【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭予習<「特別上映」編>

カンヌラインアップ予習ブログの3回目は、公式上映の中で賞の対象とならない「アウト・オブ・コンペティション」や「特別上映作品」などの部門をチェックしていきます。

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カンヌラインアップ予習ブログの3回目は、公式上映の中で賞の対象とならない「アウト・オブ・コンペティション」や「特別上映作品」などの部門をチェックしていきます。

【アウト・オブ・コンペティション】
賞の対象になる「コンペティション」の方がどうしても注目度は高いのですが、賞対象でない「アウト・オブ・コンペティション」に選ばれる理由はいろいろとあるのでしょう。監督本人がコンペを嫌がる場合(ウッディ・アレンが好例)もあれば、出来が良くても商業映画寄りでコンペに向かないとみなされる作品もありますし、さらにコンペ向きでも枠が埋まってしまったから「アウト・オブ・コンペでどう?」と映画祭側から打診するケースもあるはず。下記作品がどういう理由かは必ずしも定かではありませんが、ともかく見てみましょう。

『La Belle Epoque』(ニコラ・ブド監督/フランス)
『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー監督/イギリス)
『Diego Maradona』(アシフ・カマディア監督/イギリス)
『The Best Years of a Life』(クロード・ルルーシュ監督/フランス)
『Too Old to Die Young - North of Hollywood, West of Hell』(ニコラス・ウィンディング・レフン監督/デンマーク)
『The Specials (Hors Normes)』(オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督/フランス)(写真)

『La Belle Epoque』(ニコラ・ブド監督/フランス)
俳優としてデビューしたニコラ・ブドは2017年に監督第1作を撮り、今回が2作目です。本人は出演せず、演出に専念しています。

疲れ切った60代の男性が、起業家の友人に勧められて新しいアトラクションを体験する。それは自分が好きな時代に行けるもので、男は大恋愛を経験した40年前に戻っていく…。

なるほどこれは結構コマーシャルな作品かもしれませんね。主演はダニエル・オートゥイユに、共演ギヨーム・カネやファニー・アルダンなど。公開されたら絶対観るけど、映画祭では後回しになってしまいそう…。

『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー監督/イギリス)
ロケットマンといえばエルトン・ジョンのヒット曲のタイトルで、本人の代名詞にもなっているのかな。伝記映画にはしばらく前から期待が高まっていましたが、いよいよカンヌでプレミアです。

エルトン・ジョンの幼少時代から丁寧にたどる内容とのことで、大人のエルトン・ジョンに扮するのは、タロン・エガートン。『キングスマン』シリーズの“エグジー”役でブレイクした俳優ですね。どのくらい似せてくるだろう?

そして何と言ってもデクスター・フレッチャー監督は、ブライアン・シンガーの後を継いで『ボヘミアン・ラプソディ』を完成させた人なわけで(あまり事の次第を知りはしないのですが)、ここは否が応でも期待が高まるというものです。果たしてクイーン・ブームに続いてエルトン・ジョンのブームが来るか!?

そして、エルトン・ジョンはカンヌに来るのだろうか? カーペットで演奏とかするだろうか??

『Diego Maradona』(アシフ・カマディア監督/イギリス)
これまたタイトルだけで全て伝わる作品ですね。マラドーナのドキュメンタリー、かなり前からうわさを聞いていましたが、ついに完成したようです。500時間に及ぶ未発表フッテージから選び抜かれた映像が、どのように繋がってマラドーナ神話を見せてくれるのか。ああ、観たい(けど多分観られない)。

ちなみに、アシフ・カマディア監督はエイミー・ワインハウスを取り上げたドキュ『AMY エイミー』(15)でオスカーのドキュメンタリー部門を制した監督です。もう、間違いないですね。

あ、マラドーナ本人も来るのだろうな。ああ、マラドーナ来るのか…。

『The Best Years of a Life』(クロード・ルルーシュ監督/フランス)
クロード・ルルーシュの不朽の名作『男と女』(66)の50周年を記念した2016年のリバイバルはまだ記憶に新しいところです。本作は、なんとその『男と女』の53年振りの続編であるというから驚きです。予告編がネットで見られますが、オリジナルの映像も交えながら老いたカップルが往時をふり返り、元気な姿を見せています。

