アカデミー賞ノミネート作品『ダーウィンの悪夢』フーベルト・ザウパー監督来日記者会見
多様な生物の宝庫であることから「ダーウィンの箱庭」と呼ばれるヴィクトリア湖。今から半世紀ほど前、大食で肉食の外来魚ナイルパーチが放たれてから、湖畔の町は一変。ナイルパーチの一大魚産業が誕生し、周辺地域の経済は潤う。しかし一方で、新しい経済が生み落とす貧困、売春、エイズ、ストリートチルドレン、ドラッグ、湖の環境悪化…ドミノ倒しのように連鎖する悪夢のような悲劇が生み出されていった。
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2004年ヴェネツィア国際映画祭での受賞を皮切りに世界中の映画祭で多数のグランプリを獲得、2006年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた『ダーウィンの悪夢』。オーストラリア出身のドキュメンタリー作家でもあるフーベルト・ザウパー監督が、11月8日(土)行なわれた来日記者会見で作品について語った。
「この映画は解決法を提示するために作ったのではありません。1人1人がジレンマの前にいて、それぞれに考えてほしいと思います。多くの映画作家同様に、私も問題の本質を見せて、その本質を観客に感じ取って欲しいのです。この映画を観た人は心が急いて、もっと知りたい、解決したい、誰かに伝えたいと思うでしょう。問題の本質を見せることでみんなの頭脳が解決に向かって作動します。頭脳というものは解決法が知りたいのではなく、解決法の模索をしたいのだと思います」
ナイルパーチを中心に話が進むが、そうでなくてもタンザニアは貧しいのではないかという批判について訊ねられると——「世の中にはポジティブなことが起こっていれば、その裏でネガティブなことが必ず起こっているのです。ポジティブな面の方が目に付きやすく、高級車を購入した人、ムワンザの街に建ったビルは目に付きます。でも、その陰で静かにエイズで死んでいく子供は見えないのです。そういった目に見えない部分——普通なら見えない、隠れているものを見せるのが仕事です。“悪いところを見せる”ではありません。自分が感じたことを見せたいと思っています」
魚を積んだ飛行機はヨーロッパや日本へ飛び、私たちの食卓へやってくる…。強大な資本主義が世界を覆いつくそうとする今、本作で情け容赦なく暴かれていく悪夢のグローバリゼーションは、決して遠い世界の出来事ではない。
《シネマカフェ編集部》
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