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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭 Day10

17日、木曜日。6時半起床。久しぶりに6時間たっぷり眠って生まれ変わった気分! 7時半に外に出ると、薄曇りの晴れ。やはり結構涼しい。カンヌも終盤戦に突入だ

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17日、木曜日。6時半起床。久しぶりに6時間たっぷり眠って生まれ変わった気分! 7時半に外に出ると、薄曇りの晴れ。やはり結構涼しい。カンヌも終盤戦に突入だ。

本日は8時半のコンペからスタートで、イタリアのマッテオ・ガローネ監督新作『Dogman』(写真)。犬のトリマーの店を営む善良な小市民の男が、街の粗暴な友人に振り回されていく悲劇を描いたダークなドラマ。舞台となる街のさびれ具合が絶妙な背景となって、暴力に抗えない平凡な男の心境を代弁する演出がたまらなく上手い。

組織犯罪は絡まないけれども、ダークさという点では『ゴモラ』(08)以来のヘヴィーなガローネ作品かもしれない。犬と娘を愛する小心の男のキャラクター造形も秀逸で(必ずしも善良なだけではないことが深読みを誘う)、リアリズムともファンタジーともつかない、美しくも荒れた世界観に見惚れるばかり。ああ、これはいい。

続いて11時半から同じくコンペで、イ・チャンドン監督新作『Burning』。名匠イ・チャンドン監督、主演に人気スターのユ・アインとスティーヴン・ユァン、そして原作が村上春樹の短編「納屋を焼く」であることで、大変に話題になっている作品だ。

30年近く前に読んだきりの原作の中身はあまり覚えていないけれど、かなり異なる物語なのではないかな? 原作のいくつかの要素を取り入れてはいるものの、語られるのはイ・チャンドンの物語だと思った方がよさそうだ。

『Burning』は昨日の公式上映で大好評だったようで、業界誌の星取表では断トツの平均点を叩き出し、それまでトップだった是枝作品を大幅に上回った。僕は個人的には是枝作品の方が好きなのだけれど、『Burning』も得体の知れない完成度を備えた作品だった。

ユ・アイン扮する作家志望の青年が中学時代の同級生の女の子と偶然再会して恋に落ちるが、彼女はアフリカに旅行に出かけてしまう。しばらくして帰国した彼女を嬉々として空港に迎えに行くと、彼女はスティーヴン・ユァン扮する年上だが若者の金持ち男を連れていた…。

両スター俳優ともにはまり役で、謎めいた物語の中、背景のあまり説明されないキャラクターに不思議と説得力をもたらすことに成功している。細かい設定が観客の想像力を刺激し、そして村上作品には無いであろう展開のサプライズ。少し長いと感じてしまったけれど(148分)、相当に見応えのある作品だ。

上映終わり、宿に戻って、溜まった資料を抱えてマーケット会場に行き、国際宅急便で日本に送付する。

15時45分に上映に戻り、「ある視点」部門のブラジル映画で『The Dead And The Others』という作品。森の中の村で暮らすネイティブ青年の葛藤を描く物語。アートな映像を強調するあまり、少しやり過ぎの感があり、評価は微妙なところ。よい作品ではあるはずのだけに、残念。

続いて19時45分から、「スペシャル・スクリーニング」部門に出品されているフランスのドキュメンタリーで『To The Four Winds』という作品。北イタリアから南フランスに渡るアフリカ難民の面倒を見る農家の男性に密着する内容で、不法移民をかくまうことは違法かもしれないが、困難にある人々を無視は出来ないだろうという姿勢を男性は貫く。男性の行動を通じ、政治とヒューマニズムの境目がリアルに見えてくる。

難民問題に直面していない僕が安易なコメントを挟めるわけはないけれど、カンヌからそう遠くない地域での出来事であり、多くの観客にとっては「いまそこにある危機」の内容だ。依然としてヨーロッパの最大の関心事である難民問題の最前線の様子が見られて、極めて貴重な作品だ。

本日最後は22時15分から「ある視点」部門で、カサフスタンの『The Gentle Indifference of the World』。昨年個人的に親しくなったアディルカン・イェルザノフ監督の新作。またしても親しい監督の作品ということで緊張しながら臨んだところ、これが掛け値なしの秀作だった!

カザフスタンの広大な大地が広がる中、裕福な家庭の美しい女性と、使用人階級の屈強な男性の愛の物語。シネスコ画面を埋め尽くす美しい映像、絶妙なユーモア、ペーソス溢れる人間関係、ファンタジー的な設定、そして悲劇…。でも決して暗くならない。まるで雰囲気は異なるけれども、受ける印象はアキ・カウリスマキのそれに似ている。アディルカン、こんな才能があったのか! 素晴らしい想像力に改めて感嘆する。

今回のカンヌでは日本の配給会社も活発に動き、かなりの数の作品が(高値で)買われているという話が耳に入ってくるけれど、この『The Gentle Indifference of the World』は上映が終盤ということもあり、あまりチェックの対象になっていないのではないだろうか? 実際のところは分からないけれども、少なくともまだ日本公開のうわさは聞こえてこない。秀逸なセンスを持つアディルカンの作品、是非日本で紹介したい!

宿に戻り、0時過ぎ。すると日頃から大変お世話になっている某日本の映画会社のS社長が、おにぎりを差し入れて下さった! 早速同僚を呼び出し、ともに感涙にむせびながらおにぎりを頂く。

意外なおにぎりパーティーが終わって1時半。鈍い頭でブログを書き始めると、3時を回ってしまったので(本当はドッグマンもイ・チャンドンもカザフ映画も書きたいことはもっともっとある)、ダウンします!

《矢田部吉彦》

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