【特集:アナと雪の女王】美術スタッフが語る…“凍てつく世界”にかけた美の魔法
『白雪姫』に始まり、『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『塔の上のラプンツェル』と上質なミュージカル仕立てのアニメーション映画を世に贈り出し続けているディズニーの、新たなる“金字塔”として注目を集める…
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ディズニー史上初のWヒロインや楽曲がアカデミー賞にて「長編アニメーション賞」「主題歌賞」を受賞し、すでに世界中を魅了にしている中、シネマカフェは本作の制作スタジオであり、ディズニーの総本山であるロサンゼルスの「ディズニー・アニメーション・スタジオ」に潜入! 監督やアニメーターを始めとする制作スタッフに特別取材を敢行。連載インタビューとして、『アナと雪の女王』の魅力をたっぷりとご紹介!
第2弾は、本作に“魔法”をかけた2人――アート・ディレクターのマイク・ジアイモとアシスタント・アート・ディレクターのリサ・キーンのインタビューをお届け。白銀の世界をより幻想的に美しく仕上げた、2人に制作の舞台裏を語ってもらった。
――アート・ディレクターとは美術担当。ディズニー作品に登場する城から各キャラクターの服、さらには“雪の女王”エルサのもつ不思議な力をどんな風に表現するかまで、あらゆるビジュアルを司り、作品に“魔法”をかけるのが仕事となる。まずは、本作のためにどんなことから始めたのか聞いてみた。
マイク:「今回の『アナと雪の女王』というクラシックなストーリーには、そのための大きなスケール観が必要だった。ジョン・ラセター氏(ピクサー代表・監督)がいつも言うことなんだけど、その作品の世界観を作るときにはリサーチが絶対必要なんだ。この作品はファンタジーだけど、その中にもリアリティは必要で、そのために僕とリサを含めた数人でリサーチの旅に出かけたよ」。
――映画『プレーンズ』公開前にL.A.のディズニー・トゥーン・スタジオで取材をした際にも、スタッフたちはジョン・ラセター氏から「リサーチに行くべきだ」とアドバイスを受け、片田舎の飛行場から航空母艦まであらゆる場所を巡ったというが、本作でもそれは同じのよう。果たして、どんな場所を旅したのだろうか?
マイク:「今回のリサーチの旅では北欧の国・ノルウェーに行ったんだ。そこには壮大でユニークな景色が至る所にあって、この作品への一番大きなインスピレーションを与えてくれた場所になったよ。ノルウェーに行ってみて、大きな3つのものをスタジオに持ち帰ったんだ。1つ目は、フィヨルドという地形だ。とてつもなく険しい岩肌が切り立っていて、でもその下にある湖は対照的にすごく静寂に包まれている。その後ろには広大な山々が広がっていて、すごくドラマチックな景色だった。
2つ目は、建築物だ。特にスターヴ教会は特徴的だった。1100年の中頃から1200年頃まであった建築物なんだけど、複雑な組み方なのに美しさがあってとても魅せられたよ。歴代のディズニー・キャッスル(ディズニー作品に登場する城)の中でも、『アナと雪の女王』のキャッスルはとてもユニークなものになっると思うよ。普通は山の上の方に聳え立っているんだけど、この作品では街と一緒に山の下にあって、雄大な自然を生かすものになっている。
3つ目は、“ローズマリング”(花柄をモチーフにした細かい模様)と呼ばれる柄だ。ノルウェー独特もので、現地では柱や家具、服など色んなところに描き込まれているんだ。この作品でも建築物はもちろん、アナやクリストフたちキャラクターの服にもこの柄を取り入れたんだ。おかげで、キャラクターや世界観に統一感を持たせることができた」。
――そんな美術スタッフたちの旅の成果は、本作を観れば一目瞭然。ノルウェーで彼らが見た美しく、雄大な世界観がスクリーンの中に広がるのを感じられるだろう。そんな中でも、目を奪われるのは“凍てつく”ことの存在感だ。スクリーンを埋め尽くさんほどの圧倒的な吹雪、霜がかかった窓ガラス、エルサの放つ不思議な力、そしてアイス・パレス(氷の城)。その美しさで、恐ろしさで観る者を虜にする。そんな“凍てつく世界”を作り上げたのがリサだ。
マイク:「リサはディズニーで長く勤めているから、ずいぶん前から彼女の素晴らしさは知っていたんだ。今回初めて一緒に仕事をしたけど、現実世界のものをアニメーションの世界に“変換”するスキルは本当に素晴らしかった。この複雑な世界を見事に作り上げてくれたんだ」。
リサ:「(笑)。こだわったのは、エレガントな色使いなの。エメラルドとかサファイアとか、赤を表現したい時でも真っ赤にするんじゃなくて、寒色系の色を混ぜることを意識したわ。雪を表現するときも現実世界では白だけど、それだとスクリーンが全部真っ白になってしまうから(笑)、冷たい色を楽しんでもられる色使いを心掛けたの。
日の出や夕日のタイミングのシーンではライティングにもこだわった。光の加減で、氷はいろんな色に変わるの。それに、エルサの心を映すものでもあった。(雪の女王となった)エルサが住むアイス・パレスを描くために、カナダにあるケベックのアイス・ホテルを取材したの。そこではいろんな光を見たわ。夜になると、光が乱反射して洪水のようにあふれていた。そこでいろんな光のあり方を見て、アイス・パレスはエルサの心情を表すために、アイス・ブルーを使っって表現したの」。
――王国の城にアイス・パレスと建築物の美しさも去ることながら、女性たちはキャラクターたちの衣装の美しさにも注目して欲しい。その裏には相当な苦労があったと最後にマイクが明かしてくれた。
マイク:「この作品の舞台設定は1940年頃、おとぎ話に出てくるような時代で、とてもクラッシックなストーリーになっているんだ。そんな美しい世界観だから、コスチュームも美しいものにしたかった。ローズマリングの柄を取り入れて、さらにノルウェーの“ブーナッド”と呼ばれる民族衣装を参考にしたんだ。コスチューム・デザイナーには、リッチで宝石のような色彩のアイス・パレスと同じように、濃い色を集めたカラーパレットで作ってもらったよ。
アナだけでなくて、ハンス王子やクリストフたち男性キャラクターにもノルウェー的なコスチュームの要素でデザインした。特にクリストフは、“サミー”と呼ばれる民族衣装でローズマリングが描き込まれたチュニックを着ているんだ。
中でも一番苦労したのは、“雪の女王”になってからのエルサの衣装だね。ただ、彼女の衣装だけはノルウェーからインスパイアされたものじゃないんだ。エルサのためだけに作ったよ。彼女の衣装のテーマは“スノーフレーク(氷の結晶)”なんだ。彼女の羽織っているケープを広げると、スノーフレークの形になっているんだよ。彼女の住むアイス・パレスは、彼女の衣装をそのまま城にしたものと言っていい。スノーフレークを至る所に取り入れて、色も彼女のドレスに合せて仕上げたんだよ。
これほど複雑なコスチュームをCG映画で描いたのは、この作品が初めてだと思う。これまでにない複雑なレイヤー(色や柄の重ね合わせ)の数になったよ。透けるような薄い生地を何十にも重ねるようにデザインした。登場人物全員のコスチュームで考えると…まさに天文学的な数になるね(笑)」。
美しいものには必ずその裏に膨大な苦労がある。世界を巡り、時間をかけ、手間をかけ、それを一つ一つレイヤー状に重ね合わせていく。そうして出来上がった模様には、光には美が宿っている。彼らがかけた“魔法”をぜひご堪能あれ。
《シネマカフェ編集部》
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