【シネマモード】キャメロン・ディアスが着る、70年代という必然性『運命のボタン』
「風が吹けば桶屋が儲かる」や、「ある場所で蝶が羽ばたくと地球の反対側で竜巻が起こる」とされるバタフライエフェクトが表しているように、物事には、常に結果がつきものです。互いに関連のなさそうなことであっても、実は影響しあって世界が成り立っていることを示す言葉ですが、洋の東西に関係なく、人間って同じ事を考えているものですね。
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上の二つの言葉では、自然現象という人間にはどうすることのできないことが例になってはいますが、人間の行動だって同じこと。とはいえ、何か行動を起こすときに、先の先、その先の先までを見越して責任を持とうとするのは難しいものです。でも、せめて予測できる範囲で、人に迷惑をかけないようにしたいもの。ただ、とあるボタンを押すと、どこかで見知らぬ人が死んでしまうのだけれど、100万ドル(約1億円)がもらえるとしたらどうでしょう。強く「NO」と言える人は幸せです。でも、『運命のボタン』の主人公・ルイス夫妻のように、そのオファーの直前に、精神的な打撃と経済問題が浮上していたら、「知らない人なら…」と思ってしまう可能性も否定できないのかもしれません。例え、一瞬であっても。
人は、何かを行うとき、手応え、感触というものを頼りに生きています。人をあやめるということについても、相手に近づき、その感触を直接感じてしまう刃物を使うより、遠くからパンと打つ拳銃の方が、実感が薄いという恐ろしい話を聞いたことがあります。そう考えると、ボタンを押すという行為で、人を死に追いやるという実感を持てる可能性はいかばかりか。しかも、相手は見ず知らずの人で、その場所にいないとなれば、「ま、いいか」となるのが極めて利己的な生き物=人間の本性というものなのでしょうか。
この『運命のボタン』という映画で、人間心理とともに恐ろしく感じられたのが、ボタンを押すだけで何でも実現する現代を揶揄しているところです。舞台は1970年代なのですが、現代はあらゆることがボタンひとつで出来てしまう社会。何をするにも“実感の薄い社会”と言えるかもしれません。原作であるリチャード・マシスンの短編を豊かに膨らませ、本作を監督したリチャード・ケリーはこう話しています。
「僕が原作に魅かれたのは、1970年に発表されたにもかかわらず、僕らがいま住んでいるような“ボタンを押すことで、すぐに満足を得られる複雑な社会”が描かれていることだった。いまの時代、携帯、TVのリモコン、コンピュータは当たり前だ。そして僕らは楽々とボタンを押して、大小に関わらず問題を解決し、必要を満たしている。結果や悪影響をあまり考えずにね。でも、この物語の舞台となった30年前は違う。だから僕は、最初に原作小説が出版された1970年代をそのまま舞台にしたかった。そうすればノーマとアーサー(主人公)は、考え抜いて行動を決めなくてはならないからね」。
ボタンを押して満足を得る。そんなことにまだまだ不慣れだった時代だからこそ、人間の葛藤が浮き彫りになるというわけです。そんな葛藤を通して、人間の本質、愛など、複雑な感情を表現した作品ですから、観ていても真っ先にファッションなどに注意が向くわけもないのですが、 監督がこだわった70年代性は、劇中に登場するインテリア(ペドロ・アルモドバルの作品を思わせる)やファッション(スポーティかつエレガントな)に色濃く反映されています。70年代という必然性を投影した演出のひとつとして、主演のキャメロン・ディアスが身につけるファッションも重要な役割を果たしているのです。
キャメロンが演じているのは、高校の国語教師。70年代の教師ですから、そのスタイルはいたってシンプル。タイトなセーター×パンツ、ニットのフレアスカートワンピース、スカート(しかもロングフレア)とベストのツーピース×ややパフスリーブぎみの白いブラウスなど、真面目といえば真面目です。そこに、ちょっとした変化をつけ、しかもより70年代感を味付けしているのが、大ぶりで長めのスカーフ。フライトアテンダントのように、首にさらりと巻きつけるだけで、ぐんとファッション性を高めています。さらに気になったのが、マキシ丈の赤いコート。スカート、パンツのどちらにも合わせられ、ボトムスの丈を選びません。さらに、下にどんなファッションを身につけていようと、このコートを羽織るだけで、まるでドレスを着ているかのように裾がひらりひらりと揺らめいて、とてもエレガントなシルエットに。今夏は、マキシ丈のワンピースが流行りそうですから、このシルエットや重ね着の感覚、ちょっと参考にしてみてもいいかもしれないですね。とこのように、とかく凝り性な監督の作品ですから、小道具、大道具もなかなかいい味出しています。物語を楽しんで、ちょっと余裕があったなら、美術や衣裳にも目を向けてみてくださいね。
《シネマカフェ編集部》
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