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『ベロニカとの記憶』は、ブッカー賞に輝いたジュリアン・バーンズの小説「終わりの感覚」の映画化で、もともと小説の大ファンだったリテーシュ・バトラ監督に白羽の矢が立った。バトラ監督にとって本作は、長編デビュー作『めぐり逢わせのお弁当』に続く待望の2作目。今回は、『アイリス』のアカデミー賞俳優ジム・ブロードベント、大御所シャーロット・ランプリングを筆頭に英国の演技派俳優が顔を揃えている。現代に生きる主人公が40年前の初恋の記憶を呼び覚ますストーリーであり、若い年代を演じるキャストも『ダンケルク』に出演しているビリー・ハウル、アン・リー監督作『ビリー・リンの永遠の一日』で俳優デビューを飾ったジョー・アルウィンなど注目俳優の名前が並ぶ。
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ジム・ブロードベントの演じる主人公トニーの元に、ある人の遺品に関する通知が届くところから物語は始まる。亡くなったのは40年も前の初恋の相手ベロニカの母親。「添付品をエイドリアンの親友であるあなたに遺します」という手紙を受け取るが、そこに添付品はなかった。遺品は青春時代の友人エイドリアンの日記であることが判明するが、なぜその日記をベロニカの母親が持っていたのか──記憶をたどり、40年ぶりにベロニカ(シャーロット・ランプリング)と再会することで、ある事実が明らかになっていく。
老人が青春時代をふり返り、現代と過去が交差していく物語は珍しくないが、この『ベロニカとの記憶』がありきたりの物語になっていないのは、感情も、記憶も、事実も、すべてが明らかにならないことだ。未解決というわけでは決してなく、劇中のエイドリアンが発するセリフにもよく表れているが、人生は不確かなもので溢れていて、それが人生である。その不確かなものを知りたくて観客は映画にのめり込むわけだが、すべてを明かさないことで想像はより膨らみ、物語が進むにつれ発見がある。それは単なる謎解きの発見だけではなく、感情における発見。とても知的かつ感傷的な映画だ。
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印象的なロケーションとしては、橋が記憶に刻まれている。若きトニーとベロニカが出会ってすぐに訪れるのがイングランド南西部ブリストルの観光スポットであるクリフトン吊り橋。ワイヤーで吊り下げるタイプの橋としては世界で一番古い橋だと言われている。そして40年後、ベロニカがトニーとの再会の場所に選んだのはロンドンのテムズ川に架かるミレニアム歩道橋。映画のなかでは「グラグラ橋」と呼ばれていた橋だ。2000年に開通するが横揺れが発生したため数日で封鎖され2002年に再開通。『ハリーポッターと謎のプリンス』の冒頭でデスイーター(死喰い人)に壊された橋としても知られている。
ほかにも『ブリジット・ジョーンズの日記』や『シャーロック・ホームズ』に出てくる有名すぎる可動橋のタワーブリッジ、『007/スペクター』の冒頭に登場するヴォクソール・ブリッジなどイギリス映画のロケーションとしての橋の登場はとても多い。そんな橋を訪ね歩く旅もいいかもしれない。(text:Rie Shintani)