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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭予習<特別上映編>

カンヌ映画祭予習、第2弾は公式部門内の特別上映系作品をチェックしてみます。

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カンヌ映画祭予習、第2弾は公式部門内の特別上映系作品をチェックしてみます。

【アウト・オブ・コンペティション】
賞の対象になるのが「イン・コンペティション」であるのに対し、賞の対象とならないのが「アウト・オブ・コンペティション」です。特別上映と何が違うのか永遠の謎ではあるのですが、賞の対象にはしない大作や話題作、というのがざっくりとした定義でしょうか。ともかく今年は本数が少ないようで、以下の4本が「アウト・オブ・コンペ」扱いです。

『Solo A Star Wars Story』 (米/ロン・ハワード)
『Sink or Swim』(仏/ジル・ルルーシュ)
『The House That Jack Built』(デンマーク/ラース・フォン・トリアー)
『The Man Who Killed Don Quixote』(英/テリー・ギリアム)

『Solo A Star Wars Story』 (米/ロン・ハワード)
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』という邦題で日本では6月29日から公開ですね。5月25日の全米公開に先駆けて、カンヌでワールド・プレミアということになります。もちろんとても見たいけど、カンヌで見たら怒られそう。個人的には東京で見るまで我慢だろうなあ。

『Sink or Swim』(仏/ジル・ルルーシュ)
コメディーからギャングものまで幅広い芸風を誇る役者のジル・ルルーシュが、初めて単独で監督を手掛ける作品です。内容は、いささか腹のたるんだおじさん達がシンクロナイズド・スイミングに取り組む、おっさんコメディー!

『フル・モンティ』みたいな感じを予想していますが、中年の危機に面した男たちがシンクロを通じて立ち直っていくみたいな話かな? ともかく役者が豪華で、マチュー・アマルリック、ギヨーム・カネ、ブノワ・ポールヴールド、ジャン=ユーグ・アングラードらが海パン一丁で奮闘するという、見たいような見たくないような、いや、猛烈に見たいのですが、ともかくとても楽しみです。

『The House That Jack Built』(デンマーク/ラース・フォン・トリアー)
不適切発言によってカンヌから追放扱いをされていたラース・フォン・トリアーの「出禁」が解けた!

『ニンフォマニアック』(13)以来5年振りとなる新作は、ジャックという名のシリアル・キラーの行動を追っていく内容です。70年代のアメリカを舞台に、殺人を芸術とみなして犯行を重ねて行くジャックの心理を、ジャックの視点から細かく観察していくもののようで、資料によれば「暗く不気味な物語だが、洗練され、時おりユーモアも交えて語られる」。

主演のジャックにマット・ディロン、共演にユマ・サーマン、ブルーノ・ガンツ、ライリー・キーオなど。熱狂的な支持者を持つトリアーだけに(僕もそのひとりですが)、本作の上映と本人の登場は間違いなく今年のカンヌのハイライトのひとつになるでしょう。

『The Man Who Killed Don Quixote』(英/テリー・ギリアム)(写真)
テリー・ギリアム悲願のドン・キホーテ映画、構想20年を乗り超え、ついに完成!

よく知られているように、テリー・ギリアムは「ドン・キホーテを殺した男」の企画に20年以上も取り組んでいて、そのタイトルは実現されない企画の例としてすでに映画史に名を刻んでいると言っていいほどです。

かつてドン・キホーテ役にジャン・ロッシュフォール、サンチョ・パンサ役にジョニー・デップを配して映画化を試みたものの、撮影中に空中分解し、その顛末が『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(02)というドキュメンタリー映画に収められているのは周知のとおり。オーソン・ウェルズにも完成を見なかったドン・キホーテ映画があり、どうにもドン・キホーテは呪われた企画というイメージが付きまといます(もっとも、オーソン・ウェルズには完成しなかった企画がいくつもあるのですが、その話はまたいずれ)。

しかし、テリー・ギリアムは諦めない。ドン・キホーテ役にジョン・ハートや、あるいはロバート・デュバルとユアン・マクレガーのコンビなどで映画化を試みるものの、やはり資金難で頓挫してしまいます。そして2016年になり、有名プロデューサーのパオロ・ブランコが企画に参加し、ついに映画は実現に向けて本格的に動き出したのでした。

最終的に、ドン・キホーテ役にはジョナサン・プライス、サンチョ・パンサ的な役割の青年トビー役にアダム・ドライバーという配役になっています。シニカルなCMディレクターのトビーが、自分がドン・キホーテであると信じている老人と関わりを持ち、彼の世界に引きずり込まれていくうちに現実と妄想の境が分からなくなっていく、という物語です。

これだけ呪われた企画が最終的に映画として実現するケースは滅多にないことで、映画史上の奇跡と呼べるかもしれません。テリー・ギリアムの粘りは驚異的で、20年以上もこだわり続けた脚本がどのような内容なのか、ついに我々も目撃できる日がやってきます。そしてこの奇跡を紹介する場として、カンヌは本作を「クロージング上映」に位置づけました。ということで、今年のカンヌは最終日まで気が抜けない!

