「『あん』に関していうと、最初に原作を読んだとき、これは(原作者の)ドリアン助川さんご本人だって思ったんです。だけど、ハマり過ぎてて(笑)。千太郎は店長になる前にいろいろあって、社会から排除される立場にある人間で、そういう人はもう少しワイルドでぶっきらぼうな感じかな…? と。そうすると、ドリアンさんだとちょっと包容力があり過ぎて(笑)。じゃあ、その境地に行き着くまでの千太郎は誰か? 日本映画界を見渡して、永瀬くんだって思ったんです。それまで、全然知らなくて、Facebookで『出ていただけませんか?』ってメッセージを送ったんです(笑)」。
優しく、真面目で、それゆえに葛藤を抱える男――そんな雅哉のイメージが永瀬さんにぴったりと重なったという。

「雅哉のようなタイプの人は本来、優しく真面目なんですけど、だからこそ、視力を失っていく段階で執着してしまうんですよね。過去であったり、もしも見えていたならば伸ばせていたであろうキャリアに…。そして、自暴自棄になってしまう。これは、私自身、取材を進めていく上で知ったんですが、男性で特に、見えなくなっていく過程で周囲に攻撃的になってしまったり、自分はダメだとあきらめてしまう人が多いということなんです。なんで初対面の美佐子にあんなに厳しい言葉を投げかけるのか? そこには見えなくなっていくことへの焦りがあるんだと思います」。永瀬くんは、すごく真面目できちんとしてるんです。『あん』のどら焼き屋さんの片付けを、いつもものすごくしっかりしてたんです。ご自分の事務所もすごくキレイで、いろんなものがきちんと整理して配置されてるんです。これは、部屋をきちんと整頓して、モニター会にもスーツを着ていく雅哉のキャラクターそのものだなって思いました」。
いろんな部分で、前作『あん』があってこそ今回の『光』が生まれたと言える。河瀬監督自身、映画の作り方、臨み方において、『あん』という従来の作品とはやや異なる作風で、最大のヒットとなった作品を経たことで、生まれた変化、感じる違いなどはあるのだろうか?
「『あん』が大きなポイントとなった部分ももちろんあると思いますが、やはり1作1作に大きな意味があり、その後の作品に影響を及ぼしているんだと思います。『2つ目の窓』と『あん』、今回の『光』は、ほぼ立て続けに撮っているんです。その中で『あん』のようなわかりやすさを詰め込んだ部分もあるし、でも作品そのものの“希望”は、ずっと前から自分の作品の中にあったものだとも思います。今回は、構造として“映画”を描くという難しい題材で、映画監督という存在が物語の中に出てくるのも、自分にとっては大きなチャレンジでしたが、それをやり遂げたという感覚も持っています」。
