椎名桔平インタビュー「ただワイルドに攻めるだけじゃない」“大人”の男のアプローチ
この男の凄みはどこから来るのか? インタビュールームに現れたときも椎名桔平の体からは相手を窒息させるような圧倒的なオーラがみなぎっていた。かと思えば、イスに座った瞬間、「お茶いかがですか?」とフワリと優しい笑顔を浮かべて場の空気を一変させる。俳優という生き物が持つ、相手をぐいぐいと自分の領域に引きずり込んでいく不思議な力を見せつけられた感じだ。7人ものワルがずらりと並んだ映画『ワイルド7』でも椎名さんは多くの言葉を発することなく、ほかのメンバーとはまた一味違った存在感でセカイという男の物語を語っている。その心の内にどんな思いが——? 映画の公開を前に話を聞いた。
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凶悪犯罪に対抗すべく極秘裏に組織された元犯罪者による超法規的組織“ワイルド7”。悪をもって悪を制すという斬新な設定で、原作漫画は1960年代から70年代にかけて人々を熱狂させた。64年生まれの椎名さんもそんな読者のひとり。「こういうタッチの漫画って当時はあんまりなかったですね。バイクに乗って、スタイルのいい美女が登場してとにかくシャレてた。大人になったらこういうかっこいい大人になりたいって子供ながらに思ってました」と懐かしそうにふり返る。実は、椎名さんと原作者の望月三起也には意外な接点が…。
「先生が作ったサッカーチームでJリーグが始まる以前から活動している“ザ・ミイラ”という芸能人チームがあるんですが、僕はそこに20代前半の学生の頃から参加してるんです。当時もたまに『ワイルド7』の話が出て、『映画化したらキミが飛葉(※本作では瑛太が演じている主人公)をやればいいじゃないか』なんておっしゃっていただいたり(笑)。それから四半世紀を経てこうして映画化されて、その中のメンバーをやらせていただけるというのは本当に感慨深いです」。
「いまの時代にあの原作をどう映画化するのか興味があった」と椎名さん。『海猿』シリーズの羽住英一郎監督によるこれまでの邦画のスケールを超えた大迫力のアクションの数々が目を引くが、一方で羽住監督が趣向を凝らして作り上げた“映画的技法”についても称賛を贈る。
「2時間で描く中で、ワイルド7が直面する事件と彼らの存在意義といった部分をどういうバランスで集約させるかというのは難しいところ。そこを監督は絶妙のバランスで構成していると思います。それは説明の一部を省くということでもあるんだけど、映画というものの良さは説明せずに観る人に想像してもらうところ。あえてメンバーの関係性や彼らが背負っているものをここで説明しないことが彼らをミステリアスな存在に仕立てているんです。『ここまで説明しなくていいのかな?』と思いながら演じていた部分もあったけど、なかなかどうして、それぐらいがちょうど良かった。映画の特性を生かした作品になってると思います。その中で僕が演じたセカイは、いま最も希薄になっている“家族愛”といった部分を描く大事なパートを担ってたので、ただワイルドに攻めるだけじゃない側面を意識しながら存在するというところで、楽しませてもらいました」。
ワルたちを揃えたワイルド7の中で、椎名さんが演じたセカイは“大人”として飛葉(瑛太)やパイロウ(丸山隆平)といった若いメンバーを少し後ろから見守るような立ち位置にいるキャラクター。30代の頃のやんちゃで尖った役柄を好演していた椎名さんの姿に衝撃を受けたファンは、ある種の感慨を抱くのではないだろうか? 「まあ僕も47ですからね」と静かに笑みを浮かべ、こんな思いを語ってくれた。
「確かに僕自身の変遷で言うと、俳優としてスタートした頃からやんちゃでファナティックと言えるような役が多かったし、そういう役を喜んでやっている自分がいました。でも年齢を重ねる中で、サッカーで言うなら前線でシュートを決めるポジションから、ちょっと引いて全体や流れを見るような役回りも増えてきた。そういう役割を担うようになって初めて、そういうポジションを務めることの重要性にも気づかされるようになったというのはありますね。ただ、自分が変わったというわけでもないですね。これまでも真面目なサラリーマンからおバカなコメディの役までやってきたし、そういう中でいろんな見方ができるようになってきた。元々『自分はこういう役だけでひたすらその世界を突き進む』という意識は毛頭なかったし、いろんなジャンルでいろんな役柄をこなして、その一つ一つが“何か”になって自分のバランスを作ってるんだなと思います」。
「若いときは四十幾つなんてずいぶん大人で何でも分かってると思ってたけど、実際に自分がその年齢になってみて、いまだに第一線で現役バリバリで活躍されている先輩を見ると、まだまだだなって日々思わされますよ」。そう語るこの男の目はかつての“尖った”30代の頃と変わらない。その一方で年齢を重ねたことで、確実に意識の片隅には自分より若い世代や映画界の“これから”についての思いも…。
「もちろん『まだまだです』と言ってても、いつまでやれるか分からない年齢になってきましたからね(笑)。これまで素晴らしい輝きを見せる先輩たちを数多く見てきたけど、役者が最も良い輝きを放つ時期というのは決して長いわけじゃないと思うんです。そういう芝居がどういうものかって口では表しにくいけど、本当に役として存在する気迫とでも言うのかな…。僕もそういう役が回ってきたときにそうありたいし、それをお客さんや若い世代に見てもらって『そういうアプローチもあるんだ』と受け止めてもらえるように継承していかなくちゃいけないだろうとも思う。そういう先輩たちが遺してくれた作品を時間があるときにふと見直すとすごいなと思うし、『お前、慣れてきてるんじゃないか?』と自分を見直すきっかけになりますよ。良い映画は観る人に問いかけてきますね」。
道はまだ続いている。その熱と共に男がそこに刻みつけてきた思いを受け止めてほしい。
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