【インタビュー・後編】グランドマスター・フラッシュが「ゲットダウン」に託した“メッセージ”
今回のインタビューを通して強烈に感じたのは、ヒップホップの立役者でもあるフラッシュが抱く、若い世代へこの物語を伝えなくてはいけないという確固たる使命感だった。
最新ニュース
インタビュー
-
「思ったよりお似合い」イ・ジョンソクとムン・ガヨン、香港での目撃談が話題!
-
【インタビュー・前編】バズ・ラーマンが語る、「ゲットダウン」に込めたヒップホップへのリスペクト
-
「短くて面白い」が選ばれる新時代――新たな配信サービスの挑戦

同じNetflixオリジナル作品「ハウス・オブ・カード」においても、デヴィッド・フィンチャーが制作総指揮を務めており、フィンチャーが監督としてクレジットされているのはわずかだが、全体としては統一されたトーンが貫かれている。本作においても、バズ・ラーマンが描き出す世界が全6話において一貫したものとして描かれており、今後ドラマシリーズ製作におけるクリエイターたちの関わり方に、バズの言葉はヒントを与えてくれるかもしれない。「僕だけがやることを考案するのじゃないんだよ。みんなのやることを考案するんだ。でもそれをどうやってやるかは、前例がないんだ。たくさんの人が来て助けてくれているけど、結局は(製作総指揮の)僕が中心にいなければならない。そうでなければ、この物語で語ろうとしている人々が受けるにふさわしいレベルの基準とリスペクトを受けられないんだ。僕はフラッシュをがっかりさせるわけにはいかないし、歴史をがっかりさせるわけにもいかないんだよ」。
10年の歳月を経て本作の企画を温めてきたというバズだが、やはりこのタイミングでNetflixと手を組んだことは、Netflixへの注目度とその勢いに寄るものが大きいのではないかと思われる。Netflixとのパートナーシップについて、率直にバズは語った。「Netflixはいま独特な立ち位置にいると思うよ。TVはきっとダメージを受けるだろうね。Netflixの作品はTVではない。映画かと言うと、それもわからない。とにかく長編だ。Netflixはとても興味深いよ。韓国もヨーロッパも、日本も、世界中を相手にしている。それに、創造性の基準を高くすることに献身している。いまの映画界では、もし最近のヒット作が恐竜を描いたものなら、『バズ、恐竜の映画を作れるか?』と言われる。しかもきっとミュージカルのね(笑)。Netflixの場合、もし最近のヒット作が大統領の話だったら、それとは全く違う作品で何か作れるか? と聞いてくるんだ。ほかの人がやっているものと全く違うものを作れるか? と。だからNetflixはクリエイティビティへの自由を提供してくれるところだ。とてもよくサポートしてくれる」。
「僕にとっては、これまでで最も大規模なコラボレーションだった。こんなに多くのアーティストたちをチームに迎えたことはない」。そうバズが語るように、本作のクレジットにはこの上なく豪華な名前が並んでいる。インタビューに応じてくれたフラッシュ、そしてネルソンをはじめ、クール・ハーク、カーティス・ブロウ、Nasといったヒップホップ界におけるレジェンドが本作の意思に賛同し、ヒップホップの黎明期を描く本作を、よりリアルに、よりドラマティックなものに仕上げている。
「ブロンクスの何も持っていなかった若者たちが、2枚のレコードに情熱を捧げ、執着したということ…この作品では、若者たちのストーリーを神話のように描いているんだ。そうして彼らが作り上げたものが世界を変えた。このことは素晴らしいメッセージだと思う。何も持っていなくても、一生懸命やることで、小さいものから美しいものを作り出すことができるんだ」。昨年大ヒットを記録した『ストレイト・アウタ・コンプトン』をはじめ、これまでにも『Style Wars』(1983)、『ワイルド・スタイル』(1983)、『8マイル』(2002年)、『ハッスル・アンド・フロウ』(2005年)、Nasのドキュメンタリー『タイム・イズ・イルマティック』(2014年)など、多くのヒップホップを描いた映画は作られてきたが、本作で最も印象的なのは、バズが語るように、ヒップホップのはじまりを神話的に描くことから生まれる、希望に満ち溢れた生き生きとした力強さだろう。主人公たちは、それぞれの葛藤の中から、自らの力と仲間たちとの協力で、自分自身のスタイルを見出していく。物語が進むにつれ、次第に輝きを増していく主人公たちの表情には、思わず胸に迫る感動を覚えざるをえない。
「今日はここで全てのヒップホッパーに言いたい。別に説教しようとか、ああしろこうしろと指図するつもりはない。視点が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。ただ、見て欲しいんだ。それだけだ」。フラッシュは最後に力強くそう語った。この言葉は、決してヒップホッパーだけに向けられたのではないと思う。これは、いまこそ“Somebody”になろうと必死にあがく、すべての“Nobody”に向けられた言葉なのだ。
「ゲットダウン」はNetflixにて配信中。
協力:Netflix
《シネマカフェ編集部》
特集
関連記事
この記事の写真
/