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【MOVIEブログ】2018シドニー映画祭日記(上)

6月6日(水)から開催されるシドニー映画祭のコンペティション部門の審査員に招いてもらったので、参加することにしました。昨年11月に訪れたブリスベンに続き、2度目のオーストラリア。ということで日記ブログを書いてみます

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6月6日(水)から開催されるシドニー映画祭のコンペティション部門の審査員に招いてもらったので、参加することにしました。昨年11月に訪れたブリスベンに続き、2度目のオーストラリア。ということで日記ブログを書いてみます。

<6月5日>
5日、火曜日。朝パッキング。オーストラリアのいまの季節は初冬とのことで、持参する服にとても悩む。日本の秋くらいのつもりでいけばいいのだろうけど、なにせいまの東京が真夏並みの暑さなので、コートのこととかうまく考えられない。

結果、色々と詰め込み過ぎてしまった。重いトランクを引きずって職場に行き、夜まで仕事。やることが多すぎて焦って空回り…。19時10分に職場を飛び出て羽田空港へ。22時発のシドニー直行便。機内で『ボディガード』(大好きなのだ)を見て、少し寝る。

<6月6日>
8時にシドニー着。雨だ! 気温は15度くらいかな。寒いまではいかないけど、やはり結構涼しい。迎えの車に乗って30分ほど走り、市内のホテルにチェックイン。ロビーで映画祭スタッフに挨拶してから部屋に入り、そのままバタンと倒れるように寝てしまう。

13時過ぎに起きて、本日は夕方まで予定がないのでそのまま部屋でパソコンに向かってメールを書く。

17時にロビーで集合し、他の審査員メンバーと初顔合わせする。審査員長がオーストラリアの映像作家リネット・ウォルワースさん(写真中央)、それからオースラリア人俳優のユアン・レスリーさん(右端)、フィリピンのプロデューサーのビアンカ・バルブエナさん(彼女はこの時点では未到着/写真左から2人目)、それから南アフリカの映画音楽家のクリス・レッチャーさん(右から2人目)。僕(左端)を含めて5名の審査員チームだ。

ユアン・レスリーさんと挨拶したあと「(昨年の東京国際映画祭で上映した)ウォーリック・ソーントン監督の『スウィート・カントリー』で極悪な差別主義者を演じたのはあなたですね!?」と聞いてみると、破顔一笑「そのとおり!」とのお答え。当然ながら映画の印象とは全く異なり超ナイスな人柄の方で、これから10日間一緒に過ごすのがとても楽しみになる!

18時にホテルを出るとかなり激しい雨だ。シドニー(というかオーストラリアに)雨のイメージがあまりないので、なんだか不思議な感じ。ちょっとロンドンっぽい。数ブロック離れた市庁舎に向かい、そこでまずはレセプション・パーティー。広すぎず狭すぎず、程よく感じのよい雰囲気。

19時過ぎに徒歩で会場を移動して、映画祭のメイン会場へ。オペラや演劇に用いられているような由緒ありそうな立派な劇場だ。普段から映画を上映しているのかどうかは分からないけど、天井桟敷があるクラシカルで大きな作りで、これはフェスティバルの会場として最高に素敵。

映画祭のオープニング作品はニュージーランドの『The Breaker Upperers』という作品。カップルを別れさせる商売を営む2人の女性の友情と愛情を描く爆笑コメディーで、場内は大ウケ。

上映終わり、シティ・ホールというから市庁舎的ホールなのかな、ドでかいパイプオルガンが壁に組み込まれている豪勢な会場へ移動し(幸い雨は上がっていた)、22時ころからオープニング・パーティー。さきほどの簡易カクテルとはケタ違いの規模で、DJやバンドが演奏する中で数百人が談笑している。僕は知っている人がほとんどいないけれど、雰囲気がいいのでぼんやりしながら心地よく過ごす…。

とても眠くなってきたので23時過ぎには座を辞してホテルに戻ってダウン。

<6月7日>
7日、木曜日。7時には起きて、ホテルのレストランで朝食。イングリッシュ・ブレックファストが大好きなので嬉しい。ビーンズとソーセージとマッシュルームとスクランブル・エッグとハッシュド・ポテトと焼きトマトとトースト。これだけ朝食べたら、もうあとは1日何もいらないくらいだ。

