『母と暮せば』終戦70年で初めて描く山田洋次流のファンタジーとは?
山田洋次監督が吉永小百合、二宮和也を母子役に迎えて描く最新作『母と暮せば』。「50年以上の間、たくさんの映画をつくってきましたが
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1948年8月9日、長崎で助産婦として暮らす母・伸子(吉永さん)のもとへ、3年前に原爆で亡くしたはずの医学生の息子・浩二(二宮さん)がひょっこり現れる。楽しかった思い出話や、残していった恋人・町子(黒木華)の話など、以前と何の変わりもない会話をして2人は過ごすのだが――。
本作が通算83作目となる山田監督が初めてつくる、やさしい涙があふれるファンタジーとなる本作。作家・井上ひさしが広島を舞台に描いた『父と暮せば』と対になる作品を、長崎を舞台につくりたいと発言していたことを知った監督が、終戦70年となる今年に思いを込め、監督の集大成ともいえる作品として手がけた。
突然、母の目の前に現れたのは、原爆によって亡くなったはずの息子。彼は身体が透けていたり浮いているわけでもなく、生前の元気な姿そのまま、会話する内容も変わりない。ただし、母と子はお互いに触れ合うことはできないのだ。
山田監督は撮影前、『雨月物語』(’53/溝口健二監督)や『美女と野獣』(’48/ジャン・コクトー監督)を見るなどして亡霊の描写を考えたという。ファンタジー的要素として、浩二は「悲しくなり涙を流すと姿が消えてしまう」設定にするなど、監督作品としては珍しく積極的にVFXを導入した。
例えば、浩二が生前好きだったメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を思い出し、タクトを振るマネをするシーンでは、突然オーケストラが現れたり、彼が寮歌を唱うと背後に仲間の高校生が現れて大合唱となったり、これまでにないファンタジックな場面が作り出されている。映画監督として50年以上のキャリアを持ち、独自の世界観、演出手法で数々の感動作を手掛けてきた監督は、必要であれば新しいことにも意欲的に挑戦。そんな監督の姿勢と情熱に、スタッフ、キャストも一丸となって撮影に挑んだという。
原爆という重く大きなテーマの中で、母子の親子愛に焦点をあて戦争の悲劇を描く本作だが、その根底にあるのは、山田作品で描かれ続けてきた人間の愛情のドラマ。息子・浩二の死は、運命ではなく、人間の手によってもたらされた“悲劇”という母・伸子の悲痛な叫びとともに、突然愛する人を失った母と恋人を軸に、残された人々の切なく哀しい想いの機微を映し出していく。
「生涯で一番大事な作品をつくろうという思いでこの映画の製作にのぞんだ」という山田監督の想いが詰まった初めてのファンタジーを、スクリーンで見届けてみて。
『母と暮せば』は12月12日(土)より全国にて公開。
《シネマカフェ編集部》
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