真実はどこにあるのか?『それでもボクはやってない』瀬戸朝香インタビュー
キリッとした眼差し、凛とした佇まい──女優、瀬戸朝香の放つ魅力を一言でいうと、女性が憧れるかっこいい女性ではないだろうか。TVドラマはもちろん『DEATH NOTE』、『BLACK NIGHT』など映画でも活躍をみせた2006年。そして2007年の正月第1弾、痴漢冤罪事件をテーマに日本の裁判のあり方を描いた社会派ムービー『それでもボクはやってない』では、新人弁護士・須藤莉子を演じている。周防正行監督が『Shall We ダンス?』以来、実に11年ぶりにメガホンを取ったことで注目を集めている話題作だ。
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TVドラマ「離婚弁護士II〜ハンサムウーマン〜」(2005年)ですでに弁護士役は経験済みだが、「専門的な台詞がたくさんある難しい役だと思いました」と脚本を手にしたときの印象を語る瀬戸さん。「撮影前に念入りなリハーサルがあったんですが、それでも撮影本番になると緊張しました。台詞の多い法廷シーンは特に。あんなに緊張したのは本当に久しぶりです」と容易い役ではなかったと振り返る。
本作の題材は痴漢冤罪。痴漢に間違えられて現行犯逮捕された男(加瀬亮)の悲劇を描いているが──。
「私自身は痴漢の経験がないので、最初はその辛さがなかなか実感として湧かなかったんです。でも、この作品の被害者の女子高生のように痴漢にあったら本当に怖いだろうし、自分で捕まえることはとても勇気のいることだと思います」。確かに痴漢はあるまじき犯罪行為ではあるが、この作品が面白いのは本当に被告人は痴漢をしたのかそれとも冤罪なのか…映画がすすむにつれて真相がどこにあるのか分からなくなっていくこと。事実を見極めることの難しさがみどころでもある。
「裁判で、一方はやってないと訴え、一方は怖くて泣いてしまう。被害者と被告との両方の表情が見えるので、すごく複雑な気持ちになると思うんです。私は女性なのでつい女性の目線(女子高生の立場)で事件を見てしまうこともありました」。そして、この作品の最大のテーマは裁判であると語る。「現在の日本の裁判の現状を伝えたいんです。見せ場である後半の裁判シーンには特に注目してほしいですね」。
「痴漢冤罪事件には日本の刑事裁判の問題点がはっきりとあらわれる」という役所広司が演じる荒川弁護士の台詞からも分かるように、普段のニュースからは見えてこない裁判の実状に唖然とする。そう、フィクションでありつつも今まで明らかにされてこなかったリアルな日本の裁判がそこにあるのだ。そのリアルに近づくために撮影前には痴漢の裁判を何度か傍聴し、役作りに挑んだという瀬戸さん。役を通じて理不尽に感じたことも多々あったと明かす。
「やっぱり警察や検察の対応ですね。本当に痴漢をしている犯罪者もいますから何とも言えないんですけど…裁判官の交替で被告人の状況が一変したり、刑事や検事のいい加減な対応にはやりきれなさがありました」。公平に裁かれるべき法律であっても実は人の感情に大きく左右される、というその事実に驚く。また、最初は被告人の無罪を確信できず疑問を持っていたが、徐々に無罪へと変わっていく須藤莉子の心情の変化もみどころだ。「痴漢弁護をやる気のない女性弁護士がどんどん成長していく姿、その表情を見てもらえたら嬉しいです」
冒頭でも触れたが、本作は周防監督の11年ぶりの新作。ある新聞記事に興味をもったことを発端に刑事裁判や痴漢冤罪事件について4年に及ぶ取材を敢行したという。そんな“完璧主義”と言える監督との仕事について感想を訊いてみた。
「すべてにおいて調べ倒さないと気が済まない方なんでしょうね。観客に少しの不信や疑問も持たせたくないというか…。驚いたのは、弁護士事務所の小道具1つとってもリアルであること。映っていないところまでしっかり作り込んであるんです。例えば、ファイルの中身とか。あそこまで徹底している現場は初めてでした」
監督が完璧であることは演じる側にとってプレッシャーだったはず。
「プレッシャーは大きかったですよ(笑)。専門用語が多いシーンはつい台詞を簡単に流してしまいがちなんですけど、言葉1つひとつを大切に演じたいと思いました」。この返答からも演技派女優としての新たな前進があったことが伝わってくる。
痴漢冤罪をテーマに暴かれる司法制度のあり方。真実はどこにあるのか、日本の裁判はこれでいいのか──この作品を観ると裁判はもちろん政治、社会に興味を持たずにはいられない! 驚愕の社会派エンターテイメントの誕生である。
《text:Rie Shintani / photo:utamaru》
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