「女性ものの着物を着て、激しいアクションの中に美を」中村獅童『ICHI』を語る
ジェームズ・キャメロンのもとで『タイタニック』のVFX(視覚効果)に参加し、日本でもVFXスーパーバイザーとして数多くの映画でその手腕を発揮してきた曽利文彦。斬新な映像で話題になった初監督作『ピンポン』から6年──彼が満を持して放つ実写映画は、勝新太郎主演による26本のシリーズや北野武によるリメイクで知られる日本人の愛すべきダークヒーロー“座頭市”である。だが3代目座頭市を描く『ICHI』がこれまでと異なるのは、座頭市を女性が演じているということ。綾瀬はるかというミューズを迎え、新しい座頭市を生み出したのだ。そこで、市と対決する町荒らしの万鬼を演じる中村獅童に映画の魅力を語ってもらった。
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「時代劇や歌舞伎の魅力を伝えることが自分の役割」
「やっぱり『座頭市』は僕にとって特別な存在ですね」。その言葉には勝新太郎への畏敬と新しい切り口で時代劇を作った曽利監督への賛同が込められている。
「これだけ時代劇が衰退している中で、若手の役者を使って新しいスタイルの座頭市を作ることはとても意味があると思う。いまの若い世代が時代劇や歌舞伎に興味を持ってくれなければ、いずれ消えていってしまいますからね。その魅力を伝えることが自分の役割だと思うんです」。歌舞伎役者として、映画俳優として、また今年は『R246 STORY』で監督デビューを果たすなど、多方面で活躍する彼ならではのコメントだ。
そんな中村獅童の人生に大きなチャンスをもたらしたのは、6年前にオーディションで勝ち取った『ピンポン』のドラゴン役。だからこそ今回の万鬼役は「引き受ける理由は監督が曽利さんだということだけで十分だった」と語る。
「僕にとって『ピンポン』に出会えたことが転機でした。曽利監督が実写で映画を撮ると聞いて参加したい、微力ながらも恩返しをしたいと思ったんです。それまで無名だった中村獅童の名を世に出してくれたのは『ピンポン』で、それを機に映画やドラマに出られるようになったんですから。もちろん窪塚くんとの再共演も楽しみでしたね」。
万鬼という男は極悪人でありながらもどこか悲しみを背負っている男。演じるにあたって心がけたことはあるのだろうか。
「ただ単に憎々しい、悪々しいだけではない、傷付いた孤独感を持った男の一面が出せるようにという話を監督としました。でも不気味な恐さを表現するにあたっては、恐さを見せようとするのではなく、世の中に対して真正面を向けない後ろめたさやコンプレックスを根底にしているんです」。
「万鬼の魅力はアウトローの色気に尽きる」
過去にはTVドラマでアウトロー的なヒーロー・丹下左膳を演じているが、実際のところ正義の味方と悪役のどちらがタイプなのか尋ねてみた。
「正統派ヒーローも演じたいけれど丹下左膳のような一癖ある方が個人的には好きですね。万鬼の魅力? アウトローの色気に尽きるんじゃないですかね。真っ直ぐじゃないどこか屈折した感情っていうのかな。あとは強さ。万鬼は自分が一番と信じて疑わない男なんです」。
そして信頼を寄せる曽利監督の素晴らしさは「映像美と迫力」にあり、監督のこだわりが演じる側の美に対する意識を奮い立たせるのだという。
「激しいアクションの中にも美を取り入れる姿勢、衣裳のなびき方にも美しさを追求する緻密さが曽利監督ならではの演出。それは万鬼の衣裳にも言えることで──実はものすごく動きにくい衣裳なんですが、その分、殺陣のときに美しくなびく。あえて女性ものの着物を選んでいるという点も曽利監督の細かい計算ですね。僕自身もこういう色が映えるんじゃないかと自分なりの意見を出しました」。
また、意外だったのはほとんどがロケやオープンセットでの撮影だったということだろうか。VFXを得意としながらも本物にこだわり、当初CGで作る案もあった万鬼が根城としている洞窟も富士山の近く駒門風穴(こまかどかざあな)で撮影を行ったのだとか。
「そうなんです、VFXの監督ではあるけれど今回はそれを見せつけるような映画ではないんですよね。そのうちロケをしなくてもCGで簡単に撮影できるような時代がくるだろうけれど、その場所に行かないと映し出せない何かが必ずあると思う。本物であることに大きな意味があると思うんです。洞窟のシーンは寒くて大変でしたけどね(笑)」。
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