午前中は、部屋でシドニー映画祭の研究をする。とにかくカンヌから戻ってからとても忙しくて、シドニー映画祭の予習をする時間がなかった。審査員として見るコンペ作品以外に見たい(見るべき)作品をチェックして、チケットの取り方を研究し、審査員業務の空き時間に鑑賞スケジュールを組み込んでいく…。結果2時間かかってしまった。

12時半にロビーに集合し、映画祭スタッフのナディーヌさんの先導で交流ランチに連れていってもらう。今日は気持ちの良い青空が広がっていて、美しく港が展望できるテラスを備えたレストランに到着する。シドニー映画祭は、審査員と作品関係者との交流に制限を設けることはせず、自由に会話してもらって構わないとのスタンスのようで、積極的に交流の場が設けられている。トーキョーでは最終日までコンペ監督と審査員との交流の場は用意していないのだけど、こういうのも自由でアリかな、と思ったりする…。

指定された席についてみると、オランダ映画のプロデューサーや監督たちと同じテーブルで、コンペ作品ではないのでやっぱりちょっと安心する。もっとも、最後まで東京国際映画祭への招聘を検討しながら最終的にお断りをしてしまった作品だったので、その旨を正直に打ち明けて、ごめんなさいねと謝りつつも好きな作品であったことは絶対にウソではないので、楽しくおしゃべりできてよかった。

その他いろいろな方々と話しているうちに、15時半。うわっ、ランチに3時間? シドニー時間はゆったりだ!

自重したはずなのに、ランチで飲んだワインが効いたらしく、ホテルに戻って一瞬お昼寝。

18時に審査員チームは再集合し、メイン会場のステート・シアターへ。コンペの一般上映で、審査員も同じ回に鑑賞する。ついにコンペ鑑賞スタートだ。1本目に見たのは、インドネシアのカミラ・アンディニ監督の『The Seen and Unseen』。去年の東京フィルメックスで作品賞を受賞した作品(フィルメックス時タイトルは『見えるもの、見えざるもの』)で、改めて大スクリーンで見られて嬉しい。が、審査対象作品なので、ここでのコメントは割愛!

上映終わり、車に乗ってディナーへ。全て事前に準備されていて、至れり尽くせりだ(どの映画祭でも審査員には同様の対応をするけれど、それでもされる方としてはどうしても恐縮する)。大きい四方の壁に古今の映画のスチール写真が投射される素敵な店で、料理はイタリアン。大テーブルに監督や審査員たちが一緒になって座り(カミラ・アンディニ監督は不在)、楽しく語り合っているうちに23時。

車に乗ってホテルに戻り、少しパソコンを覗いて早々にベッドにもぐりこむ。連日就寝が3時になるカンヌとは大違いだけど、交流の多いシドニーも初日にしてなかなかにくたびれた!

<6月8日>
8日、金曜日。7時半起床、朝食を満腹頂いてから部屋に戻って少しパソコンいじる。

10時に映画祭会場に出向き、フィンランドのドキュメンタリー作品を見に行く。自分が審査員をするコンペティション部門ではないので、気はラクで嬉しい。地元の映画ファンと一緒に映画を楽しむ瞬間が僕は人生でもっとも好きな瞬間で、それが高じて映画祭を仕事にしてしまったのだから、幸せなひと時だ。しかし、そこで見る映画が傑作とは限らないのも映画祭の常で、今回はいささか刺激に欠ける作品で退屈してしまった。まあ、こんなこともあるさ。

12時から、シドニー映画祭のフェスティバル・ディレクターであるナシェン氏と審査員チームとの交流ランチ。彼がいかなる基準でコンペ作品を選んだか、そしてどのような考え方で受賞作品の選定に取り組んでもらいたいか、我々に説明してくれる。

シドニー映画祭のコンペティション部門には作品賞が唯一の賞であることが特徴だ。トーキョーなら、作品賞、審査員賞、監督賞、俳優賞、女優賞、脚本賞、芸術貢献賞の7つの賞があり、どの作品にどの賞を与えるかを巡って審査員は侃々諤々の議論をすることになる。それに対し、シドニーの場合は、作品賞の1作品のみが受賞の対象となる。これはなるほど潔い。議論がシンプルでいい。やりやすいのかな、と思う一方で、1作品しか賞を与えられないということは、逆に徹底して議論しなくてはならないことにもなる。さて、どうなるだろう。