【ミッドナイト・スクリーニング】
文字通り遅い時間帯に上映される作品を集めた部門で、今年は4本。どれも見たいのですが、深夜上映は翌朝に響くので、例年悩みます…。

『Fahrenheit 451』(米/ラミン・バーラニ)
『Whitney』(英/ケヴィン・マクドナルド)
『Arctic』(ブラジル/ジョー・ペナ)
『The Spy Goes North(Gongjak)』(韓/ユン・ジョンビン)

『Fahrenheit 451』(米/ラミン・バーラニ)
ラミン・バーラミ監督はカンヌやベネチア映画祭の常連で、本作が長編6作目。レイ・ブラッドベリの『華氏451度』の映画化で、フランソワ・トリュフォーによる『華氏451』(1966)と同じ原作です。

読書が禁じられる近未来において、書物の焼却を職業とする男が女性との出会いを通じて本の魅力にとり付かれていくが…、という有名な物語。予告編を見ると、バーラミ監督は主人公を黒人青年に設定し、スタイリッシュで現代的なディストピアSF映画に仕立てているようです。主演にマイケル・B・ジョーダン、怖い上官にマイケル・シャノン。

『Whitney』(英/ケヴィン・マクドナルド)
『[ブラック・セプテンバー]ミュンヘン・テロ事件の真実』(99)、『運命を分けたザイル』(03)、『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』(12)など多数のドキュメンタリー映画で知られるマクドナルド監督の新作のテーマは、ホイットニー・ヒューストンの人生。

近頃音楽ドキュメンタリーに優れた作品がとても多く、日本でも年内にマリア・カラスやアストル・ピアソラ、あるいはその他ロック・ミュージシャン関連の傑作を見る機会が来るはずです。そして一世を風靡したホイットニー・ヒューストンの映画がつまらないはずがなく、おまけにアカデミー賞受賞監督が手掛けるとなれば、これはもう必見で間違いないですね。

『Arctic』(ブラジル/ジョー・ペナ)
気温がマイナス70度に達することもある過酷な北極にて、ひとりでサバイブする男を描くドラマ作品とのことです。その男を演じるのはマッツ・ミケルセン。もう、これだけで必見決定ですよね。

ジョー・ペナ監督は本作が長編デビュー作で、もともとYouTubeに短編を発表して数百万人に視聴されてきた実績があるとのこと。そこからいきなり極地にて大スター俳優と映画を撮るのだから、かなり強力な実力と運の持ち主なのでしょう。期待が高まります。

『The Spy Goes North(Gongjak)』(韓/ユン・ジョンビン)
ユン・ジョンビン監督は『許されざるもの』(05)で鮮やかにデビューを飾り、『悪いやつら』(13)、『群盗』(15)などを手掛けていますが、カンヌは初参加です。

元警察官が韓国秘密警察にスカウトされ、「ブラック・ビーナス」というコードネームを与えられて核情報を入手すべく北朝鮮に潜入するスリラーです。主演がファン・ジョンミンということもあり、これは見たいなあ。それにしても今年のカンヌはファン・ジョンミンとユ・アインの『ベテラン』コンビが揃って来るのか…。ああ。

【スペシャル・スクリーニング】
例年、社会派のドキュメンタリーなどがこの部門に集まる傾向がありますが、今年はどうでしょう。

『10 Years in Thailand』(タイ/監督後述)
『The State Against Mandela And The Others』(仏/ニコラ・シャンポー&ジル・ポルト)
『Another Day of Life』(スペイン/ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・ネナウ)
『The Great Mystical Circus』(ブラジル/カルロス・ディエゲス)
『La Traversee』(仏/ロマン・グーピル)
『To The Four Winds(Libre)』(仏/ミシェル・トエスカ)
『Dead Souls』(中/ワン・ビン)
『Pope Francis: A Man of His Word』(独/ヴィム・ヴェンダース)

