パリが魅せる、18通りの恋物語『パリ、ジュテーム』諏訪敦彦監督インタビュー
あるテーマをもとにいくつものショートストーリーを綴っていく短編集。最近の邦画でも『世界はときどき美しい』(全5話)、『ユメ十夜』(全10話)など個性ある作品がお目見えしたが、フランス映画『パリ、ジュテーム』はそれらを凌ぐ18のストーリーで構成されている。そして、驚くべきは名だたる監督・キャストが勢揃いしていること。『アメリ』のプロデューサー、クローディ・オサールの呼びかけでコーエン兄弟、ガス・ヴァン・サント、ウェス・クレイヴンといった監督たち、ナタリー・ポートマン、イライジャ・ウッド、スティーヴ・ブシェミといった俳優たちが集まり、1話5分という短い時間のなかにそれぞれのパリを表現したのだ。
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我が日本からは『M/OTHER』('99)の諏訪敦彦が参加。ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォーをキャストに迎え、パリ2区のヴィクトワール広場を舞台に、息子を亡くした母親の悲しみと愛を描いている。
「ヨーロッパではオムニバス映画の企画というのはそれほど珍しくはないんです。ただ、18組というのはあまり聞いたことがなかった。たった5分間で自分は何が表現できるんだろうという興味もありました。もともと僕はワンシーンを長く撮る方なので企画をもらったときは『5分なら1カットで終わっちゃうよね』なんて話をしてたんです」。そして、引き受けた一番の理由をこう語る。
「短編映画は初めてだったこと、人の作品と一緒に自分の作品が並ぶことに興味を持ったこと。また、今までリアリスティックな世界ばかりを描いていきたので、幻想的な世界に挑戦してみたかったという気持ちもありました」
18組の監督によって切り取られるのは、観光客の目線のパリではなく、生活者の目線から見たパリの姿。諏訪監督はどんな理由でヴィクトワール広場を選んだのだろうか。
「それがですね…正直に言うと僕の作品は2区でなくとも撮れたと思うんです。もちろん、2区はいろんな要素が詰まった面白い場所ではあるんですけどね。ただ、今回は場所を決めるよりもストーリーが先にできてしまって…。その物語に合う場所を探していったらヴィクトワール広場に行き着きました」
アンデルセンの童話「墓の中の子ども」を下敷きにしたほか、自分自身が子供の頃、カウボーイが好きだったこともアイディアとして取り入れたそうだ。
「広場に佇むルイ14世の騎馬像を見て子供たちはきっとその像を西部劇のヒーローと重ね合わせていたのではないかと思ったんですよね。アンデルセンの子供を亡くした母親の話は以前からひっかかっていたテーマ。ちょうどその頃、連日ニュースで流れていた津波被害もきっかけではありました。子どもを失った親はどんなことをしても子どもに会いたいもの。『自分だけ生きていてごめんなさい…』と、生きている自分を責めてしまうんです。でも、生き残ったことは決して罪ではないと、この短編で伝えたかったんです」
そんな監督のメッセージを代弁するのはジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォーという名優たち。
「この物語に出てくるカウボーイは西部劇のアウトローであり死神でもある。それを演じられる俳優は…と考えたときにウィレム・デフォーの名前が浮かんできたんです。知り合いの監督から彼の人間性は素晴らしいと聞いていたことも起用理由のひとつでした。そして、ウィレム・デフォーが母親役にジュリエット・ビノシュはどうかという提案してくれたんです」
最後に、この企画に参加した感想を訊ねた。
「個人的に嬉しかったのは、『カルチェラタン』(本作の中の1話)のジーナ・ローランズとベン・ギャザラに会えたこと。映画ファンとして、2人が芝居をする姿を見ることができてとても感動的でした。5分の映画もやればできるものなんだなと思いましたが、やっぱり短いです(笑)」
“恋人たちのパリ”のようなロマンティックムービーとは一味違う街角にある出会い、別れ、喜び、悲しみを描いている『パリ、ジュテーム』。パリを旅してみたいというよりは、パリに住んでみたいと思わせる、そんな“小さな愛”がたくさん詰まった映画である。
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