何かいいことあるかもー! と、新しい服を着て出掛けた日、びっくりする出会い(いや遭遇?)がありました。朝、玄関のドアを開けたら、えっ!? 人が倒れてるっ! いや…寝ている!? 声をかけても反応がなくて、同じフロアのマンションの方でもなさそうで、具合が悪くて倒れたのか、この春によくありがちな泥酔なのか分からなく…でも何かあったら大変! というわけで救急車を呼びました。
急いでいたので管理人さんに引き継いで出掛けたのですが、後に分かったのは、その人は出張中のビジネスマンだったということ。どうやら宿泊先のホテルに辿り着けなかったようで、間違ってうちのマンションに入ってしまったのだとか。ってことは、泥酔だったということですね(おいっ!)。
ふと思ったのは、やっぱり現実はこんなもんだなーって。映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』は、帰宅すると家の前にあんなに素敵な青年が倒れていて、恋が始まっちゃったりしますが、現実にはがんちゃん(岩田剛典)なんていなーい! 当たり前か…(夢、みすぎだって!)。
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でも、素敵な映画とは出会いました。『君の名前で僕を呼んで』──タイトルが詩的で、素敵で、気になっていた映画です。17歳と24歳の青年の恋を描いた、とってもキラキラした、とっても切ない、とっても美しい、ひと夏の恋を描いたラブストーリーです。
舞台は80年代の北イタリアの避暑地。主人公は17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)と24歳の大学院生のオリヴァー(アーミー・ハマー)。エリオの父親はギリシャ=ローマの美術史を専門にしている大学教授で、オリヴァーはその研究を手伝うために避暑地にやって来ます。そしてエリオと恋に……。

誰かと誰かが出会って、恋に落ちて、恋を経て人生を経験する。よくある話ではありますが、この映画が特別に素敵なのは、人を好きになったときの心情──たとえば、好きだからこそ本当の自分を見せるのが怖い、本当の自分を見せたら嫌われるかもしれない、そういった恋が生まれたときの気持ちを、とても丁寧に描いていることです。
タイトルでもあり劇中に登場するセリフでもある「君の名前で僕を呼んで」。このセリフのシーンも美しかった! 好きな人に名前を呼ばれるって、実はとてもドキドキする瞬間なんですよね。
ベッドのなかで名前をささやかれるのはもちろん、そのずっと手前──「古山さん」と苗字で呼ばれていたのに、少し親密になって、ある日「エリーさん」と名前に変わって、やがて「エリー」になっていく。呼ばれ方が少しずつ変わっていくことにドキドキしたこと、そういえばあったなぁなんて、過去の恋を思い出したりしました。そう、この映画は恋をしたときの気持ち、あの何ともいえない切ない気持ち、張り裂けそうな気持ちを思い出せてくれるんです。
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レオナルド・ディカプリオ以来の才能と言われている、エリオ役のティモシー・シャラメの才能と美しさにも惚れました。オリヴァーと出会って、自分のなかで芽生えた感情に戸惑いながら、オリヴァーに振り回されながら、初めての恋と向きあっていくエリオ。この気持ちを君に伝えていいの? 君に触れていいの? 君を好きになっていいの? もう、枯れかけていた四十路の心が潤っちゃうほど、恋する気持ちが描かれています。エリオとしてのティモシー・シャラメの表情を映し続けたラストシーン、ラストショット、心が震えました。
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この映画と出会って、なんだかこの夏はいい恋ができそうな気がしてきました(相変わらず単純な女…)。今宵はここまで、また次回。(text:Elie Furuyama)