『10 Years in Thailand』(タイ)
本作は「10年後のタイ」をテーマに、5名のタイの監督が短編を手掛けるオムニバス作品です。香港で作られた『十年』、そして日本でも是枝監督を含む複数監督が企画参加を発表している『十年』が進行中ですが、『10 Years in Thailand』はそのタイ版ということになります。

参加監督は、まずパルムドール受賞監督のアピチャッポン・ウィラーセタクン。そして『ワンダフル・タウン』(08)、『ハイソ』(10)などのアーティット(アディティア)・アッサラット、『レベル・サーティーン』(06)のチューキアット・サックヴィーラクル、ドキュメンタリーや実験映像で知られるチュラヤーンノン・シリポン、『怪盗ブラックタイガー』(00)のウィシット・サーサナティヤン。以上5名の監督たちです。

タイの気鋭のアーティストたちが集まった本作は、現代タイ社会とタイ映画を知る格好の機会になります。カンヌで紹介される意義は果てしなく大きいと思います。いや、タイに留まらず、東アジア全体が盛り上がって祝福する上映になりそうです。その場にいられますように。

『The State Against Mandela And The Others』(仏/ニコラ・シャンポー&ジル・ポルト)
ネルソン・マンデラが生きていれば、今年が100歳になる年でした。反アパルトヘイト運動に関連した63年と64年の裁判でマンデラの名前は有名になりましたが、マンデラと行動をともにして共に死刑を宣告された8名の同志の存在はあまり知られていません。このドキュメンタリーは、新たに発見された資料を用いて彼らの姿に光を当てていくものです。

ネルソン・マンデラの名前だけが残っていく中で、ともに戦った人々を世に知らしめる行為は崇高な価値があるはずで、とても貴重な作品であることは間違いないでしょう。やはりカンヌのスペシャル・スクリーニングは真に「スペシャル」である気がします。

『Another Day of Life』(スペイン/ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・ネナウ)
ポーランド出身で世界的に著名なジャーナリストであったリシャルト・カプシチンスキが、アンゴラ内戦の体験を著したノンフィクションが「Another Day of Life」(1976年発刊)であり、その内容をアニメーション映画化したのが今作『Another Day of Life』であるようです。

作品の製作を2013年に発表しているようなので、完成までに5年以上を費やしていることになります。アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』のリアリズムタッチを連想しますが、相当の力作であることが予想され、社会派のアニメーションはまだまだ珍しいジャンルでもあり、注目していきたいと思います。

『The Great Mystical Circus』(ブラジル/カルロス・ディエゲス)
フランスのヌーヴェル・ヴァーグのブラジル版とも呼ばれる「シネマ・ノーヴォ」という一派が50~60年代に存在し、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスやグラウベル・ローシャの名前が世界的に知られていますが、カルロス・ディエゲスも一派の若い監督として位置づけられた重要な存在です。長年に渡って精力的に製作を続け、御年78歳になるブラジル映画界の重鎮であります。

ディエゲス監督は80年代に『バイバイ・ブラジル』(79)など3作がカンヌのコンペに入るなど快調に活動し、その後もコンスタントに創作を続け、2003年には『ゴッド・イズ・ブラジリアン』で東京国際映画祭のコンペに参加して来日も果たしています。その時にご挨拶はしたはずなのですが(当時僕はまだ選定ディレクターではなかった)、もう15年になるのですね。記憶がおぼろげですが、大柄でとても温かい方だった印象があります。

17本目の長編作品となる新作『The Great Mystical Circus』は、1910年から1世紀に渡ってサーカス団を運営し続けているオーストリアの一家を描くロードムービー作品とのこと。ディエゲス監督はブラジルという国や国民性をテーマに追求し続けている作家という印象がありましたが、近作に触れる機会がなかったので、現在の監督の関心がどのようなところにあるのかを知るためにも新作が見られるのはとても嬉しいです。ヴァンサン・カッセルやカトリーヌ・ムシェなどフランス人俳優がキャストされています。

『La Traversee』(仏/ロマン・グーピル)
フランスのロマン・グーピル監督は『ハンズ・アップ!』(10)と『来たるべき日々』(14)で2度東京国際映画祭に参加してくれています。子どもたちのささやかな反乱を温かく描きつつ移民政策に一石を投じた『ハンズ・アップ!』、そしてドラマとドキュメンタリーを絶妙に融合しながら皮肉なユーモアを交えて身辺雑記を綴る『来たるべき日々』はいずれも監督の才気が溢れる秀作でした。

