【MOVIE BLOG】コンペ作品紹介(1/5)
10月17日から始まる東京国際映画祭(以下TIFF)で上映する作品のうち、僕が選定に関わった作品をいくつかブログで紹介していこうと思います。開催までに何本書けるか?…
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「今年のコンペの傾向は?」という問いに対しては、先日のブログに書いた通りなのですが、敢えて(本当に敢えて)くくると、「抵抗する映画・戦う映画」というキーワードが挙げられるかもしれないです。あまりこのキーワードがひとり歩きしないように気を付けたいのですが、まずは「抵抗する映画」を象徴するような3本から始めます。
ちなみに、アンジェイ・ワイダ監督に「抵抗3部作」と呼ばれる作品群がありますが(『世代』、『灰とダイヤモンド』、『地下水道』)、昔から僕はこのフレーズが好きなのですよね。で、拝借して、「2013TIFFコンペ・抵抗3部作」の紹介!
<『ある理髪師の物語』>
フィリピンのジュン・ロブレス・ラナ監督は、前作『ブワカウ』(’12)が昨年のTIFFで上映されて好評を博しています。また、主演のユージン・ドミンゴの前作『浄化槽の貴婦人』(’11)も、2年前のTIFFで上映されました。この2本とも、その年のフィリピンの米アカデミー代表候補作(正式には何と呼ぶのでしたっけ?)に選ばれており、いわば現在のフィリピンを代表する監督と女優が揃ったのが、『ある理髪師の物語』ということになります。
フィリピンがマルコス独裁政権下にあった時代を背景にした本作は、素朴な村に反政府活動の波が訪れ、市井の人々が翻弄されていく姿を描く人間ドラマです。ユージン・ドミンゴさんが、亡くなった主人を継いで理髪師となる女性を演じているのですが、本作の見どころはそのドミンゴの演技に尽きるといっても過言ではないでしょう。
素朴な田舎の、極めて平凡な女性が、いかにして時代の波に抗い、彼女なりの「戦い」を覚悟していくか。この心理の動きの表現力が素晴らしい。
誤解されたくないので強調しておきたいのは、社会派政治ドラマでは全くない、ということです。様々な戦いを強いられる女性の姿を描いていますが、演出はどこかほのぼのしており、田舎のほんわかした空気が心地よく伝わるのがいい。ほんわかムードから緊張モードへの転換が巧みで、ここはラナ監督の手腕が光ります。ドミンゴの演技、脚本の面白さ、そして不屈なテーマ。見どころ満載です。
<『ルールを曲げろ』>
イラン映画です。相変わらずイラン映画は元気で、毎年数多くの応募作が寄せられ、本当に絞るのに悩みます。社会派から素朴派まで幅も広く、世界の映画地図の中でイランは依然として最も重要な国のひとつであるとの印象は今年も変わりません。
アシュガー・ファルハディー監督の登場はやはりとても重要で、その天才的なストーリーテリングの技術で現代イランの様子を見せてくれることから、ファルハディーはイラン映画のイメージを変えたと思います。イラン映画のヌーヴェル・ヴァーグと呼べるかどうかはもう少し注視する必要がありますが(そもそもキアロスタミ監督らがヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれていたので別の呼称を用意しないど)、そんなファルハディーと同世代であるベーナム・ベーザディ監督の長編2本目が本作『ルールを曲げろ』です。
海外公演で出国しようとする若い劇団員たちと、それを阻止しようとする親との攻防を描く1日の物語。ビターな青春映画であり、世代間の価値観の違いを描く内容ではありますが、芸術家を抑圧する上の力、という見方もあるいは出来るかもしれません。
この作品を見る限りでは、大学生など若い世代においては、男女の関係は全く対等というか、日本や欧米諸国の青春映画で描かれるものと全く変わらない、というのも興味深いところです。しかし、確実に違う部分もある、それはどこか、ということを感じ取って、現代イランに思いを馳せるのはとても知的に楽しい作業ですね。
長廻しを要所にはさむ撮影演出も効果的だし、若者役も親の世代も、役者の演技が素晴らしい。ネオ・イラニアン・ニュー・ウェーヴ(仮称)が来ているのかどうか、是非お客さんにも直接目撃してもらいたいです。監督来日しますので、僕もズバリこの質問をしてみようと思っています。楽しみです。
<『レッド・ファミリー』>
TIFFコンペの抵抗3部作の3本目は、キム・ギドク脚本製作の韓国映画です。監督のイ・ジュヒョンさんは新人で、映画作りはフランスで学んだとのこと。キム・ギドクを尊敬しているようですね。ギドクのプロダクションで、ギドクの脚本を監督するとなれば、新人には大きなプレッシャーになると想像しますが、見事な出来栄えのドラマを完成させています。
本当は、もうこれだけで紹介終わりたいですね。あまり何も触れたくないなあ。韓国映画で、題名が「赤い」家族。そして、勝手に今年の「抵抗3部作」。もう信じて下さい。これは必見です、と。公式HPの解説も読まないように!いや、それは言い過ぎですね。映画の冒頭すぐに背景は明らかになるので、ネタバレにはなりません。公式HPももちろん参考にしてもらえたら嬉しいです。
笑える部分、戦慄を感じる部分、そして心を激しく揺さぶる部分、いくつもの局面と感情が入り混じるギドク脚本の奥深さを思い知らされます。ちなみに、昨年、審査員特別賞と主演男優賞を見事ダブル受賞した韓国の『未熟な犯罪者』は、今年の韓国の米アカデミー賞候補韓国代表(正式には何と呼ぶのでしょう)に選ばれたそうです。素晴らしい!韓国から2年続けてワールドプレミアでの東京コンペに参戦となる『レッド・ファミリー』、熱烈歓迎です。ジュヒョン監督、そしてキム・ギドクも来日を予定しています。乞う、ご期待!
《矢田部吉彦》
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