丈夫そうです」と監督にお伝えします。
あとは実際に現場に行ってみたら、何らかの事情で予定していたカメラ位置が難しかったりとか、さまざまな事情で変更が加わることもあります。そうした場合に新たに提案をすることもあります。
俳優が見せられない部分を隠さなくてはいけない時、不自然な隠し方にはしたくないので、それをより自然に見せるための工夫・理由が必要になります。そういった部分で少しアドバイスさせていただくことはありますね。
――現場で監督から「できればこっちからの角度でも撮りたい」とか「カメラをこうしたい」など、事前の打ち合わせになかったアイディアをやりたいと言われることも…?
ありますね。あまり大々的な新しい提案が当日にあると難しいですが、私のほうで事前にある程度まで想定した上で、俳優さんとのヒアリングをするようにしています。「絵コンテではこうなってるので、こういう撮り方になっていますが、もしかしたら、こういう感じの撮影もあるかもしれません。その場合、ここがもう少し露出することになるかもしれませんが…」といったことはお伝えしておきます。もし当日に監督から「こうしたいんですけど」と変更を提案されても「もう一度、確認はしますが、大丈夫なはずです」と言えるように、全くのゼロからの確認とならないように、ある程度のバッファを想定して準備するようにしています。
――「金魚妻」では1話ごとに複数のセンシティブシーンがあり、バリエーションもさまざまですが、特に苦労されたり、印象に残っているシーンを教えてください。
やはり冒頭の安藤政信さんと長谷川京子さんのシーンは、作品の大きな「顔」とも言える、この作品を印象づける重要なシーンでしたので制作陣、キャスト全員で「素敵なシーンにしよう!」と頑張りました。そこはすごく印象に残っています。
特にシャワーなどで水を使うとなると、撮影はすごく大変なんです。水に濡れると前貼りの粘着力も弱まりますし、濡れた衣装や小道具を乾かすとなるとまた俳優部・スタッフの負担になるので、大変な部分ではありましたが、苦労のかいもあって素敵なシーンになったんじゃないかと思います。
このシーン以外にも、たくさんの恋愛のパターンが出てきて、だからこそセンシティブシーンのバリエーションも本当にさまざまで、そこは監督もシーンごとにどんな見せ方、感情表現をするかを考えてらっしゃったので、そこに協力して一緒に良いものを作り上げられたかなと思います。

――現場でのコミュニケーションで特に印象深いことがあれば教えてください。
現場ではなく、事前のヒアリングの面談の時のことなんですが、先ほども言いましたように、みなさん、どうしても不安な感じで「どんな話をするんだろう?」という感じで来られる方が多いんです。そんななかで、松本若菜さんはすごくニコニコしながら入ってこられたんです。私が「インティマシー・コーディネーターという職業を知っていますか?」と尋ねたら「知ってます! この間、インティマシー・コーディネーターの記事を読んで、こんな素晴らしい職業があるんだ!? と知ったと思ったら、こんなに早くご一緒できる機会があるなんて嬉しいです!」ということをおっしゃってくださって、それは本当に感激しました。