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『コーダ あいのうた』全国300館以上で拡大公開 国境を越えて愛される5つの理由

『コーダ あいのうた』がアカデミー賞受賞の盛り上がりを受け、300館以上に拡大される予定という。“愛され映画”の5つの理由に迫った。

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『コーダ あいのうた』(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
『コーダ あいのうた』(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS 全 18 枚
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第94回アカデミー賞にて作品賞、助演男優賞、脚色賞とノミネートされていた3部門ですべて受賞した『コーダ あいのうた』。1月21日(金)から公開されていた本作には「ここ最近で一番号泣」「早くも今年ベスト」「歌声に酔いしれた」といった声がSNSに相次ぎ、前週対比で100%超が続くロングランヒットに。今回の受賞の盛り上がりを受け、4月1日(金)から250館公開へと拡大、さらに翌週以降は300館以上に拡大される予定という。

アカデミー賞に先んじて、ハリウッドの映画俳優たちが選ぶ第28回全米映画俳優組合賞では最高賞にあたるキャスト賞を受賞しており(過去には『パラサイト 半地下の家族』や『ブラックパンサー』などが選出)、同業者から愛される作品であることも伺える。拍手の代わりに「ジャズハンド」と呼ばれる、両手を肩の高さでひらひらとさせる姿も多く見られた“愛され映画”といえる本作。その5つの理由に迫った。


日本では映画館で鑑賞できる


アカデミー賞授賞式でも言及されていたように、本作は配信サービス作品として初の作品賞受賞作で、アメリカの劇場では限定公開された。インディペンデント映画の祭典、サンダンス映画史上最多&初となる最高賞・観客賞・監督賞・アンサンブルキャスト賞の4冠に輝き、各社が配給獲得に乗り出すなか、Apple TV+が同映画祭史上最高価格となる約26億円(2500万ドル)で買い付けたことが話題となった。

日本国内ではギャガが配給し、配信ではなく劇場公開されている。ギャガといえば、昨年は『ミナリ』、一昨年は『ジュディ 虹の彼方に』『スキャンダル』ほか、『ラ・ラ・ランド』『それでも夜は明ける』『英国王のスピーチ』、是枝裕和監督『万引き家族』などアカデミー賞に絡み世界的に評価された多くの作品の配給を手がけており、本作もさすがの英断といったところ。特に音楽が重要な要素となるからこそ、映画館で本作を鑑賞することはタブレットやスマホでイヤホンを通して観て、聴くものとはまた違う、コンサートを久しぶりに楽しむかのような疑似体験を可能にしている。


原作はフランス映画祭観客賞『エール!』


『クワイエット・プレイス』シリーズ(18、21)や、マーベル映画『エターナルズ』(21)、アカデミー賞ノミネートの『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(19)、さらには「イカゲーム」ウィ・ハジュンが殺人鬼を演じた韓国映画『殺人鬼から逃げる夜』(21)、今回、国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(21)などまで(手話の描き方が適切かどうかはともかく)ろう者が登場する映画は近年、増えている。

本作『コーダ あいのうた』(以下、『コーダ』)は、フランス映画『エール!』(14)のリメイク作品だ。当時、本国では4週連続1位、観客動員数750万人超えの大ヒットとなった。日本には「フランス映画祭2015」のオープニング上映で紹介され、観客賞に選ばれている。舞台はフランスの田舎町、耳の聞こえない父母と弟とともに牧場を営む聴者の高校生ポーラ・ベリエ(ルアンヌ・エメラ)が、音楽教師に歌の才能を認められパリの音楽学校のオーディションを勧められる…という同様のストーリーが展開。主人公が家族とこれまで通りの生活を続けていくのか、本当にやりたい歌を目指すのか、葛藤する。

邦題『エール!』は新しい道へと旅立つ10代への応援歌の意味が込められたようだが、原題では『La famille Belier』(ベリエ一家)と家族の物語であることを主張。そして『コーダ』では、 “耳の聞こえない親を持つ子どもたち”=CODA(Children of Deaf Adults)と、音楽用語として楽曲や楽章の締めを表す=新たな章の始まりという双方の意味を含んだ、主題を最も端的に言い表したタイトルとなった。


監督の思い…実際にろう者の俳優を起用


『エール!』でも『コーダ』でも主演女優は歌えて、手話をしながら演技をすることが求められる。ベリエ一家のポーラ役は人気オーディション番組「The Voice」出身で映画初出演のルアンヌ・エメラが務め、セザール賞最優秀新人賞を受賞した。両親役を演じたのは『しあわせの雨傘』などのカリン・ヴィアールと『神様メール』などのフランソワ・ダミアンというフランスの実力派で、弟役のルカ・ジェルベールが実際のろう者だった。

『コーダ』のシアン・ヘダー監督は当初から、ろう者の役はろう者の俳優に演じてもらうことを考えていたといい、『愛は静けさの中に』(86)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したマーリー・マトリンが母親ジャッキー役、手話演劇出身で「CSI:ニューヨーク」のゲスト出演でマトリンと夫婦役を演じたこともあるトロイ・コッツァーが父親フランク役を演じ、今回揃ってアカデミー賞俳優となった。ちなみにコッツァーは、「マンダロリアン」でマンダロリアンと手話で会話をするタスケンレイダーの役も演じたこともある。

2年前、『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督はゴールデン・グローブ賞授賞式で「“字幕”という1インチの壁を乗り越えれば、より多くの映画に出会える。私たちが使うたった1つの言語、それは映画だ」と語ったが、手話を日常的に使う俳優たちの生きた“言葉”のおかげで、本作はさらなる1つの壁を越えたといえるだろう。

