「オレの売りは“外国では評価が高い”(笑)」世界のキタノ『アキレスと亀』を語る
先日開催されたヴェネチア国際映画祭でも高い評価を受け、いよいよ公開となる北野武監督最新作の『アキレスと亀』。絵を描くことが好きで、絵を描くことでしか気持ちを表現できない主人公・真知寿を少年期、青年期、中年期に渡って描いた本作について、人生におけるアートの意味を北野武監督が語った。
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「オレの売りは“外国では評価が高いけど日本では入らない”(笑)」
前々作の『TAKESHIS'』、そして前作の『監督・ばんざい!』と監督・北野武は迷っていたように思う。『監督・ばんざい!』でインタビューしたときには、「新しい“映画に対する概念”が分かった」と言っていた。
「本当のこと言うと、オレ全然迷ってないの。オレの監督としての売りは“外国での評価は高いけど、日本では入らない”だから。なまじ入っちゃうと困るんだよ(笑)。だけど、そんなにお客が入ってないわけじゃないんだよ、言っとくけど(笑)。ただ面白いのは、これはお笑いでも言えることなんだよ。漫才師ってのは演芸場じゃ人気はあるけど、テレビじゃ人気はない。例えば、たけしはライヴやらせたら面白いけど、TVじゃおとなしい、みたいな。どっかに良いところを作っておいて、一番大事なところで売れないというのがおいしい(笑)。オレの映画もそういうことだと思ってる」。
さすが“世界の北野”と言うべき、何ともすがすがしい言葉である。しかし、今回の『アキレスと亀』には、これまでの北野作品にはない、孤独な男の人とのつながり、そして微かな愛が感じられるパートナーが登場する。
「真知寿はさ、子供のときに親や周りから画家になれって言われちゃった子でね、自分の意思がないんだよ。知らないうちに画を描くことしかできなくなっちゃって。ところがお家騒動でヒドイ目に遭って、自分の心に対する忠実さがなくなるんだよ。だから画商に画を批判され、アドバイスされればすぐにそれにのっかっちゃう。かみさん(樋口可南子)だって、良いかみさんなのに、初めは道具としか思ってなかったんじゃないかな。でもそのかみさんがいなくなってからおかしくなるんだよ。そこで初めて孤独であることに気づく。それは本人だけが悪いんじゃなくて、芸術とか環境が悪い。そういう残酷な話でもあるんだよね、実は」。
「アートに携わって、なおかつ生きてるなんて言うことナシ」
「芸術は麻薬」と言い切る監督。では、監督にとってアートとは?
「やっぱりアートと言われるものって麻薬に近いんだよね。映画の中でもちょっと言ってるけど、貧しいアフリカの子供たちは絵なんか描かないからね。水飲むのと、飯食うのとで精一杯で。人が生きる上で、アートって二番手だから。それ考えるとアートに携わって、なおかつ生きてるなんて、言うことナシ。だから、アートをやっていれば充分、という結論で、ましてや売れるとかそういうことなんて図々しい。宝くじに2回当たるようなもんだからね」。
劇中、多くの絵が登場するが、それらは全て北野監督の手によるもの。「暇に飽かせて描いた絵がたくさんあるから、それを映画で使おうと思った」と笑う。これだけの点数があれば、映画に使うだけではなく、ほかの使い道もあるだろうに、そう簡単には首を縦に振らない。
「何かやるときは絵だけじゃなくて、総合的にやりたいんだよ。絵だけだととてもじゃないけどもたないから。だから、絵の横にオレが出たお笑い番組の写真を並べるとか、ヤクザになって撃ち合うとか、そういうむちゃくちゃなことだったらやりたいけど、北野武の絵でございます、観てくださいなんて、とても恥ずかしくてダメだね(笑)」。
『監督・ばんざい!』の頃には“引退説”も出た(らしい)北野監督。でもそれは監督ならではのギャグだったようで…。
「引退、引退って言うとね、みんな急いで観なきゃと思うんじゃないかと思って作戦練ったんだけど(笑)。いるじゃん、死ぬ死ぬって騒いでなかなか死なない奴。TVだって止めるって言えば視聴率が上がるんじゃないかとかね。これであと20作くらい撮ってたら『またかよ!』って言われるかな。100歳近くまで撮ってる人いるでしょ? あれやってやろうと思って」。
現在61歳。20作どころか、30作くらい作れるのでは? 作品ごとに違う顔を見せる北野監督の次の顔はどんな顔なのだろうか?
(stylist:市村幸子/hair & makeup:海野善夫)
《シネマカフェ編集部》
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