【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day9

19日、木曜日。いよいよカンヌも終盤。とはいえ、まだまだ有力作品が出てくるので、気は抜けない。本日は6時半20分起床、7時から同僚と緊急重要ミーティングをして、7時25分に外へ。

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19日、木曜日。いよいよカンヌも終盤。とはいえ、まだまだ有力作品が出てくるので、気は抜けない。本日は6時半20分起床、7時から同僚と緊急重要ミーティングをして、7時25分に外へ。

本日も8時半のコンペからスタートで、ルーマニアのクリスチャン・ムンジウ監督新作『Graduation』(写真)。高校の卒業試験(この点数によって入れる大学が決まってくる)を翌日に控えた娘が暴行を受け、試験に影響してしまう。医者の父親は試験結果を操作しようと試みるが…、という物語。ひとつの間違った思惑で、全体の歯車が狂って行く展開に、みるみるうちに惹き込まれる。

娘に外国で勉強してほしい(故に試験で成功してほしい)と願う父親に、現在のルーマニアに対する複雑な思いを代弁させ、娘との関係においては「親の心子知らず(あるいはその逆)」的な家族にまつわる普遍的物語を練り上げるムンジウの力量はさすが。90年代初頭の民主化に希望を抱き、その後の幻滅を経験した世代の父親を主役に据えたところがポイントで、前2作ほどの震えるようなインパクトは無いものの、ムンジウの作家性を堪能できる秀作だ。

続いて11時15分から「ある視点」部門のフィンランド映画『The Happiest Day In The Life Of Olli Maki』という作品へ。フィンランド映画が同部門に入るのは30数年振りとのことで、先日ミーティングをした同国の映画関係者もとても盛り上がっていた。北欧映画好きの僕としても、日本にいるときから楽しみにしていた作品で、監督は今作が長編1作目となるジュホ・クオスマネン(読み方に自信なし)という男性監督。

1962年のヘルシンキで、ボクシングのフェザー級世界タイトルマッチをアメリカ人チャンピオンと戦った、オリ・マキという実在したボクサーの物語。大枠は実話のようだけど、映画の中身はおそらくフィクションかな? 国中の期待がかかった試合に臨む主人公に、ひとつ心配ごとが起きてしまい、それは、恋に落ちたこと…、という映画祭サイトの作品紹介文がナイス。

スポーツものでは無くて(そして紹介文ほどスウィートなものでもなく)、精神的に未熟のまま世界戦に挑むことになってしまった男の不安定な気持ちを、アーティーな恋愛映画の味付けも少し加えて描いてみせた感じ。粗めのモノクロ画面が美しく、どこか浮遊感のある撮影も独特の効果を挙げている。クラシカルなタッチの中にも語り口には新鮮味があり、なるほどこの監督のセンスは今後も楽しみだ。

いったんホテルに戻って1時間ほどパソコンに向かってから、改めて外に出て、ミーティングを4件。カンヌのミーティングはこれで終わり。ビジネス系の関係者はもうほとんど引き上げているみたいだな。

上映数も減ってきているので、ミーティングの合間にぱっと上映に駆けこむことも出来ず、今日の鑑賞は少なめになってしまった。16時からカフェで作品の鑑賞メモをひたすらノートに書き込み、18時からの上映に17時から並んで、「監督週間」のローラ・ポイトラス監督新作『Risk』へ。『シチズンフォー スノーデンの暴露』でアカデミー賞を受賞した直後の新作ドキュメンタリーでは、ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジュに焦点を当てている。

彼女はエドワード・スノーデンを早い段階から取材をしてきた人物であり、その経緯で、同時期からアサンジュにもカメラを向けていたとのこと。おそらく『シチズンフォー』と、今作の『Risk』は平行して作られていたはずで、両作合わせて見た方がいいのかもしれない(残念ながら僕は『シチズンフォー』は未見)。

『Risk』は、数年間に渡って断続的に撮影したアサンジュの活動と姿を記録したもので、いわば現状報告的な作品と言えるかもしれない。ロンドンのエクアドル大使館に数年間「亡命」中のアサンジュの素顔が見られる非常に貴重な機会であろうし、彼の人物像の一端に触れることができる。そして、ポイトラス監督を含め、作品に関係する人物たち全員が莫大な「リスク」を追っており、それぞれが(拘束の恐れがあるため)自国に入国できない状況が続いているらしい。映画の中にも外にもリスクがあり、現在の政情とリアルタイムで地続きな作品であることに背筋が冷える思いがする。

僕はいままでスノーデンやウィキリークスという存在に興味を持つことが無かったので(スノーデンが香港からロシアに脱出したときに、ウィキリークスのスタッフが付き添っていたということも恥ずかしながら知らなかった)、ともかく『スノーデン』が日本公開されたらすぐに見て、いろいろと考えを整理したい…。

上映終わり、またぽっかりと時間が空いてしまったので、ホテルに戻って溜まったメール作業をしようと思ったら、ネット接続が不良で繋がらない。むむー。カンヌに来て10日目、初めてぼーっとする時間が出来てしまった。まあ、たまの休憩もいいか、ということで、2時間くらいボケっと過ごす。

21時45分に宿を出て、22時15分から「ある視点」部門で『Pericle』というイタリア映画へ。スター俳優リカルド・スカマルチョが負け犬系チンピラマフィアに扮するノワール。彼が用いる得意技が、砂袋で相手の頭を背後から殴り、そのまま相手がどんなオッサンでも後ろから犯して恥辱を与えることという、なんともトンデモな設定が面白い。映画そのものはまあ、どうということもないのだけれど、どんなダメ男な役でも色気がむんむんと沸き立つ(おかげで窮地に陥ってもただちに女を落として助けられてしまう!)スカルマチョの魅力を堪能する作品、かな。

ホテルに戻って0時半。今日は早々に就寝!

《矢田部吉彦》

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