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「観客の手を取って誘う」セーヌ川、船上の精神ケアを追う『アダマン号に乗って』監督インタビュー

ベルリン金熊賞『アダマン号に乗って』にて、パリ・セーヌ川に浮かぶ、船上のデイケアセンター<アダマン>を追ったニコラ・フィリベール監督のインタビューが到着。

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『アダマン号に乗って』ニコラ・フィリベール監督 ©Jean-Michel Sicot
『アダマン号に乗って』ニコラ・フィリベール監督 ©Jean-Michel Sicot 全 12 枚
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本年度ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞・金熊賞に選ばれた『アダマン号に乗って』。本作で、パリ・セーヌ川に浮かぶ、精神疾患のある人々を無料で迎え入れる船上のデイケアセンター<アダマン>を追ったニコラ・フィリベール監督が、100時間におよぶ撮影映像を1本の映画にするまでを語った。


>>『アダマン号に乗って』あらすじ&キャストはこちらから

第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で俳優クリステン・スチュワートら審査員たちが最高賞・金熊賞を贈り、「人間的なものを映画的に、深いレベルで表現している」と賞賛された本作。手掛けたのは、世界的大ヒット作『ぼくの好きな先生』(02)で知られる、現代ドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督だ。

アダマン号の人々が寄り添い生活する時間を捉えた本作。ニコラ監督は、膨大な収録テープから、やがてベルリン映画祭金熊賞を受賞することになる1本の映画を作った。ニコラ監督に制作の背景や、フランスでの映画事情、また日本映画について伺った。


「ドキュメンタリーの分野ひとつを取っても、スタイルは多岐にわたる」


Q撮影期間は7か月間に及び、約100時間分も撮影されたそうですが、この場面は使う、使わないという最終的な選択を行なった、その判断基準は?

監督確かに撮影期間そのものは7か月でしたが、幸いなことに毎日撮影したわけではありません。100時間の収録映像というのは、それだけでかなりの量ですから。7か月間毎日撮影していたら300時間とか500時間の収録になっていたかもしれません。撮影しすぎても意味はありません。

そして質問の後半部分に答えるのは難しいですね、まず、撮影がうまくいったので他よりも使いたくなる場面がありました。その場面の中で語られていることが、他の場面より興味深かったということもあります。選別にはそういう理由もあります。

しかし、私にとって編集というのは、音楽とも言えるような作業です。音楽、というのは、そこに音楽があるというわけではないですよ、ただ、選別をして編集するという作業が私にとって、音楽に極めて近いという意味です。

速度が速くなったり、盛り上がったり、静まったり、こういう動作をしているだけでも、ちょっと、オーケストラの指揮をしているみたいでしょう。

編集というのは瞬間瞬間の連続で、そこに一定のリズムが生まれてくるんです。リズムはとても重要です。声のトーンも重要ですし、視線も重要です。環境、光、音響、音もとても大切です。編集はそういったものすべてです。ただ、ひとつのメッセージがあって、何かがそこで発表されて、観客が理解しなければいけないことがそこにあるというわけではありません。それよりもずっと繊細でデリケートです。

Q患者さんの何人かは、映画がとても好きなんだということが伝わってきます。フランスでは映画というのは、芸術的活動として、または娯楽として、かなりポピュラーなものなのでしょうか。

監督フランスの文化において映画というのはとても重要な位置を占めています。フランスは多くの映画を制作していますし、多くの映画を観ています。またフランス人は映画館に足を運ぶことが多いですね。

もちろん、様々な配信サイトなどにより、映画やドラマシリーズなどがより個別化した形で見られるようになり、映画館は弱体化しています。映画館は今、少し危機的な状況を迎えているんです。それでも、多くのフランス人が今も、映画館に行っています。

私たちが生きているこの世界についていろいろ考えさせてくれるから、映画を観に行くという人もいるでしょう。社会とか、私たち自身、人間というものについて考えさせてくれるから、と。この地球を脅かしている危険について、いろいろと警戒を発してくれるということもあるでしょう。映画はそうしたもの全てなんです。形式的な面では、アニメもあればドキュメンタリーもある、そしてフィクションもあります。それぞれのカテゴリー内に、あらゆるアプローチの仕方、あらゆるスタイルがあります。

ドキュメンタリーの分野ひとつを取っても、スタイルは多岐にわたります。語り口もそれぞれ異なっていますし、映画への取り組み方も異なっています。そういう多様性が美しいですよね、大切なことだと思います。映画は、他の人との出会いを促してくれるものです。

私も、日本を訪れる前に、日本映画をたくさん観ました。そのおかげで日本人のメンタリティーとか日本社会について、学ぶことができました。ヨーロッパのそれとはかなりちがうものです。伝統もそうですし…日本映画を通じて、日本についてとても多くのことを学びました。映画は、そういう意味で私たちの視野を広げてくれます。

Q日本の映画で好きな作品はありますか?また好きな監督は?

監督日本映画の巨匠と呼ばれている監督の作品はたくさん観ています。たとえば、溝口健二、黒澤明、成瀬巳喜男、小津安二郎などです。より最近のものでは大島渚。最近のものも観ています。

一本だけ、と言われても、素晴らしい作品がたくさんありすぎて、とても絞れませんが、小津監督の『東京物語』とか黒澤監督の『赤ひげ』ですかね、これは本当に素晴らしい作品です。

あと、日本の狂気について語っている映画、黒澤明監督の『どですかでん』や、溝口健二監督の『赤線地帯』が好きです。好きな日本映画のリストは長くなりますよ。


「演説がしたくて映画を撮るのではない。観客の手を取って彼らをアダマン号に誘う」


Q今後、撮影してみたいテーマは?

監督ありますが、まだ先の話なのに、そういうことを話すのは好きではないので、ここではお話しません。また、私は「テーマ」で映画を撮る、ということはあまりしません。私にとって大切なのは「テーマ」ではありません。

アダマン号も、精神医療についての映画ではありません。精神医療が背景の映画です。このふたつは異なります。つまり、精神医療が行われている場で映画を撮りました。しかし、これについて、映画を撮ったのではありません。先ほども申し上げましたが、私は何か演説がしたくて映画を撮るのではない。確実なメッセージを伝えたくて、映画を撮るのではないんです。

私は、観客の手を取って、アダマン号に彼らを誘う。そこにはケアスタッフがいて、患者さんがいる。へえ、何がここで起きているんだろう? 何かおもしろいことが起きているぞ、となるわけです。生き生きとした精神医療がここで行われているみたいだ。ちょっとのぞいてみよう、と。

次の映画でも、私は同じようにどこか他の場所をのぞいてみたいという気になるかもしれません。その場所に観客を連れて行きたいと思うでしょう。精神医療の場かしれませんし、そうでないかもしれません。そこはまだわかりません。

『アダマン号に乗って』は4月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて公開。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《シネマカフェ編集部》

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