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【MOVIEブログ】2017 TIFF作品紹介ワールドフォーカス部門(2/2)

「ワールド・フォーカス部門」の作品紹介を続けます。アジア作品は石坂健治氏がプログラミングをしていますが、僕も好きな作品ばかりなので、越境して(というか越権ですね)紹介したいと思います。

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『隣人たち』
『隣人たち』 全 6 枚
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「ワールド・フォーカス部門」の作品紹介を続けます。アジア作品は石坂健治氏がプログラミングをしていますが、僕も好きな作品ばかりなので、越境して(というか越権ですね)紹介したいと思います。

まずは『Have a Nice Day』です。中国のインディ系アート・アニメーションで今年のベルリン映画祭のコンペティション部門に出品されました。中国のアニメがベルリンコンペに入ったのは初めてのことだったはずです。

「アート・アニメ」というジャンル分けが適切なのか悩むところだけれども、全世代を対象にした商業的なアニメーションとは一線を画す大人向けアニメと言えばいいのかな。では芸術アニメかというとそんなことはなくて、エンタメ度はとても高く、中国の底辺社会を背景にした犯罪映画です。ボスの金を盗んだカップルの逃亡劇と、その金を巡る群像劇的人間模様が描かれます。

とにかく物語の展開が上手くて面白い。欲をかいた人々の因果とブラック・ユーモアはタランティーノ的、突発的な暴力はキタノ的。キャラクターの造形やシャープな画調もカッコよく、一枚一枚切り取って飾っておきたいくらい。これは普通に劇場公開されてほしい作品だけれども、日本の外国アニメの市場は厳しいからな…。でもまさにこういう作品に外国アニメの市場を切り開いてもらいたい!

ベルリン映画祭で本作を見終わったとき(エンドクレジットの途中で退席しないように!って日本の観客は大丈夫だけど、欧米ではみんなさっさと出ていってしまうので最後までサプライズがある本作の場合は大損)、僕が面白さの余韻に浸っていると地元のお客さんから声をかけられ、「あなたは中国人ではないかもしれませんが、こんな面白い作品を作ってくれたアジアの方にお礼が言いたくてたまりません。ありがとう!」と握手を求めてきた。ちょっと困ったけど、嬉しかったなあ。

前作『Piercing I』が本作と併せて11月2日(木)~5日(日)に開催される「新千歳空港国際アニメーション映画祭」で上映されるようです。ああ行きたい。東京国際映画祭のゲスト見送りが4日だから、それから北海道に飛べば見られるかも? 無理か…。

続いて、『隣人たち』。イスラエルの作品です。スリルとブラック・ユーモアを交えた社会派ドラマで、アラブ系イスラエル人に対するユダヤ系住民の態度が描かれます。我々はつい単純にイスラエルにはユダヤ人しかいないと思いがちだけれど、当然イスラエルにもアラブ系国民はいるんですよね(映画にはしばしば描かれる)。しかし日常に溶け込んでいるかというとそうでもないらしく、少数のアラブ系国民をユダヤ系の人がいかに珍しがり、怖がるかを本作は描いていきます。

成功した俳優で近隣の住民からも尊敬されている男が、自宅の離れを改築しようと労働者を雇うが、やってきたのはアラブ系の青年だった。隣人たちがざわつく中、近所で少女暴行事件が発生する…。

パレスチナとの関係の中で、ユダヤ系イスラエル人のアラブ人に対する感情はかなり複雑なものがあるだろうと想像するのは難しくありません。それでも戦争しているのは国であって、一般市民がみんなアラブ人を嫌っているわけではないだろうと考えたいところですが、本作は我々のこういった理想論をあざ笑うかのようにユダヤ系住民の本音をさらけ出します。自分たちのコミュニティーに突然現れたアラブ系の青年に対するユダヤ系住民のリアクションは、こちらの安易な想像を超え、驚かされます。

インテリで偏見の無さを自認する主人公が追い詰められていく様が、いかにもあり得そうで怖い。スリリングでエンタメ度も高く、非常に見応えのある作品に仕上がっています。人種偏見に対する建前と本音をコメディーで描いた近年の傑作に『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』(14)がありますが、本作はユダヤ・パレスチナ問題を市民レベルのエンタメとして描く稀有な作品と言えるでしょう。本作を見ながら、ひどいなあと憤ったりしますが、偏見を描く映画は常に我が身をふり返るために作られていることを忘れないようにしなくてはと思わされます。決して他人事ではない…。

