韓国でも大きく盛り上がった#MeToo運動から数年あまり、残された課題と連帯の様子を4つのテーマから追ったドキュメンタリー映画『アフター・ミー・トゥー』が9月16日(土)より日本公開される。
本作は、その名の通り「#MeTooのその後」を追ったドキュメンタリー。韓国の#MeToo運動とは、一体どのようなものだったのか。その背景と運動について、いくつかのキーワードとともに紹介する。
◆韓国でフェミニズムが“大衆化”したきっかけ◆
江南駅通り魔殺人事件(2016年5月)
2016年5月、ソウルの繁華街である江南(カンナム)駅近くの公衆トイレで、「女性だから」という理由で若い女性が見知らぬ男性に殺害された事件。その動機は「女性に見下されていたから」というものだった。この事件は、それまで抑圧された女性たちの思いが一気に噴き出す引き金となった。
女性たちは誰が襲われてもおかしくなかったことから、「#たまたま生き残った」とメッセージを発信。江南駅出口には、人々が哀悼のメッセージを付箋に残し、各地で追悼集会が開かれた。
◆韓国#MeToo運動の火付け役◆
現役検事がTVニュース番組でセクハラ被害を公開告白(2018年1月)
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2018年1月、検事のソ・ジヒョン氏が「JTBC」のニュース番組に生出演し、2010年に法務部の上司から性的嫌がらせを受けていたことを公開告白した。当時、別の上司に報告したものの逆に自分が懲戒処分を受けていたのだ。
アメリカの#MeToo運動に心を揺さぶられ、辛い経験を告白する勇気を出したというソ・ジヒョン検事は、多くの被害者たちに向けて「性暴力の被害はあなたの過ちではない」と語りかけた。現役検事による告発は韓国社会に大きな衝撃を与え、この後、様々な分野で被害を訴える声が上がり、韓国#MeTooがここから始まった。
◆韓国MeToo運動の主な出来事◆
(1)スクールMeToo(学内性暴力)
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韓国#MeToo運動の中でも大きく盛り上がったものの1つが「スクールMeToo(学内性暴力)」である。2018年、「スクールMeToo」は、その年に韓国社会で最も多くリツイートされた社会分野のハッシュタグとなった。
映画『アフター・ミー・トゥー』で描かれるソウル・ヨンファ女子高校では、かつて教師によるセクハラを告発した生徒が学校側から名誉毀損で告訴され、退学処分に追い込まれる事件があった。そのため、生徒たちは被害を告発できない状況が続いていた。
2018年、現役検事ソ・ジヒョンによる公開告白に勇気づけられた卒業生たちが声を上げられない在校生たちのために「性暴力撲滅委員会」を結成し、教師によるセクハラを告発。これを機に「スクールMeToo」がスタートする。その後、「スクールMeToo」は瞬く間に全国に広がり、2018年に告発された学内性暴力は100校を超えた。
(2)文化芸術界MeToo
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検事による公開告白後、すぐさま#MeToo運動が盛り上がったのが文化芸術界である。2016年頃から「#文化芸術界_内_性暴力」というハッシュタグ運動が起こっていたが、告発することによる二次被害を怖れて泣き寝入りせざるを得ない状況が続いていた。
2018年、ノーベル文学賞候補ともなった高名な詩人コ・ウンによる長年のセクハラ被害が告発されたのを皮切りに、国際映画祭で多数受賞経験のあるキム・ギドク監督(2020年死去)、著名な舞台演出家のイ・ユンテクら、“大物”とされる人物たちが次々と告発された。こういった告発を受けて、各界では対策委員会発足やセクハラガイドラインの作成、電話相談窓口開設などの対策を実施していった。
(3)女性たちによる大規模な連帯
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2018年3月、330余りの女性・労働・市民団体と多くの個人により「#MeToo運動と共にする市民行動」が結成され、性被害を語る集会や数万人規模のデモ、記者会見といった啓蒙活動をはじめ、社会変革のための様々な取り組みが行われた。被害者の性別によって偏った捜査が行われた事件や、元秘書へのセクハラで告訴された元知事が一審判決で無罪判決が下った際には、これに抗議する7万人もの女性たちがデモを行い(恵化駅集会)、史上最大規模のものとなった。
なお、映画化もされた小説「82年生まれ、キム・ジヨン」は2016年10月に刊行され、こうした流れの中で136万部ものベストセラーとなっている。
参考文献)
「#MeTooの政治学 コリア・フェミニズムの最前線」(大月書店)
「ハッシュタグだけじゃ始まらない 東アジアフェミニズム・ムーブメント」(大月書店)
〈資料提供:ストロール〉
『アフター・ミー・トゥー』は9月16日(土)よりユーロスペースほか全国にて順次公開。