【シネマVOYAGE】人と人との心の繋がり――フィリピンのスラム街で描く生きるための旅『ブランカとギター弾き』
旅行サイトでフィリピンのツアーを検索すると、セブ島、マニラ、エルニド、ボラカイ島…などがおすすめツアーとして出てくる…
最新ニュース
コラム
-
『トンイ』女優ハン・ヒョジュ、ミラノで自由を満喫!飾り気のない姿に“ほっこり”【PHOTO】
-
【シネマVOYAGE】恋愛・絆・出会い・別れ…列車の旅が印象的な作品は?
-
「短くて面白い」が選ばれる新時代――新たな配信サービスの挑戦

主人公のブランカは、窃盗や物乞いをしながら1人で暮らしている。ある日、有名な女優が自分と同じ境遇の子どもを養子に迎えたというニュースを偶然目にしたことで、アイデアを思いつく。それは、お金を貯めて“お母さんを買う”というアイデアだった。突飛だが、母親を手に入れることができれば幸せになれるのではないか──たった1人で生きる少女がひらめいた希望の道だ。そのためにブランカは窃盗を繰り返していたが、街角でギターを弾いて生活しているピーターと出会い、歌うこと=自分の才能で生きることを教えてもらい、人生が変わっていく…。
この映画が心に響くのは、フィリピンのスラム街を映しながら、人と人との心の繋がりや誰かを大切に想うことを描いているからだろう。また『シティ・オブ・ゴッド』『デザート・フラワー』『トラッシュ! この街が輝く日まで』『鉄くず拾いの物語』などを観たときにも感じたことだが、映画の主人公たちの過酷な生活環境に驚かされる以上に、彼らの生命力や勇気、愛情、諦めない気持ちに心打たれる。『ブランカとギター弾き』もそうだ。ラストシーンのブランカとピーターの“あの表情”は決して忘れることはないし、彼らからたくさんの生きるヒントをもらった。
その感動を描き出したのは、本作が長編監督デビューとなる長谷井宏紀監督だ。日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得て製作、ヴェネツィア国際映画祭で2冠(※1)、各国の映画祭で数多くのグランプリを獲得している。彼のキャスティング方法がユニークだ。盲目のギター弾き役をフィリピンの路上でスカウトし、ブランカ役はYouTubeに歌っている動画をあげていた素人サイデル・ガブテロに声をかけた。ドキュメンタリーではないけれど、ものすごいリアリティを受け取るのは、そんな一風変わったキャスティングの力も大きい。何より長谷井監督自身が世界中を旅してきた人であるからこそ生まれた発想、出会い、メッセージ──やっぱり旅はいいなぁと思ってしまう。次の旅は、フィリピンに決めよう。(text:Rie Shintani)
※1 ヴェネツィア国際映画祭2015 マジックランタン賞、ソッリーゾ・ディベルソ賞受賞
特集
関連記事
この記事の写真
/