なんといっても、50年以上を経て、ルルーシュ監督(81歳)、そしてジャン=ルイ・トランティニャン(88歳)、アヌーク・エーメ(87歳)が全員健在というのが嬉しいではないですか。もう、それに尽きます。

『Too Old to Die Young - North of Hollywood, West of Hell』(ニコラス・ウィンディング・レフン/デンマーク)
レフンの新作はいわゆる映画ではなく、アメリカのシリーズものテレビドラマです。10年ほど前から、有名監督が撮ったテレビドラマの最初の数エピソードを映画祭で上映することが流行っていますが(昨年はデビッド・リンチを迎えた「ツィンピークス」が異常に盛り上がっていました)、これもその流れと位置付けられます。

カンヌって、ネットフリックスはダメでテレビドラマはいいの?という疑問が聞こえてきそうですが、長い話になるので詳細は割愛するとして、とりあえずコンペでなければいいのだろう、と言うに留めておきます。完全に確認したわけではないですが、コンペには今年もネットフリックス作品は無いはずです。

それはともかく、L.A.の警察官を主人公にしたスタイリッシュなノワールのこのドラマ、日本で見られる日が早く来ますように!

『The Specials』(オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督/フランス)(写真)
5月6日になって追加発表されたのが、ナカシュ&トレダノ監督コンビの新作です。今年のカンヌ映画祭の「クロージング作品」ならぬ「ラスト・スクリーニング」と位置づけされていて、なんでも今年から呼び方を変えることにしたそうです(さほど大きな理由はないようですが)。

『最強のふたり』(11)以来、快調に作品を発表し続けているナカトレ監督コンビですが、前作『セラヴィ!』(17)でもスピード感溢れるヒューマン・コメディで楽しませてくれました。そして『セラヴィ!』が達者なプロの俳優たちの芸をエンジョイする面があったのに対し、新作『The Specials』では異なるアプローチが取られ、主演のヴァンサン・カッセルとレダ・カテブ以外は非職業俳優が起用されています。

描かれるのは、自閉症のティーンのケアに携わる人々の世界。ソーシャル・ワーカー、ボランティア、インターン、プロの医療従事者など、自閉症に取り組むあらゆる人々の共同作業が映画の柱となっているようです。人間愛に疑いを持たず、そして人間関係を維持する最強の武器としてのユーモアの力を疑わない監督コンビが、前作『セラヴィ!』で集団劇のコツをつかみ、さらにステップアップしている予感がします。映画祭の最後を飾るにふさわしい感動作が期待できそうです。

という感じに「アウト・オブ・コンペ」部門を見てきますと、今年は例年に比べてもこの部門に置かれた理由が納得できる作品ばかりですね。

つづいて、「ミッドナイト・スクリーニング」です。

【ミッドナイト・スクリーニング】
例年は3~4本あるのですが、今年は追加で発表された作品を含めて2本しかありません。さらなる追加があるかも?

『The Gangster, The Cop, The Devil』(イ・ウォンテ監督/韓国)
『Lux Aeterna』(ギャスパー・ノエ監督/フランス)

『The Gangster, The Cop, The Devil』(イ・ウォンテ監督/韓国)
これはマ・ドンソク、キム・ソンギュ、キム・ムヨル主演の『悪人伝』ですね。かなりの話題作です。シリアルキラー(キム・ソンギュ)に命を狙われるギャングのボス(マ・ドンソク)を刑事(キム・ムヨル)が守るという物語で、ハンパでない作品になっている確信があります。ミッドナイト上映は翌日に響くのでなるべく観ないようにしているのだけど、これだけは観たい!

『Lux Aeterna』(ギャスパー・ノエ監督/フランス)
追加発表になった本作に関し、カンヌの公式HPに映画祭側のコメントがあるので訳します:「ベアトリス・ダルとシャルロット・ゲンスブールが映画のセットで魔女について語っている。しかしそれがこの映画の全てではない。本作は映画に関するエッセイであり、映画愛や撮影の熱狂に関するものである。速いテンポの見事な中編であり、ギャスパーはカンヌの公式部門へ思わぬ帰還を果たすことになった。本作の存在を最近知った我々選定委員会が最後に見た作品の1本である」。

なるほど。ちょっと得体が知れないですが、上映時間は50分のようです。この尺だったらミッドナイトで観ても翌日に響かないかも?

