「こんな吉田組は初めてだから面白い」撮影秘話
――その場で「変わる」「変える」という方法論は、吉田監督がテーマに掲げていたという「ドキュメンタリー的に撮る」にも通じますね。
中村:でもそれってなかなか難しいですよね。台本はあるわけだから。
石原:そうなんですよね。ただ、その意識も実は薄くて。というのも、セリフを必死に覚えよう、というものではなかったんです。台本がスッと肌に入ってくる感じがありました。
圭吾と車中で話すシーンがありますが、何回やっても全然うまくいかなくて。そうしたら吉田さんが元々あった長ゼリフを現場でバッサリ切ったんです。オリジナル作品で監督・脚本の両方を吉田さんがやっていらっしゃるからできることだとは思いますが、そのおかげで高まった部分を言葉にせずに感情だけで動けた感覚がありました。
中村:相当テイクを重ねたとは聞きました。
石原:少なくとも10回以上はやりました。
中村:そんなに!? あなたは本当に偉い。僕なら帰りたい(笑)。

――今回の撮影の中では、特に回数を重ねた方なのでしょうか。
中村:シーンによってまちまちでしたが、そうかと思います。ただ一方で、言われているように全体的に早撮りで、熱量といいますか塊肉のようなものをほぐして撮っていくには相当スピーディな方という印象です。
石原:そんな方がテイク数を重ねるということは多分私でてこずっているんだろうな…と申し訳なく思いつつ、でも決して諦めることなく付き合って下さって有難かったです。
中村:いやいや、客観的に見て全くそんな感じはありませんでした。吉田さんも初めて接するタイプの女優さんで、それが面白くて一緒に探りながらやっている風に見えていました。
石原:スタッフさんも「こんな吉田組は初めてだから面白い」とおっしゃっていて、でも自分はその面白さがわからなくて。自分は幸せだけれど、皆さんにご迷惑をおかけしてしまってすみません…と言い続けていました。
ちょっと話が変わってしまうのですが、倫也さんと一緒にお芝居をしていると“音”が聴こえないんです。セリフではなくて、人の音といいますか。抽象的な表現で申し訳ないのですが、青木さんだとすごく聴こえるのが倫也さんはそうじゃなくて、私も1回収まる感覚がありました。それは砂田を演じているのか、倫也さんだからなのか…今回は敢えてそうしていたんですか?
中村:そういう役だからという部分もあるし、人間的な部分もあると思う。基本的に準備はしないんだけど、どんな“質”でいくかだけは考えて現場に行くようにしていて、今そこに近い話をしてくれている気がする。
石原:無音なわけじゃないけど、何の音が鳴っているのかわからなくて、すごく独特でした。倫也さんがそういう風でいてくれたから、砂田と沙織里の関係性が生まれたのだと思います。

――演じていらっしゃる方ならではの“感覚”のお話、とても面白いです。
石原:でも、なかなかそうした感覚を共有する機会はなくて。いま初めて言いました。
中村:そうだよね。後輩にいきなり「いまの倫也さんの芝居、ドラム鳴ってますね」なんて言われたらビビっちゃうし(笑)。もしそう感じても、言わないほうがいいかなと思っちゃうよね。
石原:そうですね。ただ私個人の感覚として、基本的に役者さんは皆さん色々な音が鳴っている方が多い印象です。倫也さんはすごく珍しいタイプでした。
中村:なるほどなぁ。でも、僕も物事が数字に見えたりするときはあります。なかなか言語化は難しいですが、みんなきっとそうした色にしろ音にしろ何かしらの感覚があるんでしょうね。考えながら人と相対して、探りながら芝居しているわけですから。
石原:そうですね。倫也さんにわかってもらえてうれしいですし、ホッとしています。
■石原さとみ
ヘアメイク:猪股真衣子
スタイリスト:宮澤敬子(WHITNEY)
■中村倫也
ヘアメイク:Emiy
スタイリスト:戸倉祥仁(holy.)