「真のコミュニケーションを見いだそうとする映画」二階堂智『バベル』インタビュー
アカデミー賞などの賞レースを賑わせた『バベル』で、菊地凛子、役所広司と並んで注目を集めた日本人俳優がいる。二階堂智。それが彼の名前だ。モロッコ、メキシコ、日本で巻き起こる出来事がやがてひとつにつながっていくアンサンブルドラマで、二階堂さんは日本を舞台にしたパートに出演。菊地凛子扮する、ろうあの女子高生・チエコと関わる若手刑事・ケンジを演じている。通常の日本映画とは違い、役を得るまでにも長い時間がかかったそうだが、「だからといって嫌になってしまうようなことは全くなかった」と開口一番力強く言い切る。
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「オーディションが始まった頃は脚本の全部ではなく、日本を舞台にした部分だけ読ませていただいたのですが、すぐに引き込まれました。『バベル』は人と人のつながりをテーマにした映画ですが、相手に最も伝えなくてはならないことが最も伝えづらい。気持ちを伝えるには言葉だけではなく、眼差しなど、言葉以外のことも大切なんだ、と言われている気がしましたね」。
『21グラム』などを手掛けた鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥがメガホンをとることも、情熱を傾けた要因のひとつだという。
「イニャリトゥ監督の作品だからこそ、絶対に出演したいと思いました。監督の作品では、決して特別ではない、等身大のキャラクターたちの物語が描かれる。そこが好きですね。一番好きなのは『アモーレス・ペロス』。シーンの匂いまで感じられるような、五感を刺激してくるところに惹かれています」。
二階堂さん演じる刑事・ケンジも等身大のキャラクターだ。
「監督からは“イメージ通りだ”と言っていただいたんです。けれど、そのイメージがどういうものかはわからない(笑)。自分なりに構築していくしかなかったですね。ケンジは特に冷たいわけでもなければ優しいわけでもない、どこにでもいるひとりの男なんです。嫌らしい気持ちもあるし、かと言って無慈悲でもない。特別ではないキャラクターという意味では、やはり難しさはありました」。
愛や温もりの喪失を感じ、常に体当たりでそれらを渇望する女子高生・チエコはケンジに好意を抱き、肉体を捧げようとするが、彼は彼女を拒絶する。偽りのコミュニケーションではなく、真のつながりに希望を見出そうとする『バベル』を物語る重要なシーンだ。
「最も時間をかけて撮ったシーンでもあります。ケンジの中には、もちろんチエコと関係を持ってしまう選択肢もあったんです。揺れ動く彼を表現しながらも、ストーリーからはみ出さないようにするのが僕の役割だと思いました」。
一つ一つの質問にじっくり向き合いながら、言葉を絞り出すようにポツリポツリと語る二階堂さん。ただし、「『バベル』に参加して一番よかったことは?」と尋ねると、「『バベル』に参加できたこと自体です!」と素早い答えが返ってきた。
「まさに至福でした。カンヌ映画祭に出席した時は、誇らしささえ感じましたね。同時に“キョトン”ともしてしまいましたけど(笑)。ただ、生意気に聞こえてしまうかもしれませんが、“『バベル』だから”という特別な感覚はないんです。僕は与えられた状況に一生懸命取り組める役者でありたいし、一生懸命取り組める状況を自ら作り出せる役者であり続けたいですね」。
・cinemacafe.net SPECIAL『バベル』菊地凛子インタビュー 特集中!
衣装協力:DIESEL(ディーゼル)
問い合わせ先:DIESEL JAPAN(ディーゼル ジャパン)
大阪府大阪市中央区南船場3-12-9
TEL:0120-55-1978
スタイリスト:佐藤友美
《text:Hikaru Watanabe / photo:Yoshio Kumagai》
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