ロマン・グーピル監督は1951年生まれで、左派を自認し、17歳で迎えた68年の5月革命では高校生として活動に身を投じています。ゴダールやポランスキーらの助監督を経験したのちに自ら監督になりますが、その作品に政治活動の経験は色濃く反映されており、しかし政治色を前面に出し過ぎないセンスを備え、フランス映画界においてユニークな存在であり続けています。

今年は5月革命から50周年であることを前回のブログに書きましたが、グーピル監督の新作『La Traversee』はまさに革命から50年経った現在を捉えるドキュメンタリー作品です。高校生活動家だった自分自身と、運動の指導者のひとりであったダニエル・コーン=バンディ氏の現在の日常を淡々と観察する内容のようです。グーピル監督がどのように50年を「総括」するのか、監督のスタイルを信頼している僕としては興味が尽きません。そして映画への関心もさることながら、個人的にもグーピル監督に再会したいし、これまた必見リストに追加です。

『To The Four Winds(Libre)』(仏/ミシェル・トエスカ)
今作もフランス人監督によるドキュメンタリー作品。舞台はフランスとイタリアの国境近くのラ・ロヤという村で、オリーヴ農家を営むセドリックという男性の行動を映画は追います。セドリックはイタリアを通ってフランスに入った難民と遭遇しますが、ほかの村人と相談の上で難民を受け入れる決断をし、彼らの世話をして亡命申請を手伝います。しかし不法移民を匿うことは違法であり、国と対峙することになってしまう。かくしてセドリックと個人的な友人であるミシェル・トエスカ監督は3年間にわたって彼の活動を追い、その戦いの日々をカメラに収めてきた、というのが本作の内容です。

移民や難民を主題とする作品は相変わらずたくさん作られていますが、その意義が薄れることはなく、秀作も多く含まれます。上記のあらすじを読んだだけで、本作も見たくてたまらず、見悶えがするほどです。

『Dead Souls』(中/ワン・ビン)
ワン・ビン監督の新作は、8時間15分!! もはやワン・ビンとラヴ・ディアスの2人だけは何時間の映画を作ろうが驚かないですけどね。そうは言っても、上映時間に比較的厳しいとうわさされるカンヌで8時間15分はしびれます。

中国北西部の甘粛省のゴビ砂漠地帯に、60年以上前に大量に餓死した囚人の骨が散乱しているという。極右とみなされて再教育キャンプに収容された彼らはいかなる人々で、いかなる悲劇を体験したのか。『Dead Souls』は収容所の生き残りの人々に話を聞き、当時起きた出来事に迫っていく内容であると解説されています。

これは見たいです。しかし、上映は映画祭初日に予定されていて、つまり通常は夜のオープニング作品しか公式上映がない初日の朝から上映しようというのが映画祭側のプランのようです。初日から8時間半劇場にこもることは他の業務と合わせてみても難しいことが予想され、こればかりはほかの手段を検討せざるを得ないかもしれない…。

『Pope Francis: A Man of His Word』(独/ヴィム・ヴェンダース)
ヴィム・ヴェンダース監督新作は、第266代ローマ教皇フランシスコの活動を追ったドキュメンタリー。2013年に初の南米出身者としてローマ教皇となり、初めて「アッシジの聖フランシスコ」から名を選んだ教皇として知られ、その「アッシジの聖フランシスコ」は最も敬愛されるカトリックの聖人のひとりであり、貧者の身を案じ、地上の総ての生命や生物を至上の存在として愛したとされています。

本作では、死や、法制度、移民、エコロジー、格差社会、物質主義、家族の役割など、現代社会の諸事象に対する教皇フランシスコの考え方や取り組みが語られ、教皇の内面世界に迫る内容であるとのことです。世界を動かす機軸のひとつであるカトリック世界がいかなる指導者を戴いているのかを知ることはとても重要ですし、そこにヴェンダース監督がどのような切り口を見せるのか、これも貴重な作品になるでしょう。

以上、「スペシャル・スクリーニング」は8本でした。こうやって見てくると、この部門の性格はよく分かりますね。重要な作品が詰まっていて、見逃せないものばかりであるということも。例年、ついつい手が回らない部門なのですが、今年は出来る限り頑張ってみようと思います。

次回は、公式部門の第2コンペ、「ある視点」部門を見て行きます!

《矢田部吉彦》

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