【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭 Day2

15日、水曜日。6時半に目覚めると外は強い雨。7時に朝食、8時前にホテルを出て、「監督週間」に並びに行く。

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"Bull"(c)Stars Amber Havard 全 1 枚 拡大写真
15日、水曜日。6時半に目覚めると外は強い雨。7時に朝食、8時前にホテルを出て、「監督週間」に並びに行く。寒い!昨日とのギャップが激しい!今年はセーター類を持参するのを何故か忘れてしまい、強く後悔。どこかで買おうか…。

本日は8時45分のクォンタン・デュピユー監督新作『Deerskin』からスタートで、寒さを瞬時に忘れる面白さ。ディアスキン(鹿革)のジャケットに取り憑かれた男の、田舎の村を舞台にした摩訶不思議な物語。男はジャケットを愛するあまりジャケットと会話をするようになる。ジャケットが言うには、ジャケットの夢は世界で唯一のジャケットになることで、男の夢はジャケットを着ている世界で唯一の人間になること。かくして両者の夢は一致する。そして男は映画撮影と称して「ジャケット狩り」を始める…。

なんじゃそりゃの物語だけれど、デュピユー監督のブラックで珍奇な世界観が全開で最高だ。主人公にジャン・デュジャルダン、彼をサポートするバーの女性にアデル・エネル。豪華スター共演がシュールな世界を盛り立てて、まさに「監督週間」オープニングにふさわしい怪作。上映後にはQ&Aで監督と主演ふたりが登壇、朝から盛り上がる!

続いて11時から「ある視点」部門でアメリカ映画の『Bull』(写真)へ。アニー・スルヴァースタイン監督の長編デビュー作。母親が服役中の14歳の少女が祖母と妹と暮らしており、環境も相まって複雑な年齢期を迎えている。隣人の黒人の中年男性は元ロデオの選手であり、現在はロデオ大会で選手が落下したあとに牛の注意を惹いて誘導回収する危険な裏方仕事をしている。常に重傷が絶えない。反抗期の少女は、男性に少しずつ心を開き、不思議な交流が始まる…。

対照的なふたりの人間の交流は常に見る者の心を動かすものだけれど、本作はその展開をしっかりと押さえつつも、いい話では決して終わらないリアルな流れがあり、とてもいい。獰猛なロデオ競技の描写も美しく、鬱屈した少女の心や進退を決めかねる男性の心境を絶妙に浮かび上がらせる。絶妙な鑑賞後感を残す、監督1作目とは思えない好編だ。

2本連続で当たりが出たので気分を良くしていると、天気も回復してきた。青空が見えてきて、気温も上がってきたのでホッとする。

13時半から「監督週間」のフランス映画で『Particles』へ。そうそうヒットは続かず、この作品はちょっと厳しかったか。

スイス国境に近いフランスの地方都市に暮らす高校3年生の青年が主人公。近所に「粒子研究所」があり、巨大な観測装置がある(カミオカンデのような?)。青年は粒子の動きを意識するようになったのかどうか、奇妙な経験をする…。

青春ものには違いないのだけど、淡いSF仕立てにして目先を変えてようとしている。音楽と映像処理でトリップ感覚を煽り、新感覚映像を目指しているのだろうとは理解できるのだけど、ちょっと狙い過ぎで映画としての面白みに繋がっていかない。そして全体的に思わせぶりが過ぎ、ドラマが深まらない…。

15時15分に上映終了。むむーと思いつつ、ヤボ用を1件済ませ、空腹に耐えかねていたことを思い出してスーパーでサラダパスタを買ってホテルで食べて、10分休憩してからマーケット会場に赴き、16時から2件ミーティング。

17時半に上映に戻り、「ある視点」部門に出品されているイタリアのアニメ作品『The Bears’ Famous Invasion』へ。予習ブログでも書いた通り、日本でも翻訳が出ている絵本の「シチリアを征服した熊の物語」のアニメ化で、これはカンