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【インタビュー】『ルパン三世』 それでも小栗旬は、演じることを選んだ

「そりゃないぜぇ…不二子ちゃ~ん」。

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小栗旬『ルパン三世』/Photo:Naoki Kurozu
小栗旬『ルパン三世』/Photo:Naoki Kurozu 全 12 枚
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「そりゃないぜぇ…不二子ちゃ~ん」。

多くの人のイメージ通りの“あの”ルパン三世のノリノリの嘆きが心地よく響きわたる。期待通り…いや、それでいて、単なるモノマネではなく、実写ならではのカッコよさをしっかりと上乗せしている。“千両役者”という言葉はこういう男のためにあるのだろう。

小栗旬史上最大の挑戦――決して大げさな言葉ではない。『ルパン三世』実写化に手を出すというのはそういうことだ。実際、昨秋のタイでの撮影のさなかに日本で「小栗旬主演で『ルパン三世』実写化!」という一報が報じられた時、期待や興奮の声と共に少なからず、映画化への反対の声がわき起こった。まだ現場の写真の1枚さえも発表されていないのに…。いや、そんな事態は誰よりも小栗さん自身、この役を引き受ける前から理解していた。

「最初に話を聞いたときは『ホントに“これ”に手ぇ出すの? よくやるなぁ』って思いましたからね(笑)」。

それでもそもそも、小栗旬主演を前提に動き始めた企画。「みんなが本気で実現させようとしている以上、やると決まったからには全てを懸けて臨みました」とサラリと短い言葉に覚悟をにじませる。

では実際、具体的にどのようにキャラクターとしてのルパン三世、作品の世界観を作り上げていったのか? 冒頭でも紹介したように、セリフの言い回しや仕種、衣裳などで、随所にアニメ版『ルパン三世』を感じさせる作りとなっているが、最初の衣裳合わせの時点では、全く異なる設定で、ルパンもおなじみの赤いジャケットを着る予定はなく、五ェ門(綾野剛)も着物ではなく、現代性と実写版ということを勘案してライダースジャケットを着る設定になっていたという。

「正直、そこに戸惑いはありました」と語る小栗さん。誰もが知るアニメ版とどう距離を取り、どのように向き合うか? それは本作の“核”とも言える重要な論点であると同時に、改めて『ルパン三世』実写化の“覚悟”を問う問題だった。

「このチームはいったい、どこに向かおうとしているのか? 最初の衣裳合わせに行った時、まさにアニメとは全く違うルパンを作ろうとしているところで『なるほど! これはこれまでにない“新しい”ルパンを作るチャレンジなのか!』と思った。その半面『いや、それにしちゃ、ちょっと中途半端で、新しいものを作ろうとするエネルギーが弱いんじゃないか?』という印象だった」。

「みんな(※共演の玉山鉄二、綾野剛ら)と話をしても、『どうだった?』『うーん、ちょっと思っていたのとは…』という部分があって、やっぱり『ルパン三世』をやるのなら、ある程度は観客が期待していることをやった方がいいんじゃないか? という話になったんです。そこで僕も『じゃあ、赤いジャケットを着るように提案してみるわ』という話になったりした。決して、全く新しい世界観のルパンをやることが嫌だったわけじゃなくて、『ここまで新しいものを作るつもりだ!』という強いエネルギーで持ってきてくれたら納得したかもしれないけど、それが弱かったんです。結果的に、僕らが見てきたアニメの世界観に寄せていくという形で試行錯誤しながら作っていきました」。

物語の舞台がタイで、英語のセリフの割合が多かったことも、ルパンのキャラクターの形成に影響を与えた。

「英語での演技で表現できる“ルパンらしさ”って何だろう? とダイアローグコーチと考えていろいろ試してみたんですが、いざ現場で(アニメ版に寄せながら)やればやるほど、英語の下手な日本人が頑張って喋っているみたいになってしまったんです。じゃあ、クールな感じで英語を話そうとなったんですが、そうすると当然、アニメ版のイメージからは離れていくわけです。だからこそ、日本語のパートでは逆に『あぁ、ルパンってこういう喋り方するよね』というみなさんのイメージ通りの言い回しをバランスよくアクセントとして取り入れることができたと思います」。

