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『リンカーン』大御所たちが座談会! スピルバーグはロケ最終日に「泣いてしまった」

ハリウッドの巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が12年間の構想を経て、アメリカ史上最も愛された大統領を描いた感動作『リンカーン』。主演のダニエル・デイ=ルイスは、1年間にも及ぶ役作りでまさに生き写しとも思える…

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ダニエル・デイ=ルイス&スティーヴン・スピルバーグ監督/『リンカーン』 -(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX
ダニエル・デイ=ルイス&スティーヴン・スピルバーグ監督/『リンカーン』 -(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX 全 12 枚
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ハリウッドの巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が12年間の構想を経て、アメリカ史上最も愛された大統領を描いた感動作『リンカーン』。主演のダニエル・デイ=ルイスは、1年間にも及ぶ役作りでまさに生き写しとも思えるリンカーン大統領を熱演。アカデミー賞史上初となる3度目の「主演男優賞」に輝き、自らも歴史にその名を刻んだ。

何故いま、およそ150年前の大統領の映画を作るに至ったのか。スピルバーグ監督と主演のダニエル、そしてリンカーンの妻メアリー・トッドを演じたサリー・フィールドというハリウッド切っての大御所たちが本作のために座談会を開き、作品に込めた熱い思いを語り合った。

スピルバーグ監督は、本作でのリンカーンの描き方について「“働く大統領”として表現することにした」と話す。「彼の最も重要な業績である奴隷制度の廃止と南北戦争の終結は、彼の死の直前の出来事だ。その時期に焦点を当て史実を再現することで、リンカーン大統領としての姿、また一人の人間としての姿を描きたかった」と言う。

脚本のトニー・クシュナーは、700ページにも及ぶドリス・カーンズ・グッドウィンの原作を2時間半の映画にするため、5年の歳月を費やした。そしてスピルバーグ監督は、リンカーン大統領役をイギリス人のダニエルにオファー。ダニエルは当初「アメリカの偉大な大統領を冒涜したくない」と躊躇したが、“一人の人間”としてのリンカーンを知るうち、その親しみやすい人柄に魅かれ「僕にもできるかもしれない」と考え直し、ダニエル版リンカーンが実現することになった。

しかしダニエルといえば、入念な役作りで有名。『ラスト・オブ・モヒカン』では、モヒカン族の戦士を演じるために数か月にわたり野営をして、狩りや魚を獲って暮らしたという逸話を持つツワモノ俳優だ。本作でもやはり1年間の準備期間を条件にした。この条件については「僕は本を読むのが遅いんだよ(笑)。リンカーンの人生を描いた本をゆっくり読んで、勉強したかったんだ。それにトニーがまだ脚本を改訂中だったので、物語の展開を知りたかったんだ」と穏やかな口調で語る。

そのダニエルの“1年間”という条件は、スピルバーグ監督にとってもより多くの情報が集められる有意義な時間となった。「私の監督した映画で、本作以上に詳細にこだわった作品はない。常に忙しいデヴィッド・ストラザーンや、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットも1年待ったから撮影に参加できた。それに145人もの配役を用意できたんだよ。これまで携わった作品の中で最も多い役の数だね」。

リンカーンの妻メアリー・トッドを演じたサリー・フィールドは、当時のメアリーの体系にぴったり合わせるために体重を約10キロ増量。「ダニエルが本を読んでいる間、役に合せて太るためにたくさん食べたわ!」と笑う。

本作でアカデミー賞「助演女優賞」にノミネートされたサリーだが、実は役を掴むまで一筋縄ではいかなかったようだ。
「私は昔からメアリーを演じてみたいと思っていたし、原作者のドリスがリンカーンと妻・メアリーの物語を書いていると知って興味が沸いたの。それでもメアリー役を打診されたときは正直迷ってしまったのよ。でもこれまで出会ったことのない素晴らしい脚本と、ダニエルとの共演ということが私の心を決めさせたわ。私はダニエルよりも10歳、当時のメアリーよりも20歳年上だけど、どうしてもこの役を演じたいと思うようになったわ。最初の頃はメアリーを表現することが上手くいかなくて、周囲と口論にもなったし、何かが違っていてしっくりこなかった」。

