世界の映画館vol.09 バンコク「映画を観る前に立つべし!」
絵本作家の五味太郎氏がスリランカでワークショップを行っていた。僕も滞在中だったバンコクから合流して見学させていただく予定である。ワークショップを始める前に「学生たちが全員起立で国歌斉唱するんだよ」というスリランカの報告メールを読みながら、昼間行った映画館のことを思い出した。
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
バンコクの映画館では本編が流れる前に、タイの国民が大好きなプミポン国王の映像と共に国歌が流れる。何年か前に同じバンコクの映画館でトム・クルーズ主演の『宇宙戦争』を観たときも最初にプミポン国王の映像が流れていた気がする。実はその『宇宙戦争』を観た古い映画館を探していた。しかし結局、見つけることができなかった。疲れ果ててしまい新しいシネコンの中に入り、ちょうど始まりそうな映画を選んで窓口で120バーツ(400円程度)を支払う。
席についたときにはすでに場内は暗くなっていた。スクリーンにはプミポン国王が映し出される。周囲は立ちあがったのだが、僕は座ったままだった。長い時間、歩き続けていてクタクタだったこともあるが、一番の理由は重心をかけると勝手に倒れていく半自動タイプのリクライニングシートの気持ちよさのせいである。埋まっていくように倒れていき、再び立ちあがる気力をなくしてしまった。周囲の若いカップルも、少々、ヤンキーの匂い漂う若い男性もみんな立っている。“日本人の若者では考えられないなあ”と感心しながら、当の自分は不謹慎にも国歌が終わるまで座ったままだった。
それにしても現在バンコクには、きれいな映画館が多い。繁華街の映画館は、ほぼシネコンだけと言ってもいいかもしれない。特にセントラルワールド周辺には少なくとも4館のシネコンがある。ひょっとすると、以前観た古い映画館もこの波に飲まれ、ロビーひとつに対して映画ひとつという上映スタイルは効率が悪いと取り壊されていったのかもしれない。
しかし、いくら新しくなっても、本編の前に国王の映像を流す風習だけは残っていくのだろう。
(text・photo:ishiko)
《シネマカフェ編集部》
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