続いて、「スペシャル・スクリーニング」。ドキュメンタリーを中心に社会性の強い作品が集まることの多い部門です。最初に6本発表され、後日追加になって合計10本のラインアップとなりました。

【スペシャル・スクリーニング】

『For Sama』(ワアド・アル・カテブ&エドワード・ワッツ監督/シリア・イギリス)
『Share』(ピッパ・ビアンコ監督/アメリカ)
『Etre Vivant et le Savoir』(アラン・カヴァリエ監督/フランス)
『Tommaso』(アベル・フェラーラ監督/アメリカ)
『Family Romance, LLC』(ヴェルナー・ヘルツォーク監督/ドイツ)
『Que Sea Ley』(ホアン・ソラナス監督/アルゼンチン)
『Chicuarotes』(ガエル=ガルシア・ベルナル監督/メキシコ)
『The Cordillera of Dreams』(パトリシオ・グズマン監督/チリ)
『Ice on Fire』(レイラ・コナーズ監督/アメリカ)
『5B』(ダン・クラウス監督/アメリカ)

『For Sama』(ワアド・アル・カテブ&エドワード・ワッツ監督/シリア・イギリス)
戦下のシリアのアレッポで、女性フィルムメーカーのワアド・アル・カテブ監督が5年間に渡って自らの人生を記録したドキュメンタリー。3月に開催されたアメリカのサウス・バイ・サウスウェスト(映画祭と音楽祭を兼ねたテキサスの大イベント)で審査員賞と観客賞をダブルで受賞しています。

この5年の間に監督は恋愛をし、結婚し、出産しています。全てが激しい戦争の下で。その記録の価値は計り知れないはずです。これは何としても必見でしょう。

『Share』(ピッパ・ビアンコ監督/アメリカ)
ビアンコ監督の長編1作目であり、1月のサンダンス映画祭でプレミア上映されて脚本賞を受賞しています。となるとカンヌのコンペにエントリーするには不利に働いたのかもしれません(細かい話だけど、映画祭の運営側にいる者としては少し気になる)。

16歳の少女が記憶にない夜の動画が出回ってしまい、その後始末に追われる物語、でいいのかな。タイトルの「シェア」が意味深で、SNSを巡る現代の闇をえぐる問題作のようです。サンダンス後にアメリカではHBOが権利を高額で買ったことが報道されていますが、商業バリューも見込まれるということで、カンヌの展開も楽しみです。

『Etre Vivant et le Savoir』(アラン・カヴァリエ監督/フランス)
大ベテランのアラン・カヴァリエ監督(32年生)の新作は、30年来の友人関係である作家のエマニュエル・ベルンエイムとの交流を描いたドキュメンタリー。

ふたりはベルンエイムの自伝の映画化を相談し、カヴァリエ監督はベルンエイムに本人役を、そして自分は父親役を演じようと提案する。しかし撮影が迫ってくると、ベルンエイムは延期を申し出る。緊急で手術を受けることになったために…。

ベルンエイムは17年5月に亡くなっています。カヴァリエ監督は、友人に対する追悼の念を込めて本作を完成させたのでしょう。観るのが辛そうですが、向き合いたくなる作品でもあります。

『Tommaso』(アベル・フェラーラ監督/アメリカ)
アベル・フェラーラの新作は(またまた)不思議な作品のようです。ウィレム・デフォーがローマに住むアメリカ人アーティストに扮し、若い妻と3人の娘がいるという設定。夫婦の仲は危機に陥り、結婚生活に新たなルールが必要になってくる。方やアーティストの現実世界と脳内想像世界が妻や娘たちにも影響を及ぼしていく…。

ローマのアメリカ人という異邦人性、仏教とキリスト教、夢と現実、生活とアート、など、様々な要素が混じり合っているようで、主人公はフェラーラ監督の分身に違いありません。そういう意味ではドキュメンタリー的なのかもしれない。フェラーラ、健在の予感です。

『Family Romance, LLC』(ヴェルナー・ヘルツォーク監督/ドイツ)
ヘルツォーク監督新作は、なんと日本が舞台のドラマで、全編が東京と青森で撮影されたと報じられています。かなり秘密裡に進行していたらしく、内容についてもほとんど明らかになっていませんが、キャストは全員が非職業俳優で、不在の父親の代わりを演じるために雇われた男と家族を描くドラマ、のようです。

