『スター・トレック』エリック・バナ、ヒュー・ジャックマンほど上手に歌えない?
意外なほど、悪役が似合っている。実際に会ってみると、柔和な笑顔を浮かべているこの人が、劇中で復讐という業火に身を焦がし、憎悪の表情を浮かべていた男だとはにわかには信じがたいのであるが…。『ミュンヘン』を始め、数々のハリウッド大作に出演し、日本でも高い人気を誇るエリック・バナ。鬼才J.J.エイブラムスが『スター・トレック』を新たに構築するに当たって、USSエンタープライズ号の前に立ちはだかる“悪役”キャプテン・ネロ役として指名したのがエリックだった。本作で見せた見事な“変身ぶり”について話を聞いた。
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「好きになってもらわなくてもいいから、ネロが背負う背景を理解してほしい」
「悪役ではあるけれど、人間的」——。それがエリックがキャプテン・ネロというキャラクターに対して抱いたイメージだった。復讐心をたぎらせ、極悪非道な作戦を敢行するネロだが、エリックは、その裏にある哀しみを説く。
「彼は相当な悪党ですが、決して最初から悪の道を歩んでいたわけではなく、きっかけがあって道を踏み外していくわけです。そこには悲劇的としか言いようのない事情が横たわっており、人間臭さを感じましたね。だから、観客のみなさんには、決して彼のことを好きになってくれなくてもいいですから、彼がなぜ悪の道へと堕ちて、こうした計画を企てるに至ったのか、その背景を理解してほしいと思います。役作りに関しては、最初に話をもらった時点で、破綻がなくきちんとキャラクターが出来上がっていたので、脚本の完成を待ちながら、ネロの歩き方や声色といった部分を考えました。それから、J.J.とも話し合いながら、徐々に彼のバックストーリーを膨らませていったんです」。
エリックが演じたロミュラン人のネロ、そしてザッカリー・クイント扮するバルカン星人と地球人のハーフであるスポック、さらには地球出身のそのほかの登場人物も含めて、本作では“故郷”の存在が重要な意味を有している。常々、故郷・オーストラリアへの強い思いを口にしているエリック。物語を貫くテーマについてこう語る。
「確かに、この物語に流れている普遍的なテーマと言えると思います。故郷や自らのルーツに対する誇りは、誰もが共感できる要素です。ましてや、故郷を離れて暮らしている人々ならなおさらね」。
近年のオーストラリア出身の俳優陣のハリウッドでの活躍については…
キャプテン・ネロは物語を通じて登場するものの、主人公のカーク(クリス・パイン)やスポックとの共演シーンは、クライマックスシーンの一部のみ。気持ちを作っていく上で、エリックもそこに難しさを感じたようだ。
「USSエンタープライズとネロの乗る軍用機。この2つの宇宙船が全く別の2つの世界を象徴しています。同じ映画であるにもかかわらず、展開される物語は2つの宇宙船で全く異なるわけです。エンタープライズで何が起こっており、みんながどのような演技をしているのか、僕には全く分からず、それは僕にとってチャレンジでした。最後の戦いを前にして会ったときは、ほぼ初対面でしたが、監督は僕らを信頼してくれました。僕の方は、クリスの演技と自分の演技がマッチすることをただ、祈っていたよ(笑)」。
先ほど少し故郷に関する話が出たが、近年、エリックを始め、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウにケイト・ブランシェットなど、オーストラリア出身俳優のハリウッドでの活躍がこれまでになく目立つ。こうした動向をエリックはどのように見ているのだろうか?
「エキサイティングな時代だよ。正直、オーストラリアの映画業界は決して幅広いとは言えません。こうした動きの裏には、何よりまず、生きるために外に出ざるを得ないという現状があります。とは言え、こうしてオーストラリア出身の俳優が活躍する機会に恵まれるというのは大変嬉しいことであり、刺激にもなっています」。
ではエリックもいずれ、今年のヒュー・ジャックマンのようにアカデミー賞の司会を目指す?
「うーん、僕は彼ほど上手には歌えそうもないな(笑)」。
《シネマカフェ編集部》
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