そして家族で唯一の聴者である主人公ルビーを演じたのは、Netflixシリーズ「ロック&キー」のキンジー・ロック役やホラー映画『ゴーストランドの惨劇』などに出演してきた次世代スター候補のエミリア・ジョーンズ

10代のころは親と“同じ言葉”で会話しながらも、齟齬が生まれてコミュニケーションをとれなかったり、本音をうまく言語化できなかったり、“分かり合えない”と感じることはよくあること。アメリカ手話と歌のレッスン、さらにトロール漁の操作の取得に9か月を費やしたというエリミアは、そんなルビーを瑞々しく演じて感動的な説得力をもたらしている。


日常を描くリアルに添った脚色


『コーダ』の家族構成では、マトリン、コッツァーと共演経験のある、ろう者のダニエル・デュランが“”レオ役を演じているのがポイント。レオは両親が自分ではなく聴者の妹ルビーを何かと頼りにすることにフラストレーションを抱えており、実は誰よりも“ルビーはここに留まるべきではない”と考えているキャラクター。レオのほうこそ家業を支えたいという気持ちが強く、ルビーの歌の才能と評判もすでに知っていた。スマホに文字を素早く打ち込んで、相手とチャットもできる。両親にはないコミュニケーション手段を彼は持っている。

また、本作はPG12指定作品で、赤裸々な夫婦生活やセックスにまつわる話も登場する。それは原作映画でも同じで、両親の性病について医師に説明するのはルビーの役目。同世代よりはるかに先に、否が応でも大人の事情を知ることになるルビーは、幻滅しながらももはや達観しているかのよう。その上、情熱的な夫婦のラブシーンに加え、父フランクのユーモラスな手話を目の当たりにした、ルビーが思いを寄せる合唱のパートナー、マイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)が軽率にも学校で噂話にしてしまう。これはルビーの生活のもう1つの基盤である学校での疎外感を強めてしまう、象徴的なエピソードだ。

学校に入学したばかりの頃、しゃべり方が変と言われて以来、背中を丸めて過ごしてきたルビーに、音楽教師の“V先生”(エウヘニオ・デルベス)が「なんて言われた?」と問い返す場面は、メキシコ系移民である先生自身も言語の“異質さ”を揶揄されながら生き抜いてきたことを伺わせる。

さらに、学校での合唱コンサートの最中、フランク、ジャッキー、レオが感じている無音の世界がより分かりやすく映し出されている。周囲の人が笑顔や涙を見せたり、瞳を輝かせたり、身を乗り出したりする姿から、その感動は娘の歌声がもたらしているのだと実感するフランクの表情。聴こえぬ娘の歌声を少しでも“聴こう”として、娘におそるおそる寄り添うシーンのリアリティもフランク役がコッツァーだからなし得たことだ。

一家の家業が牧場経営から漁業に変更された点にも注目。ヘダー監督にとって幼少期に馴染みのあったマサチューセッツ州グロスターが撮影地に選ばれたが、『愛は静けさの中に』の舞台をも思わせる港町だ。トロール漁に際し、仲買で手数料を抜かれたり、政府から監視員が訪れたりと権力で抑え込まれる構図は日本でも共感を得やすい点ではないだろうか。


60~70年代のヒット曲が彩る劇中歌にも注目


Appleの映画ながら、ルビーが音楽を聴くのは漁の間はラジオ、家では2ドルの中古レコードプレーヤーというのが興味深い。流れるのは最新ヒットソングやK-POPではなく、60~70年代のヒット曲であり、彼女の懐メロ好きはマイルズとの距離を縮めるきっかけになっている。冒頭、ルビーが船で歌うのはエタ・ジェームズの「Something's Got a Hold on Me」(62)で、『バーレスク』にてクリスティーナ・アギレラがカバーしたことでも知られる。愛には違いないけれども、“何かに囚われている”という曲から幕を開けるのだ。

権力に反発し、フランクたちが自分で組合を立ち上げる場面では「ザ・クラッシュ」の「I Fought the Law」(79)が彼らの士気を示し、合唱団のコンサートではキキ・ディーの「I've Got A Music In Me/歌は恋人」(74)と、子どもたちにこの音楽を聴かせよう、この音楽で踊らせようと歌うデヴィッド・ボウイの「Starman」(72)が披露され、会場はノリノリになる。

そして、フランクら家族らが“聴き入り”無音になるのは、マーヴィン・ゲイと早逝したタミー・テレルのデュエットソング「You’re All I Need To Get By」(68)で愛する人への無限の愛を歌い上げている。アメリカ人にとってはもちろん、日本でも比較的馴染みのある曲が続き、極めつけはグラミー賞授賞式にプレゼンターとして登場した大ベテラン、ジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now/青春の光と影」(69)。まさに家族と夢の狭間で葛藤してきたルビーの立場や未知数の人生について歌ったもので、あの場で、手話を伴って歌われる曲としてこれほど相応しいものはない。



さらにもう1つ付け加えたいのが、シダー監督のもと女性スタッフが多く集まったこと。アメリカ手話の監督としてアレクサンドリア・ウェイルズ、アン・トマセッティを迎え、多くの手話通訳者や、撮影監督のパウラ・ウイドブロ、プロダクションデザイナーのダイアン・リーダーマンほか、女性たちの活躍もひと役買っているに違いない。

『コーダ あいのうた』は全国にて公開中。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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