【MOVIEブログ】2018ベルリン映画祭 Day9

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『In the Aisles』
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23日、金曜日。いよいよベルリン出張最終日。早いなあ。今日は久しぶりに7時まで寝ていたら、こういう日に限って6時45分に大事なメッセージが留守電に入っていた。おお(内容は後述)。本日もキリっとした快晴の朝。本当に今年は最後まで天気に恵まれた!

本日も9時からのコンペ作品からスタートで、ポーランドの『Mug』。美しい農村を舞台に、賑やかな家族と共に幸せに暮らすヘビメタ好きの青年が主人公で、恋人と婚約も果たして人生は順調に思えたものの、巨大なイエス像の建設現場で事故に合い、周囲の対応が変わっていってしまう様が描かれる。

人間の欲望の醜さや宗教の偽善を皮肉の効いたユーモアで笑い飛ばす演出はそつがなく、映像もシャープで美しい。画面の中心にフォーカスを当てて周囲をぼかす撮影はカルロス・レイガダス監督の『闇の後の光』を思い出させ、前作『君はひとりじゃない』でも伺えたシュモフスカ監督のどことなく現実離れした世界観も健在。そして、その人間洞察はリアルで残酷だ…。

しかし、前作であっと驚かせてくれたシュモフスカ監督だけれども、今作は脚本にあともうひとひねりが欲しかった。少しだけ残念。

10時半に上映終わり、モールへ行って職場へのお土産のチョコを買い、メイン会場に戻って列に並んで12時の上映へ。コンペ作品でドイツ映画の『In the Aisles』(写真)。これがとてもよかった!

とても無口でワケあり風の青年が、大型スーパーマーケットに職を得る。先輩に仕事を教えてもらい、同僚女性に一目惚れする…。というとてもシンプルな物語。シンプルではあるけれど、慎重にクリシェを避けているセンスがとてもいい。落ち着いたトーンが心地よく、青年がフォークリフトの運転に四苦八苦する下りなど、ユーモアもたっぷりで気持ちのよい時間が過ぎていく。しかし登場人物たちは個々に問題を抱えている。巨大なスーパーマーケットは高度資本主義社会の象徴であり、天を突くような商品棚に比べて人間たちはあまりに小さい。そこに従業員たちの深い孤独が見えてくる…。ああ、これはいい。

よい作品を見た喜びを噛みしめて外に出ると、ばったり出会った知人が「悪くないけど、話がちっちゃすぎるねー」と言う。それはそうだけどね、小さくて結構じゃないかと思う。もったいぶって上段に構えた作品より、丁寧な小品の方がずっといい。本作の3人の登場人物はいずれも等身大のリアリティーを備えていて素晴らしいし、ヒロイン役は『ありがとう、トニー・エルドマン』の娘役の女優さんだ。最後のコンペ作品が、今年のベルリンの最大のお気に入りになった。よかった!

モールの地下でこれまた本年最後となるソーセージを頂いて、14時半から上映に戻り、「パノラマ部門」の『Shakedown』というアメリカの作品へ。90年代からゼロ年代にかけてLAのアンダーラウンドに存在した、レズビアンを対象にした激しいストリップ・パフォーマー集団「シェイクダウン」の活動を追ったドキュメンタリー。

続けて16時半から「フォーラム」部門で『Yours in Sisterhood』というアメリカ映画。こちらは、70年代にアメリカに存在した唯一のフェミニズム雑誌「Ms.」に寄せられた当時の投書を、現在の女性を中心とした人々が画面に向かって読み上げ、当時と今の状況を比較しながら女性の地位やLGBTの認知や黒人差別など、幅広い社会問題を取り上げていくドキュメンタリー。

『Shakedown』は荒々しいビデオ映像と激しいダンスが特徴的な記録映画で、『Yours in Sisterhood』は洗練された監督の演出が光る作品。スタイルは全く異なるけれども問題意識はいずれも明確であり、期せずして最高の2本立てとなった。レインボーリール映画祭に推薦したいので、連絡してみよう。

『Yours in Sisterhood』の終わる直前に会場を出て、急いで別会場に移動する。というのも、「パノラマ部門」に出品されていた行定勲監督の『リバーズ・エッジ』が、見事に国際批評家連盟賞(FIPRESCI賞)を受賞したので、帰国した監督たちの代理として僕が受賞式に出ることになったのだった!(朝かかってきた電話はこの要件だった)。

明日の公式クロージングに先駆けての授賞式は18時からドイツのシネマテークで行われ、ここは映画祭会場となるシネコンと同じ建物内にあり、移動が楽でありがたい。国際的な批評家の面々で構成される審査員から賞状を手渡され、受賞のお礼を簡単に述べる。行定監督を始めとした作品関係者のみなさま、本当におめでとうございます!