そんなスランプ状態だったのは、やはりダニエルだったのだとか。「監督が私のテスト撮影映像をダニエルに送ってくれて、それを見たダニエルは私のために、わざわざアイルランドからニューヨークまで来てくれたのよ。そのときの台詞は忘れてしまったけど、即興の演技をしてたくさんしゃべったわ。すごくいい演技をしたのに、監督は音声を録音してくれなかったのね、信じられない(笑)! 家への帰り道、ダニエルと監督がメアリー役をやらないかと電話をくれたの」と、キャリアの長いサリーであっても、自らの手で勝ち取ったメアリー役は思い入れも違うようだ。

撮影までの間、ロサンゼルスにいたサリーと、遠いアイルランドに住むダニエルは携帯メールでコミュニケーションを図った。
「当時の言語で書かれた素晴らしい脚本を読んでいると、その言語で物事を考えるようになるのね。彼と電話で話すのは嫌だったの。国際電話だしね(笑)。だからお互いにメールを送り合ったわ。役になりきって当時の言葉で連絡を取り合い、少しずつ距離を縮めていったわ。とても素敵なことだった。役になりきっていなかったら、変なことをしてたと思うけど(笑)。どのメッセージもとても大切にしたわ。短い手紙を交換しているようだった。メアリーとしてメッセージを書くのは大変だったけど、ダニエルはさっさと書いていたみたい(笑)」と、昔の恋人との淡い思い出を語るような口ぶりだ。

ダニエルが、リンカーン大統領を模した声で録音したテープを監督に送ったことも話題になったが、その声については驚きのエピソードがある。
「当時の音声は残っていなかったが、1900年代初期の記録をヒントにした。彼はケンタッキー州で生まれ、インディアナ州、そしてイリノイ州のスプリングフィールドで幼少期に過ごしているので、その地域の発音を声の参考にしたんだ。キャラクターを理解していくうちに、ある時点から特定の声が聞こえてきた。その内なる声を実際に話すことにしたんだ」と、ダニエルの中にリンカーンが舞い降りてきたと明かしてくれた。

そして本作ではアカデミー賞「美術賞」にも輝いた撮影セットや、歴史的資料を基に厳密に再現された衣装も見どころの一つ。
「1865年当時のホワイトハウスを完全に再現するため、壁紙さえもリサーチに基づいて作成した」という話からも、スピルバーグ監督の細部までこだわりが伝わってくる。撮影セット内ではお互いを役名で呼び合い、監督はリンカーン大統領に敬意を表するためにスーツを着用して撮影に臨んだという徹底ぶり。さらには「セットでは現代に関することや、プライベートの話も一切禁止にした」とスタッフ全員が本作に情熱を注いでいたことが分かる。

19世紀にどっぷりと浸った4か月間の撮影が終了した後は、現実世界に戻るのはさぞかし苦労したと思うが、特にダニエルにとっては非常につらい別れとなったようだ。
「終わりを迎えなくてはならないのは嫌だった。一人の人生に触れ、その時代を体感し、多くの仲間と親密になった。建造物を含めその空間すべてに別れを告げるのは寂しかったよ。この作品に関わった全員が情熱的に楽しんで撮影に臨んでいた。それを感じられたからこそ、『リンカーン』と離れるのはつらかったよ」。

もちろんスピルバーグ監督もダニエルと同じ思いだった。濃密な4か月の撮影の間に「リンカーン大統領と友達になった」と語る監督は、最後に涙を流したそうだ。
「彼の最期のシーンを撮り終えた後、私とトニーとダニエルの3人でハグをしたら涙があふれてきたんだ。ダニエルはリンカーンとしてではなく、普段のダニエルとして話をした。そのとき僕の友達のリンカーン大統領に会うのは最後だと気づいて…泣いてしまったんだ」と親友と別れを告げた寂しさを語ってくれた。

「すべての人間に本当の自由を」という理想のもとに難局を乗り越え、奴隷制廃止を実現したリンカーン大統領は、決して特別な力を持ったスーパーヒーローではない。ただ彼には“強い信念”と“未来を見据える目”があった。この映画には「過去を理解することは未来を構築することに役立つ」と信じるスピルバーグ監督からの、現代の私たちへのメッセージが多く詰まっている。

《シネマカフェ編集部》

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