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【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day5

<5月21日>

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<5月21日>

21日、日曜日。6時20分起床で本日も快晴、爽やかな初夏の陽気で強い陽射しが戻ってきた。序盤戦のカンヌの天気、今年は上々で嬉しい。冷たい雨が降り続いた数年前を思い出すと好天が何よりもありがたい!

本日も8時半からのコンペ上映でスタート。7時45分に会場に着くととっくに開場していて、かなり後方の席になってしまった。もう少し早く到着したいと思うものの、これ以上の早起きはちょっと無理かな…。とはいえ見にくいわけではないので、上映が始まれば気にならなくなるので大丈夫。

ノア・バームバック監督新作で『The Meyerowitz Stories (New & Selected)』。本作もネットフリックスが製作で、冒頭のロゴで観客からブーイングと嘲笑。カンヌの観客はなかなかにしつこいのだ。日本でも早い段階で配信されるのか、それとも劇場公開があるのだろうか?

アダム・サンドラーとベン・スティーラーが異母兄弟で、ダスティン・ホフマン扮する父親との関係を描いていく大人の家族ドラマ。キャストはメジャーだけどテイストはあくまでインディーというノア・バームバックの世界で、気の利いた脚本とテンポの良い編集、そして絶品の役者陣があいまって、いつまでも見続けていたくなる作品だ。

タイトルの通り、メイエロヴィッツ家を巡る様々な物語の中から、今回は4回の結婚歴がある父親と異母兄弟の息子たちのエピソードを抜き出してみました、という趣が楽しい。ウディ・アレンとサリンジャーを混ぜたみたいだと言ったら怒られるだろうか。ウディ・アレンの洗練のされ方とはまた違う(もちろん全然サリンジャーとも違うけど)、オフビートなバームバックの魅力が堪能できる1本。

アダム・サンドラーの娘を演じるグレース・ヴァン・パタン嬢がとてもキュートでナイス。昨年の東京国際映画祭に『浮き草たち』の主演として来日してくれたので贔屓目があるのはもちろんだけど、本格ブレークも間近ではないかな?

11時からの作品のチケットが取れなかったので(前にも書いた通り今年はメイン会場の招待状=チケットが取れにくい。ちなみにメイン会場以外は映画祭パスだけで入場できる)、マーケット会場に入ってメールの返信など事務仕事を少しこなす。それにしてもマーケット会場に入るためのセキュリティーチェックにとても時間がかかるため、なるべく会場に入らないで済むようにしてしまう。今年の入場者数は減っているのではないだろうか。しょうがないことだけど、とても不便だ。テロリズムの影響が自分の仕事に及んでいることを実感し、神妙な気分になる。

ところで、今年のカンヌのコンペは、英語映画にも英語字幕が付くようになったみたいだ。これは英断だと思う。英語を聞き取るのと読むのとでは理解度が数段違うので、特に訛りの強い英語映画を見るときは難儀する。英語映画にも英語字幕があれば世界中の人たちが助かるはずなのに、とずっと思い続けてきたのでこれは嬉しい運営だ。ベルリンも続いてくれますように。

会場を移動し、12時半からコンペのミシェル・アザナヴィシウス監督新作『Redoutable』へ。今年のカンヌの話題作の1本で、ルイ・ガレルがジャン=リュック・ゴダール、ステイシー・マーティンがアンナ・ヴィアゼムスキーに扮し、68年の政治の季節を背景にした二人の恋愛関係が描かれていく。ヴィアゼムスキーの自伝が元になっている。

ゴダールが学生運動と共闘し、挫折し、やがて商業映画から実験的なジガ・ヴェルトフ集団での映画作りへと移行する時期がふたりの結婚生活にいかなる影響を及ぼしたか。当時のゴダール作品に特有のポップなセンスや色彩、そして美術を丁寧に再現し、アザナヴィシウスが得意とするユーモアや、絶妙にゴダールを演じるルイ・ガレルの芸が映画を引っ張っている。

