『地下鉄〈メトロ〉に乗って』レビュー
ふだん何気なく乗る地下鉄が、タイムマシンのように過去や未来に連れて行ってくれたら。自分のルーツ、親がどんな時代を生き、出会い、そして知り得なかった事実をリアルに体験してしまったら…。ノスタルジックな想いを抱きつつ、実はかなりシビアな人間関係が描かれている『地下鉄〈メトロ〉に乗って』。
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主人公の長谷部真次は、傲慢で威圧的な父親と対立し家を飛び出した過去を持つ。ある日、ひょんなことからタイムスリップし、過去のさまざまな出来事を"現在"の自分の目線で体験していく。そこには、なぜか恋人・みち子も一緒にいた。なぜ彼女も、真次と同じように時空を超えることができたのか。複雑な東京の地下網のように絡み合ったそれぞれの人生が、思いもよらぬ結末をつむぎ出す。
親子の絆、普遍的な愛、そして自分自身の存在。作品をたとえるいくつものテーマが頭をよぎった。地下鉄に乗って、暗いトンネルに吸い込まれると、確かに異次元へいざなわれているような気持ちになる。光が射す地上よりも、地下のほうがファンタジーのイメージに近かったのかもしれない。舞台となった東京の永田町駅を利用することがあると、階段を上ったら別世界が広がっているかも…とフト考える機会が最近増えた。
《text:Shin Kumagai》
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