北村龍平監督とは『あずみ』('03)に続き、実に11年ぶりのタッグ。若かりし頃に信頼を育んだ2人が11年の歳月を経てこの大作で再び…という“ドラマ”を勝手に想像してしまいそうだが、内実は全く違う。「これはゼロ号試写(関係者を集めての最初のお披露目)の後で、龍平さん本人にも言ったことなんですが…、実は僕にとっては龍平さんは、本当に苦手な監督さんだったんです(笑)」とあっけらかんとした口調で明かしてくれた。

「ちょうど『あずみ』の頃は、龍平さんはいまの僕くらいの年齢ですよね。龍平さんも『当時はいっぱい、いっぱいだった』と仰ってましたが。結構、オラオラ系で、僕は『この監督、嫌いだ!』って本気で思ってました(笑)。だから正直、今回もそのイメージがあったんです。でもお会いしたら、本当に僕なんかがこんなこと言うのはおこがましいですが、いろんな経験をされて立派な監督になってらっしゃって。実際、タイの現場では次から次へといろんなことが起きて、『あれは無理』『これは難しい』とか日本からもいろんなこと言われながらで、脚本の差し替えも頻繁にあったんです。でも龍平さんは常に現場で矢面に立って、俳優が傷つかないようにと全力で守ってくれました。演出面でもまず誰より龍平さんが楽しんでいて、『いいね、それやってみよう!』と僕らの提案を受け入れ、試させてくれた。現場で常にセッションをやっているようで楽しかったです」。

先に「最大の挑戦」と書いたが、映画が完成したいま、小栗さんは改めて今回のルパンという役が、ここまでの俳優人生における“集大成”と呼ぶべき意味を持っていることを感じているという。

「もしもこのルパンが、観てくださった方に好意的に受け取っていただけたら、僕のこれまでに積み重ねてきたことがすごく大きな“意味”を帯びることになるなと感じています。というのは、ルパンって結局、何者なのかよく分からない部分が多いし、先ほどの英語のセリフの部分もそうですが、ある意味で“翻訳劇”の世界だなと思うんです。つまり、自分がこれまでいろんな舞台(演劇)でやってきたことが、この作品、キャラクターの根底に流れていると思うんです。実際、ルパンを演じながら多少、大げさでやり過ぎの芝居を成立させなくてはいけない海外作品の翻訳劇をやってきてよかったなと思うことが多々ありました。その意味で、ここまでの舞台の上での経験や歴史が詰め込まれたキャラクターになったと思います」。

ちょうどこの取材の数日前に、翻訳劇であり、ジャック・ニコルソン主演の映画のイメージが強い「カッコーの巣の上で」の舞台版(主演)が千秋楽を迎えたばかりだった。ここ数年、常に映画に舞台、TVドラマと出演作が続いているが、実は映画主演は『宇宙兄弟』以来、2年ぶりとなる。映画への出演に対する思いを尋ねると、しばし考えたのちに、こんな答えが返ってきた。

「この『ルパン三世』はエンターテイメントとして映画でしかできないスケールのことをやっていますが、もっと“内面的”な部分でという意味で、映画にしかできない――TVでやっていることの延長ではなく、映画だからこそできる作品に参加したい思いはあります。観ていて『こういう作品に出たい!』という映画もいっぱいあるけど、僕の需要はいまの時点で、そっちではなく、もっとエンタメ寄りの作品なんですよね(苦笑)。もちろん、オファーをいただけるなら、より深い内面を見せるような映画作品に参加したいですが、それまではエンターテイメント作品で、とことん突っ走って行きたいと思います」。

文字通りジャンルも、メディアも選ばない――やはり、目の前の観客を魅了し、熱狂させる千両役者なのだ。

時間をかけて撮影し、そこからさらに時間を経て完成し、やっと観客の手に届けられていくというのも映画の特徴。ようやく完成し、公開を目の前に控え、小栗さんの心中には覚悟と自信を持って静かに“審判の時”を待つ気持ちと、わずかばかりの感傷と、そして、10か月ほど前の撮影を懐かしむ気持ちが去来している。

「嬉しさの半面、寂しさもあるし、夢のような時間をタイで過ごしたので『不思議な時間だったな』という感じですね。本当に特別なチームができたなという思いがあるし、いまだにあの撮影のことを話し始めると、みんなで数時間、笑ってられるんです。それを家に帰って妻に話すと彼女には『はいはい、タイでみんなで楽しかったのは分かってますよ』って苦笑されるんですけどね(笑)」。

《photo / text:Naoki Kurozu》

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