ゴダールについて語ることは己の知性を測られるリスクを覚悟しなくてはならず、ましてや映画で扱うとなると相当な自信と度胸が必要になるはずで、その点アザナヴィシウスはさすがだと思わされる。ゴダールの映画と政治に対するスタンスの要諦を最低限押さえつつ、ゴダールを知らない人にも十分に楽しめるエンタメ性を備える芸当はアザナヴィシウスにしかできない。僕はこの作品を擁護したい。

というのも、ゴダールの知性と闘争を矮小化していると難色を示すコアなファンの反応も十分に予想できるからで、これはあくまでゴダールではなくアザナヴィシウスの世界なのだと割り切って楽しめるか否かが評価の分かれ目になるのだろう。僕は大いに楽しめたので、文句なし。

上映終わり、遅刻を伝えてあったミーティングにダッシュする。炎天下と呼んでいいくらいの陽射しの中で汗だくだ。そのまま17時までミーティングを4件。

17時45分に上映に戻り、「監督週間」でブリューノ・デュモン監督新作『Jeanette, the childhood of Joan of Arc』(写真)へ。ジャンヌ・ダルクの少女時代をミュージカル仕立てで描く内容で、これが超ド級の珍品だった! いや、珍品だと思うのは序盤までで(唖然とした観客が続々と途中退場していった)、いや、これはいつものデュモンの世界の発展形なのだと理解すると俄然面白くなっていく。

幼女時代と少女時代に分かれ、前半はジャンヌが神との対話や祈りを繰り返し、後半はジャンヌが戦地に赴くまでの過程を描いている。何がすごいって、プログレというかヘビメタというかのロック音楽に乗せて、大真面目な歌と珍妙な踊りが合わさったヘンテコパフォーマスがすごい。最初戸惑っていると、これが徐々に癖になってくる。ジャンヌや神の使いの尼僧たちは長髪を振り乱してヘッドバンキングを繰り返す。もちろん舞台は15世紀。もうこう書いても全く何のことやら伝わらないだろうなと思うのだけれど、見たことがない類の映画なので伝わらないのも無理はない。それだけこの特異な突出感は偉大だ。

景色は、デュモン作品に特有のフランス北部のグレーな自然地帯。純度の高い宗教性を含む物語を多く語ってきたデュモンの面目躍如とも呼べる作品だ。デュモンを好きな人には大いに響くだろうし、デュモンを知らない人はひたすら呆然とするしかない作品で、果たしてブレッソンがミュージカルを撮ったとしたらこうなったのかもしれない。いやはや、まったく。今年のカンヌの最大の問題作の1本であることは間違いない。

自分なりの物差しでゴダールを語ったアザナヴィシウスと、確信に満ちた過激性を打ち出すデュモンが並び、これはまるでシネフィルに対する踏み絵の試練の連続だ。まったくカンヌは気が抜けない。

続いて20時半から同じく「監督週間」部門の『Mobile Homes』へ。アメリカとフランスの両方を拠点とするフランス人監督の作品で、本作は英語映画。家を持たない母と幼い息子の物語で、サフディ兄弟寄りのアメリカン・インディーテイストで貫かれたリアリズムが染みる。佳作。

22時15分に上映が終わり、離れた会場まで小走りして22時半から「ACID」部門の『Coby』というドキュメンタリー作品へ。性転換を果たした男性(元女性)に長年寄り添い、いくつもの手術を重ねることで、自分の心に体が徐々に追いついていく過程を丁寧に描いていて感動的だ。ドキュメンタリーは時間だ、などとうそぶきたくなる。

0時過ぎにホテルに戻り、バームバックとアザナヴィシウスとデュモンについて的確な言葉が浮かんでこない頭を叱咤しながらブログを書き、今日は3時前に寝ます!

《矢田部吉彦》

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