みんなゆるい糸でつながっている『幸福な食卓』石田ゆり子インタビュー
瀬尾まいこのベストセラー小説を原作に、ある家族の崩壊と再生を綴った『幸福な食卓』。「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という衝撃的な台詞で始まる本作で語られるのは、中学生の少女・佐和子の目線を通して見つめた家族のドラマだ。3年前に自殺を図った父親、その事件をきっかけに家を出て一人暮らしを始めた母親、大学進学を辞めて農業の道を選んだ兄——。そんなシリアスな要素が独特の穏やかな雰囲気でくるまれているが、母親を演じた石田ゆり子自身、最初は「原作の優しい空気感を映像に表すのは難しいんじゃないかと思いました」という。
「原作の一ファンとしては、映像にするのが怖いくらいだったんです。でも、家族のひとりひとりがすごく優しくて、優しさゆえに距離を置こうとし、ぎくしゃくしてしまう。そんな家族のドラマを演じてみたい気持ちが勝りました。あと、怖いといえば、中学生の子のお母さんならまだしも、20歳を超えたお兄ちゃんもいるお母さんを演じるなんて……という不安もあったんですけど(笑)」
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「原作の一ファンとしては、映像にするのが怖いくらいだったんです。でも、家族のひとりひとりがすごく優しくて、優しさゆえに距離を置こうとし、ぎくしゃくしてしまう。そんな家族のドラマを演じてみたい気持ちが勝りました。あと、怖いといえば、中学生の子のお母さんならまだしも、20歳を超えたお兄ちゃんもいるお母さんを演じるなんて……という不安もあったんですけど(笑)」
石田さん演じる“お母さん”、中原由里子は家族を心の底から愛し、絶えず見守っている。しかしながら、家から離れ、近所にあるアパートで暮らしているという複雑な役だ。
「ものすごく模範的なお母さんのようでいて、ぽっかりと穴が開いた繊細な女の子のようでもある。心に傷を負って家に帰れなくなっているわけですから、撮影中はやはり役を重く感じることもありました。また、この一家は家族全員が複雑で、それぞれが心に暗闇を抱えている状態でもあります。でも、家族の食卓というよりどころがあり、みんなバラバラなんだけど、ゆるい糸でつながっている。そういった空気感を出したかったし、それが作品の命綱だとも思いましたね」
この作品を語る上で欠かせないキーワード、“空気感”。それはどのようにして生み出されていったのだろうか。
「自然に生まれたんだと思います。実は撮影前に台本の読み合わせをした時、初めて家族役の4人が顔を揃えたんですが、“私たち全員顔が似てるね。家族に見えるね”って話になって……。北乃きいちゃんは私の娘に見えるし、羽場裕一さん(父親役)と平岡祐太くん(長男役)も何だか似てる。そう思いません?(笑) その時点でもう通じ合ってしまいました」
フワフワと優しく、温もりをたたえていながら、そこには現実を映し出しているという確かなリアリティもある。『幸福な食卓』は観る者の心にじわじわと、そしてしっかりと響いてくる映画だ。
「この映画に出演して、家族っていいものだな、温かいものなんだなと改めて感じましたね。私は22歳の時から一人暮らしをしているので、家族と住んでいた頃が懐かしくなりました。朝の食卓は映画の中の一家とは違ってバタバタしていましたけど(笑)。でも、この映画を観てくださった方それぞれが“家族っていいものだな”と思ってくれるのではないでしょうか。あとは、佐和子の物語ですので、彼女の視線を通して清らかな気持ちになっていただけたらいいですね」
最後のコメントは何だかお母さんぽいですね、と告げると、「やっぱりお母さん役だから、そういう視点になっちゃうのかな」と照れて笑う姿が素敵な石田さんだった。
《text:Hikaru Watanabe / photo:utamaru》
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