映画にまつわるファッション小噺 vol.26 『パフューム ある人殺しの物語』の残り香は?
先日、ずっと気になっていた映画『パフューム ある人殺しの物語』をやっと観てきました。悪臭漂う18世紀のパリを舞台に、どんな匂いもかぎ分ける類まれなる嗅覚を持った男と、彼が持つ匂いへの執念が生んだ恐ろしい事件を描いています。これは、ドイツ人作家パトリック・ジュースキントの著書「香水 ある人殺しの物語」が原作。おぞましさと美しさ、荒々しさと繊細さが交差する独創的な物語は、今回の映画化に至るまでにいろいろと争奪戦に巻き込まれていたようですが。
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それにしても、目には見えない匂いの世界をあそこまでビジュアル化できるとは。もちろん匂いの中には、良い匂いと、臭い匂いとありますが、香水の芳しく華やかな様はそのように、当時のパリに満ち溢れていたという生ものの腐臭はそのように。実際、劇場に香りは漂ってはいないものの、まるでスクリーンの中と同じ空気を吸っているような気分になったものです。人は想像力と経験を組み合わせれば、目でも匂いを感じることができるのですね。
かつて、何かの映画で、スクリーンと連動し、実際に劇場に香りを出す装置を設置した劇場がありました。でも、この映画にはこういった“工夫”は不要。劇中の香りを感じるには、自分の想像力だけで十分なのですから。
天国にいるような香り、花畑のような香り、そして処女の香り…等々、さまざまな良い香りも登場しますが、ひとりひとりが自分の大好きな香りを思い浮かべながら観ると楽しいのではないでしょうか。ちなみに、私が大好きなのはラヴェンダーの香り。バラのように華やかではないけれど、瑞々しく清潔感たっぷり。映画にも、香水の世界的産地であるグラースのラヴェンダー畑が登場しますが、そのシーンにうっとり。前半に登場する、グロテスクなパリの様子と相対するように、後半には美しい田舎の風景が登場します。この世は、美しさと醜さが混在して作られているとでも言いたげに。純粋さと残酷さが綯い交ぜになった主人公自身もまさにそう。美しいものの作り手が、常に美しいとは限りませんし…。
そんな皮肉と混沌も、この物語の大切なテーマ。こんな皮肉と混沌に溢れた世界から、あなたはいったいどんな残り香を感じるでしょうか?
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