ランチが14時過ぎに終わり、いったんホテルに戻ってパソコンを打つ。

18時過ぎに会場に戻り、審査対象となるコンペ作品、『Jirga』の上映へ。コンペ唯一のオーストラリア作品だ。金曜の夜のオーストラリア映画ということで、大勢の観客が押し寄せている。ちなみに、審査員はすべて一般上映で鑑賞することになっていて、これは観客の反応が分かるから良いと捉えるか、観客の反応に審査員の判断が影響されるからダメと捉えるか、両論あるところ。映画祭によって判断は様々なはずだ。

『Jirga』は、アフガン戦争に従軍したオーストラリア人の兵士が、戦闘が終了して3年後に、当時襲撃した村を再び訪れようとする道程を描くドラマ。感想は割愛。

上映終わり、ディナーへ。賑やかなメキシカン料理店でとても美味しい。審査員どうしで会話をしつつ、他の映画人とも交流しながらリラックスしたひととき。とはいえ、店内が騒がしいと、必死で英語を聞き取らなければならない僕としてはいささか困る。会話についていけないことも少なくなく、自分の英語力が何年経っても向上しないことに落ち込む…。英語は一生精進あるのみ…。

<6月9日>
9日、土曜日。7時起床。今日は夜まで何も予定されていない。もとより観光にさほど興味がないので、ホテルの部屋にこもって仕事をすることにする。東京国際映画祭の作品選定業務はとうに始まっているので、やることはいくらでもあるのだ。というか、見なければいけない作品が既に無数にある。

というわけで、朝食を済ませ、8時半から20時までノンストップでパソコンに向かい、ひたすら仕事の映画を見る。ランチも抜く。見る時は徹底して見続けるほうが、リズムが途切れなくていい。部屋の清掃も断り、ひたすらこもる。

20時に支度して外に出ると、雨だ。少し寒い。やはり冬なのだと実感させられる。13度くらいかな…。

20時半に劇場に着き、本日のコンペ作品『The Miseducation of Cameron Post』というアメリカ映画を鑑賞。クロエ・グレース・モレッツ主演で、90年代を舞台に、同性愛を罪とみなしてティーンの「矯正」を図る原理主義的キリスト教キャンプで過ごす若者たちの姿を描くドラマ。

上映終わり、映画祭が連日解放している飲みスペースへ行ってみると、カラオケ大会を実施中で盛り上がっている。会場の片隅で、審査員5名で集まってひそひそと感想を交換し合い、23時過ぎにホテルへ。

<6月10日>
10日、日曜日。7時起床。本日も公式の予定は夕方からなので、朝イチはパソコンで仕事の映画(という言い方もヘンだけど、つまり東京国際映画祭の本業関連で見る必要がある作品)を少し見てから、9時半に映画祭会場へ。

コンペではない部門で、『Three Identical Strangers』というアメリカのドキュメンタリー作品を鑑賞する。これが滅法面白かった! 生後直後に異なる家庭に養子にもらわれた3つ子が、19歳になって初めて自分に瓜二つの兄弟がいる(しかも2人も!)ことにそれぞれ気付く驚愕の物語。事実は小説より奇なりと昔から言うけれど、本作の内容には唖然とするばかり。そして、互いに存在も知らなかった兄弟の出会いの物語というだけで充分に面白いのに加え、この物語にはさらに先があった…。ああ、これは本当に面白い。

めちゃくちゃ興奮しながらホテルに戻り、またパソコンに向かって仕事の映画を見る。

16時に映画祭会場に出かけ、これまたコンペではない部門で『A Vigilante』というアメリカ映画を見る。こちらはオリヴィア・ワイルド主演のフィクション作品。DV被害者の女性や子供たちを助けるヒロインの物語で、繊細な社会派ドラマと思いきや、加害者を徹底的に叩きのめす復讐劇の側面もあってなかなか複雑な味わいの作品だ。

18時から同じ劇場で審査員チームと合流し、ともにコンペ作品『Transit』を鑑賞する。ドイツのクリスチャン・ペツォルト監督の作品。審査対象作品なので、感想は割愛。

上映終わって20時。外に出ると、バケツをひっくり返したような大雨。シドニーの冬は雨の冬なのだな。連日雨が降る。東京も梅雨に入ったのだろうけど、気温や湿気は違えど、シドニーも連日雨。まあしょうがない。

