オスカー候補最後の一作に秘められた希望 『ウィンターズ・ボーン』が描く「現実」
2011年のアカデミー賞で、『英国王のスピーチ』や『ソーシャル・ネットワーク』と並び作品賞候補として選出された10本の傑作映画のうち、最後に残された一本がまもなく公開となる。極めて小さな予算でつくられたインディペンデント作品にして、各国の映画賞を総なめにした『ウィンターズ・ボーン』である。
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舞台は先進国「アメリカ」のイメージからは想像しがたい、ミズーリ州南部のオザーク山脈が広がる山村。この街で、一家の大黒柱として母、そして幼い弟と妹の世話をする17歳のヒロイン・リーは頭を悩ませていた。ドラッグ・ディーラーで収監された父親が、自宅と土地を保釈金の担保に入れ、姿をくらましたのだ。父親を探し出さないと、明日の家族の居場所が取り上げられてしまう。意を決したリーは父親さがしの旅に出るのだが、彼女の前には危険極まりない世界が立ちはだかることとなる——。
まずもって観る者を迎えるのは、こんな現実があるのか、という衝撃。ただ、父親の居場所を知りたいという目的で、無防備にも聞き込みを始めていく少女・リーを村の大人たちは問答無用に追い返し、言葉と暴力の恐怖をもって彼女の父親探しを禁ずるのだ。なぜか? そこに、この村の「掟」が大きく関わることになる。まさに、出る杭は打たれる、そんな社会の中にもし自分が放り込まれたら…と想像するだけでも打ちのめされそうになるが、その中でたった一人の少女がいかに自分の道を切り開いていくのか、というところに観る者は釘づけとなる。
少女・リーが背負っている使命はあまりに大きすぎ、彼女の行動の代償は彼女自身が想像する以上に大きい。それでも後戻りをすることを選ばず、敢えて危険に挑む彼女の強さはどこから来るのか、何が彼女の原動力となっているのか。彼女が見せる不屈の魂、そしてこの厳しい環境の中で否応なく芽生えていく野生的な生命力に、観る者は衝撃と共にひとつの希望を感じさせられ、それは深い余韻として残っていく。『ブラック・スワン』でナタリー・ポートマン扮する主人公のバレエダンサーが内に秘めたもう一人の自分を追求していくのであれば、リーは外の世界に自らの隠れざる強さを発見していくヒロイン。南部のアクセントを自分のものにし、もちろんノーメイク、撮影前には一週間髪も洗わなかったという役作りで挑んだ20歳の新鋭、ジェニファー・ローレンスが魅せる、等身大の少女と一言では片付けられない「リアル」をぜひ目の当たりにしてほしい。
『ウィンターズ・ボーン』は10月29日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開。
特集『ウィンターズ・ボーン』
http://www.cinemacafe.net/ad/wintersbone/
《シネマカフェ編集部》
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