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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭 Day5

12日、土曜日。6時半に起きて7時半には外へ。薄曇り。Tシャツに薄手のカーディンガンでちょうどいいくらい。カンヌ前半戦、とりあえず天気は上々だ。

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12日、土曜日。6時半に起きて7時半には外へ。薄曇り。Tシャツに薄手のカーディンガンでちょうどいいくらい。カンヌ前半戦、とりあえず天気は上々だ。

本日は8時半から、コンペのジャン=リュック・ゴダール監督新作『The Image Book』へ。昨夜が公式プレミアだったのだけど、やはりゴダールは来場しなかったみたいだ。来るだろうとは誰も思っていないので驚きは無いのだけれど、それを承知で選ぶカンヌと嫌がらずに出品するゴダールの関係もなんだか微笑ましい。

と思っていたら、ゴダール、FaceTime(スカイプのアップル版?)を使って自宅(たぶん)とカンヌを繋げた記者会見を行ったそうな! やるなあ。

『The Image Book』は、近年のゴダール作品ではお馴染みの映像と音のコラージュ。古今の映画やTV映像の断片に、音の洪水と思索的なナレーションが被さっていく。1度見ただけでは理解は難しいけれど、受ける刺激の量は並みの映画の比ではない。

単純化を恐れずに書けば、主題は現代の暴力と戦争の可視化、そしてゴダールの鎮まることを知らない怒りだ。西欧がアラブ諸国を結局は理解し得ないことについて、そして彼の地で恒常化する戦争のイメージが、コラージュが織りなす壮大なモザイク画となって見る者に襲いかかってくる。枯れることを知らないゴダール、まさに健在。

続いて11時半から、同じくコンペでジャ・ジャンクー監督新作『Ash is Purest White』。プロデューサーは日本の市山尚三氏、撮影はA・デプレシャンやO・アサイヤス作品を多く手掛けるフランスのエリック・ゴーティエ。

地方都市で顔役的な立場にある男と、その恋人の女性の愛の物語。チャオ・タオが扮するヒロインの視点から、長年に亘る愛と失望と再生の行方が描かれる。中国の複数の土地が舞台になり、今までのジャ・ジャンクー作品では土地や空間そのものが主役であったのに対し、撮影がエリック・ゴーティエになったからか、より個人に焦点が当てられたような印象を受ける。もちろん、後景としての土地の様相は重要であることには変わりない。

ジャ・ジャンクーの最高傑作である評する声も聞こえてくる中、僕はそこまでののめり込み方はしなかったけれども(その理由は考え中)、落ち着いたダイナミズムを備えたメロドラマを堪能する。

上映終わり、間髪明けずに、13時30分から「ある視点」部門の『Murder Me Monster』という作品へ。アルゼンチン産のアート系ホラー作品で、これがかなりキテレツな怪作だった! 辺境の地で女性の首なし死体が見つかり、姿をくらましていた地元の男が捕まるが、果たして彼が犯人なのか、それとも噂されるモンスターが存在するのか…、という物語。

ルックは完全にアート映画の美しさ。ホラー的要素は無く、事件捜査ものでもなく、その土地に特有の重々しい空気と猟奇的殺人をダークに結び付け、神秘主義的な世界をゆっくりとしたペースで構築していく純然たるアート映画だ。少なくとも中盤までは…。

そこから終盤にかけて徐々にトンデモ度が上がっていくのだけど、これ以上はネタバレになるので書けない。とはいえ、日本で見られる機会がなければネタバレも何もないのだけど。とにかく、セクシャルな主題が露わになり、これは一体何を意味する寓話なのだろうと、最終的には心の中で爆笑する展開になる! ああ、これでは何のことやら伝わらないな…。良い意味で珍品の拾い物!

ニヤニヤしながら映画館を出て、マーケット会場に赴いて15時半から18時半までミーティング。

19時に上映に戻り、「スペシャル・スクリーニング」部門でブラジルのカルロス・ディエゲス監督新作『The Great Mystical Circus』へ。上映前に監督が登壇して挨拶。その挨拶の中で、ディエゲス監督も名を連ねるブラジルの映画運動「シネマ・ノーヴォ」の中心人物であったネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督が4月21日に亡くなったことに触れ、不覚にも知らなかった僕はとても驚いてしまった。そうだったか…。ドス・サントスはゴダールの2歳年上で、享年90。アテネ・フランセで追悼特集が行われますように。

『The Great Mystical Circus』は、20世紀頭から21世紀まで100年に渡りサーカス一座を運営する一族の物語。世代ごとにチャプター分けがされて、次々に主人公が交替していく構成がとても楽しい。硬軟取り混ぜたファンタジー風味がたっぷりで、ヴァンサン・カッセルを始めとしてブラジンの役者陣もナイス。期待以上の面白さで大満足。

そして22時から「批評家週間」部門に出品されているベネディクト・エルリングソン監督新作『Woman at War』(写真)へ。『馬々と人間たち』で東京国際映画祭の監督賞を受賞したベネディクトの待望の新作だ。実は監督とは一昨日に4年振りの再会を果たしていて、熱いハグを交わしたばかり。そして、親しい監督の新作を見るのは心配と緊張が混じり合って大変なのだけれど、そんな懸念を吹き飛ばす快作だった!

アイスランドを舞台に、エコロジー意識の高いヒロインの姿を描く内容で、環境を壊す地元のアルミニウム工場に抗議していささか過激な妨害活動にいそしむヒロインに、数年前に申請していた養子受け入れの希望がかなったとの連絡が入る…、という物語。

アイスランドの自然を荒々しく魅力的に捉えるのはもちろん、抜群のユーモア感覚は健在。少しエキセントリックだけれど愛さずにいられないヒロインのキャラクター造形と、奇抜なエピソードの絡め方はベネディクト監督の独壇場だ。さらに、音楽に凝らした演出がたまらなく面白く、上手い。もちろん、アイスランドの土地に対する愛情は隠しようもなく、エコロジーのメッセージはかなりストレートに届いてくる。

いやあ、『馬々』の受賞は伊達ではなかった! というかむしろ、新人部門の印象が強い「批評家週間」の中では、ベネディクトの実力はリーグが違うとさえ思えてしまう。「ある視点」か、なんならコンペでもいいくらいだ。監督にはまた明日会えるはずなので、興奮の感想を伝えよう。

宿に戻って本日も0時半。今日も朝食以来何も食べていないことに気付いた途端に空腹で死にそうになり、買い置きのワインをすすってパンをかじってブログを書いて、ああ、そんなに書いていないのにもう2時半を回ってしまった。カンヌも中盤戦に入るとはいえ、まだまだ先は長い。寝ます!

《矢田部吉彦》

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