行定監督としては『パレード』(10)に次ぐ受賞、日本映画としては坂本あゆみ監督の『FORMA』以来の同賞の受賞となる。日本映画の受賞の場に立ち会うことが出来て、これほど光栄なことはない。94年の日本に漂う独特な空気を個性的な演出で描いた『リバーズ・エッジ』が国際的に評価されたことはとても重要だ。日本映画界にも勇気を与える受賞だと思う。幾人もの方が祝福してくれて、僕も(本作の製作に全くタッチはしていないけれど)何度もお礼を言う。誇らしく、とても嬉しい。

1時間ほどで授賞式は終わり、同建物内を移動して映画祭会場へ。19時から「キュリナリー部門」(食にまつわる新作映画を特集する部門)に出品されているエリック・クー監督新作『Ramen Teh』を見るのだ。

本作はシンガポールと日本の合作で、主演は斎藤工さん、共演に井原剛さん、別所哲也さん、そして松田聖子さん!タイトルは「ラーメン亭」ではなく、「Teh」とはバクテーの「テー」で、シンガポールのソウルフードである豚料理のバクテーと、日本のラーメンを組み合わせた新メニューを指している。斎藤工さん演じる主人公は、亡くなった母の故郷であるシンガポールを訪ね、隠された家族の物語を発見し、そしてバクテー料理を極めていく…。

シンプルでストレートな物語が感動を誘い、客席では涙を拭う人が続出し、僕の隣のおじさんも鼻をずるずるさせていた。でも決して湿っぽい内容ではなく、爽やかな印象を与える気持ちの良い作品だ。そして何よりも料理がとても美味しそうで、お腹が減ってたまらない。昨日のプレミアは料理付きのイベント上映で、チケットは瞬殺だったらしい。僕もチケットがとれず悔しい思いをしたのだけど、本日の上映はなんとIMAXシアター。ヨーロッパで最大のスクリーンであるらしく、これはこれでとても貴重な機会だ。

ベルリンに来るかもと噂されていた聖子ちゃん(ごめんなさい、他に呼びようがない)に会えるかなと密かに期待していたのだけど、今日は登場せず、残念(昨日は登壇したらしい)。自然体の魅力を発揮した斎藤工さんもご自分の監督作の初日に駆けつけるために弾丸で帰国されたみたいで、これまた残念。でもエリック・クー監督はQ&Aで登場し、楽しい裏話をたっぷりと聞かせてくれて会場が盛り上がる。

それにしても、聖子ちゃんの演技がとてもいい!『野菊の墓』以来、もっと映画に出ればいいのにと思っていたけど、やはり長い芸歴は伊達ではない。今後はもっとスクリーンでお目にかかれますように!

行定監督の代理に、聖子ちゃんニアミス(してないけど)が続き、興奮の時間が続いてしまった。ラーメンはあと48時間くらい我慢するとして、シネコンのカフェでサンドイッチを食べ、上映に戻る。

さていよいよ本日6本目にして、今年のベルリン出張最後の鑑賞作品は、「アウト・オブ・コンペティション」の『Aga』。監督のミルコ・ラザロフはブルガリア人で、本作はブルガリアとドイツとフランスの合作。しかし映画の舞台はヨーロッパではなく、雪と氷に覆われた北の極地だ。

氷の地平線が広がる中にポツンと建てられたテント小屋に住む老夫婦の暮らしを描き、圧倒的な映像美で夫婦愛のドラマが綴られる。これ以上何を書いても蛇足になりそうなくらい、映像と愛を浴びる90分。大画面で見る映画の至福に浸り、過酷な自然の中で奮闘する夫婦の日々の営みに心が震える。最後の最後にこの映画が見られてよかった。素晴らしい作品だ。

夫の名はナヌークで、となると本作はドキュメンタリー映画の元祖ともいえる『極北のナヌーク』にオマージュを捧げているのだろう。世界中の大スクリーンで上映されますように。

ということで、今年のベルリンもこれにて終了!コンペでは残念ながらウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』と、クリスチャン・ペツォルト監督の『Transit』が未見。やむなくこの2本以外から、明日発表される各賞を予想してみると…。

最高賞の金熊賞は、ずばりロシアの『Dovlatov』。総合的に見て、この作品が相応しい気がする。

2等賞の審査員賞は、本日見て、個人的には最高のお気に入り作となった『In the Aisles』。

監督賞は、悩むところだけど、ここは自分を劇中で殺した『Pig』の監督に!

主演女優賞は、スウェーデンの『The Real Estate』の女優さんかな…。パラグアイの『The Heiresses』の女優さんが最強の対抗馬。『3 Days in Quiberon』でロミー・シュナイダーを演じた女優さんや、『Daughter of Mine』のアルバ・ロルヴァケルも候補になるだろうけど、んー、ここはインパクトの強さで『The Real Estate』にしておこう。いや、やっぱり違うな。インパクトが強すぎることが敬遠され、最終的には『The Heiresses』の女優さんになるのではないかと予想する!

主演男優は、他の賞と被ってよいなら、『Dovlatov』の俳優。対抗馬はこれまた『In the Aisles』の俳優。ふたりの一騎打ちではないかな?『Damsel』のロバート・パティンソンもとてもよかったと思っているのだけど、んー、受賞はないか…。あ、『The Prayer』の少年もよかった。しかし、あくまで本命は『Dovlatov』ではなかろうか…。

ということで、予想も尽きないけれど、長文になってしまった。そろそろ3時だし、いい加減にしておきます。

今年も充実のベルリンでした。元気に出張を乗り切れて安堵です。ブログにお付き合い下さり、ありがとうございました!明日の朝の便で帰ります!お疲れ様でした!

《矢田部吉彦》

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