審査員5名で中華料理店に行き、落ち着いたテーブルで食事をしながら『Transit』の感想を交換する。とにかく審査員の面々が素晴らしい。審査員長のリネットさんはいつもとてもポップないでたちで(オーストラリアの草間彌生と僕は心の中で呼んでいる)、めちゃくちゃ優しい。じっくりと人の話を聞いてくれて、みんなを包み込むようなリーダーシップを発揮してくれる。

俳優のユアンさんはとてもハンサムで声が良く(『ピーターラビット』で声優出演しているらしい!)、そして冗談好きなウルトラナイスガイ。映画音楽家のクリスさんは寡黙で知的な雰囲気をまとった優しい紳士。若くして経験豊富なプロデューサーのビアンカさんは落ち着いて的確なコメントを繰り出し、そしてとてもチャーミングだ。作品ごとに5人で集まって話すと、驚くほど意見が一致する。いまのところ、審査会議は超順調だ。

それにしても、1本ごとにとことん議論を尽くすので、僕としてもとても勉強になる。日頃から多くの本数を見なければいけないこともあり、直感的な評価で進んでしまうことも少なくない。本当にいい映画とは何なのかを考えさせられる良い機会だ。しかし、審査員の取り組み姿勢を実体験すると、作品を選定する立場としての本業が今後は恐ろしくなってしまう気がする。それを含めて良い経験としなくては。

21時過ぎに食事を切り上げ、大雨の中、映画祭関係者が集うパーティー会場に向かい、1時間ほど滞在して早めにホテルに帰還。

<6月11日>
11日、月曜日。7時半起床。本日オーストラリアは祭日のようで、ホテルの朝食がとても混んでいる。天気は曇り、時々晴れ。長袖とコートは必要。

昼までホテルで仕事をして、15時半に映画祭会場に向かう。行ってみると審査員仲間のユアンさんがすでに到着していたので立ち話をしていると、知り合いから声をかけられたユアンさんが相手に「ヒューゴ!」と挨拶し、僕のことも紹介してくれる。その方はどうやら数年前にシドニーの審査員長を務めたらしく、議論が割れたという当時のことを話してくれて面白い。

僕は相手が誰だか分からず話をしていたので、入場してから隣の席に座ったユアンに「いまの人は監督さん?」と尋ねると、「いや、ヒューゴは俳優だよ。えーとさ、『マトリックス』って見た?」と聞くから、「もちろん!」と答えると、「『マトリックス』の悪役のエージェント・スミスだよ」。

なにー!! ヒューゴって、ヒューゴ・ウィーヴィングだったのか! てことは、『ロード・オヴ・ザ・リング』のエルロンドじゃないか! うわあー! 全く気付かなかった! とんでもない人と立ち話をしてしまった!

ふうー。ところで、コンペに来場ゲストがあるときは、入場時に審査員と一緒に写真を撮るのが恒例になっている。15時45分に見る回はゲストありなので、監督と審査員で映画祭パネルの前に並んで公式写真をパチリ。

本日は2本コンペ作品があり、1本目はハンガリーの『One Day』というドラマ作品。次の作品まで45分ほど時間があるので、審査員で会場の隣のバーに入り、作品についてディスカッション。続いて18時15分からアメリカとイギリスとスリランカ合作の『MATANGI / MAYA / M.I.A』というドキュメンタリー作品。

20時過ぎに終わり、映画祭関係者ディナーへ。これは審査員だけでなく、出品作品の監督たちも集うディナーなので、余計なことを言わないように気を付けないといけない。会場は隠れ家のような素敵なタイ料理店。ブリスベンでも思ったけど、シドニーのレストランもことごとく内装がカッコいい。そして毎回趣向を凝らして異なる店に連れて行ってくれる映画祭スタッフに感謝の言葉もない…。

50人ほどが席に付く長い机の隅に審査員チームで座り、あまり作品の話をしないようにしていたものの、やはりどうしても話題がそちらの方向に行くことを誰も我慢できず、たくさん語ってしまう。しかも料理がなかなか出てこず、食べる前にビールを3本お代わりしてしまい(この審査員チームは全員の飲みっぷりがいいのも嬉しい)すっかり酔っぱらってしまった。いかん。

ようやく出てきたタイカレーに舌鼓を打ち、23時過ぎにホテル帰還。

(「下」に続く)

《矢田部吉彦》

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