意外なことに、ヘルツォークがカンヌの公式部門に入るのは2002年の『10ミニッツ・オールダー』以来とのことで、そんなになるのですね。家族を描いて優れた作品が多いと海外から指摘される日本映画ですが(それこそ小津から是枝まで)、果たしてヘルツォークが日本の家族をどのように描いたか、俄然注目の1本であります。

『Que Sea Ley』(ホアン・ソラナス監督/アルゼンチン)
フランス在住のソラナス監督の作品は、母国アルゼンチンにおける中絶合法化の運動と、その法制化の動きを追ったドキュメンタリー。監督はいてもたってもいられず、母国に飛んでカメラを回したとのこと。主題の重要性もさることながら、今年のカンヌで唯一のアルゼンチン映画という点でも注目です。

『Chicuarotes』(ガエル・ガルシア・ベルナル監督/メキシコ)
ガエル・ガルシア・ベルナルの2本目の長編監督作品は、メキシコシティーの底辺を舞台に、「豊な生活を求めて犯罪に身を投じる10代の男女の姿を描くドラマ」としか分からないのですが、「スペシャル・スクリーニング」に入っているということはかなり社会性の強いドラマなのかもしれません。

ディエゴ・ルナと並んで現代メキシコ映画を代表する俳優であり、審査員も務めたことのあるカンヌ常連のガエルとはいえ、監督作が自動的にカンヌに選ばれるほど甘い世界ではないのは言うまでもないところ。果たして演出家としての力量はいかに?

『The Cordillera of Dreams』(パトリシオ・グズマン監督/チリ)
『チリの闘い』3部作(75~70)や『光のノスタルジア』(10)、『真珠のボタン』(15)などで日本でも知られるチリの巨匠、パトリシオ・グズマン監督の新作です。

カンヌ公式HPのコメントは次の通り:「パトリシオ・グズマン監督は、軍事独裁政権となった40年前にチリを離れたが、母国について考えることを止めたことはない。『光のノスタルジア』で北部を、そして『真珠のボタン』で南部を描いた後、グズマンは過去と現在を貫くチリの背骨となる歴史に向かっていく。本作は映像詩であり、歴史的探究であり、映像エッセイであり、個人の魂の見事な探求である」。

『Ice on Fire』(レイラ・コナーズ監督/アメリカ)
レイラ・コナーズ監督は、レオナルド・ディカプリオがプロデュースした地球温暖化警鐘ドキュ『The 11th Hour』(07/カンヌでも上映)以来、多くの作品を手掛けているドキュメンタリー作家です。最近ではミハイル・ゴルバチョフを取り上げた『The Arrow of Time』(17)が話題になりました。

新作では再びディカプリオと組み、温暖化の現状に取り組んでいます。ディカプリオはタランティーノ作品でカンヌに来るでしょうから、本作の上映にも立ち会うはず。改めて地球温暖化問題への関心の高まりが期待される、とても重要な上映になりそうです。

『5B』(ダン・クラウス監督/アメリカ)
80年代のエイズを巡る混乱を描くドキュメンタリー。この作品もカンヌ公式HPのコメントを粗約します:

「80年代、サンフランシスコ総合病院では数字と文字で病棟を示していた。国で最初にエイズ患者を受け入れた病院である。エイズ患者を不可触とみなす人々が存在した一方で、5B病棟勤務の男女は異なる考えを持っていた。これはそんな彼らの物語である。

ダン・クラウスの新作『5B』は過去から現在に問題を突きつける。アメリカを始め世界中で公開され、そしてフランスはHIVと結核とマラリアに対する向こう3年間の寄付金の寄託者が集まる10月の国際会議のホスト国である。U2のボノは本件の熱心な支持者であり、『5B』をサポートすべくカンヌへの来場が予定されている」。

以上の10本が「スペシャル・スクリーニング」ですが、どう考えても観ないで済ませて平気な作品がありません。本当に困ります…。

ここまでが、いわゆるカンヌの「公式部門」です。カンヌ映画祭事務局が主催する「公式部門」としては、ほかにもクラシック部門や学生部門などがありますが、断腸の思いで割愛します(本当はクラシックは全て取り上げたい…)。次回は並行部門の「監督週間」のラインアップをチェックします!

《矢田部吉彦》

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