監督のツァヒ・グラッドは俳優として『オオカミは嘘をつく』(14)などに出演していますが、今回は3本目の長編監督作品で脚本も自ら手がけ、主演も務めています(写真右)。おそらくかなりの危機感に駆られて作ったはずなので、来日されるご本人にお話しを伺うのが楽しみです。

個性的な作家と出会いたい方にお勧めしたいのが『セクシー・ドゥルガ』です。インドのサナル・クマール・シャシダランという監督で、本作が長編3本目。僕は前作の『An Off Day Game』(14)を見る機会があったのですが、5人の中年男が森の別荘に集まり、飲みまくってリラックスしようとする休日を描いていました。最初は和やかだった場が、酔いが回るにつれて男たちの本性が現れ、立場の違いからケンカが始まり、やがて悲劇へと向かう様子が強烈なリアリズム演出で綴られており、これはすごい作家だと興奮させられたのでした。

先見の明を自慢するわけではないですが(いや、自慢していますね)、第3作目となる今作『セクシー・ドゥルガ』は今年のロッテルダム映画祭に出品され、見事最高賞のタイガー・アワードを受賞しました。内容は前作と全く異なりますが、突出した作家性は健在どころか、異様さが増しています。

映画祭でしか見られない(かもしれない)作家を発見したいむきにはもうこれだけで見て頂きたいのですが、というのもストーリーが紹介しにくいのです。逃げている男女がいて、闇夜の道を歩いている。ヒッチハイクで止まった車に乗ると、それは決して乗るべきでない車であった…。女の名前はドゥルガという。一方、近郊の村では女神ドゥルガを称える祭が行われており、男性が肉体的苦行を捧げる儀式に見物客が群がっている…。

インド社会において、女性は女神にも搾取の対象にもなりうるという、その二面性を描く作品だというのは監督のコメントです。カップルが遭遇するスリラー的な物語と、祭のドキュメンタリー的映像との平行描写が深読みを誘います。不条理な悪夢のループと、そしてヘビメタが…。ああ、もうやめます。すごいセンスです。コアファン、必見です。

コアファンから180度転換して、次は大メインストリームの超王道ラブコメです。『こんなはずじゃなかった!』。主演の金城武が天才的な味覚を持つ富豪の実業家に扮し、買収を狙うホテルのレストランで見習いに甘んじている(実は天才的な料理の腕を持つ)チョウ・ドンユイと恋に落ちる物語です。これを王道と呼ばずして何と呼ぼう!

料理は美しくておいしそうだし、物語は起伏に富んでいるし、アクションだってあるし、金城武は相変わらず素敵だし、もうサイコーに楽しいです。そして何と言ってもチョウ・ドンユイのキュートさといったら! 僕はもうメロメロです。メロメロ仲間が欲しいです。(と書きつつ、サイトを見たら本作は売り切れの様子。さすが。ありがとうございます! でも完売の場合も、状況により追加販売がありえますので、チェックしてみて下さい!)

躍進が続くフィリピンから、巨匠ブリランテ・メンドーサ監督の弟子筋にあたるダニエル・R・パラシオ監督作が 『アンダーグランド』です。墓泥棒で娘の治療費を稼ぐ墓堀人の物語。さすがメンドーサの弟子、底辺リアリズムが半端でない。しかも実話だという重みが響きます。

驚きの作品といえば、 『ナッシングウッドの王子』をカンヌで見たときの驚きは忘れられません。戦火の絶えないアフガニスタンで30年以上にわたり100本を超える作品を作った監督がいる! いずれもB級を通り越してZ級の作品ばかりだけれども、彼は人民の声を代表する人物であり、地元のヒーローなのです。今日も彼は地方を旅し、自作を上映し、そして道中で新作を撮ってしまう!

タイトルはそんな監督が好んで使うフレーズから取られています。「ここはハリウッドでも、ボリウッドでもない。ナッシングウッドだよ」というわけです。いいですねえ。映画愛に溢れた必見ドキュメンタリー!

最後は駆け足になってしまいました。ごめんなさい。あと1週間で映画祭開幕とは信じられず、焦ります…。しかしここでいったん気を落ち着かせ、まだまだ作品紹介ブログは続けます!

《矢田部吉彦》

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