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【美的アジア】触れ合う指先から伝わる“愛と寂しさ”…映画『渚のふたり』

最も尊いものを見るために、一時、目を閉じているのだ

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ヨンチャン&スンホ夫妻/ドキュメンタリー映画『渚のふたり』
ヨンチャン&スンホ夫妻/ドキュメンタリー映画『渚のふたり』 全 5 枚
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最も尊いものを見るために、一時、目を閉じているのだ

最も正しいことを聞くために、一時、耳を塞いでいるのだ

誠の真実を語るために、一時、沈黙の中で待っているのだ

――チョ・ヨンチャン

目も見えず、耳も聞こえないけれど詩を作ることが好きな笑顔が優しい夫と、脊髄障害を持ちながらも指点字で夫を支える少し小柄な妻。

2人の“触れ合う”ことで心を通わせる愛の姿を描き、アジア映画史上初となるアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭「最優秀賞」を受賞した『渚のふたり』(2月15日公開)。そんな夫婦に寄り添い、本当の愛とは何かを見つめ続けてきたイ・スンジュン監督に話を聞いた。

<以下、インタビュー>

――2人を撮ろうと決めた理由を教えてください。

「2008年にドキュメンタリーを撮る仕事があり、リサーチをしている中でヨンチャンとスンホ夫妻が“指点字”をしているというニュースを知りました。2006年に日本で開かれた視聴覚障害者大会のことが話題になっていたんです。ヨンチャン氏は東京大学の福島智先生に指点字を習っていました。

当初は2日間の撮影だったのですが、2人の姿を見て『これは作品にしなければ』と思いました。ヨンチャン氏は目も見えず、耳も難聴ではありますが、何より人間としての魅力にあふれていました。世の中の感じ方、表現の仕方が違うと思ったんです。人にとって大切な“見える、聞こえる”という機能を持っていないにも関わらず“第三の感覚”をヨンチャン氏は持っている。その『感覚を一緒に分かち合いたい』という気持ちからこの作品はスタートしました。

ドキュメンタリーとは、実際に生きている人の中に入っていかないといけない。私的な空間に入っていくわけですから“監督”と“撮られる側”では上手くいきません。理解することを“頭”ではなく“心”で行う努力をすること。大切なことは、どんなことでも相手を尊重することでした」。


――ヨンチャン氏の体調がすぐれないときには、無理に撮影をすることはせず、そのまま帰宅することもあったそうですね。ヨンチャン氏の隣にいつも寄り添う年上の奥さん、スンホさんはどのような方ですか?

「スンホさんはヨンチャン氏より8歳年上の奥さんで、2人が交際したきっかけは、スンホさんの方からだったそうです。スンホさんはヨンチャン氏のことを初めから『違って見えた』と教えてくれました。『賢くて、ハンサムだ』と(笑)。

“大変そうだから、助けてあげなきゃ!”という気持ちで始まったわけではない、純粋な愛だったんです。僕は当初、スンホさんが生まれながらの天使で、だからこそヨンチャン氏の傍で“犠牲”になることができたのだと思っていました。でも、撮影が進んで行くにつれて、ある時からスンホさんの寂しさを感じたんです。スンホさんに寂しさがあるからこそ、ヨンチャンの隣にいられるのだと気づいたのです」。


――劇中、友人から「結婚できて羨ましい」と言われたヨンチャン氏が冷静に「結婚するには準備が必要だ。“寂しさの準備”はできていた」と語るシーンがある…誰もが心に抱える“寂しさ”を、監督は2人を通してこう語ってくれた。

「2人はお互いの“寂しさ”を理解しようとしていました。感じるだけではダメで、共感しようとしていたんです。彼らは、障害があるということでどれだけ大変な日々を過ごしていたかを互いに分かっている。だから共感できた。

ヨンチャン氏にとってもスンホさんにとっても、2人は互いに寂しさを補う存在だったんですね。劇中、2人が蛍光灯を取り替えるシーンが出てきますが、私たちにとって何気ない作業でも、目の見えないヨンチャン氏が手さぐりで蛍光灯を差し変え、スンホさんが指点字で指示をする度に作業は中断されます。指と指で会話をするのですから。時間はかかるし、大変な作業だけれど、明かりがついたとき、2人の心は同じ思いで満たされてるのです。

私は“寂しさ”は誰かと“共感すること・補うこと”で解消されるものだと思いました。そこに障害がある、ないは関係ありません。

韓国で公開されたとき、未婚の女性観客から『腹が立つほど羨ましい』と。『大変だな…』という感想よりも『羨ましい』という感想を多くいただきました。きっと、この2人を見て、“本当の愛の形”とはどういうものなのかを感じとったり、考えるきっかけになっていただけたのではないかと思います。

ヨンチャン氏とスンホさんの話す手段は指点字なので、例え夫婦喧嘩をしても、喧嘩にならないそうです(笑)。お互いを思いやっているから、ということもありますが、触れ合う指と指から伝わる愛が、自然と2人の心を解け合わせているのかもしれませんね(笑)。

『渚のふたり』をご覧いただく方には、この作品をきっかけに世の中に対する感覚を開いていただけたらと思っています。いままでの視線、感じ方が変わることで、本当の心の豊かさを理解できる、そんな風に感じていただけたらと願っています」。


『渚のふたり』はNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)が配給し、日本初のバリアフリー字幕&音声ガイド付き上映を行うことで、ユニバーサルデザインを推奨している。あらゆる立場の人が映画を楽しむことができる、新たな試みに挑戦した点にも注目して欲しい。

《text:Tomomi Kimura》

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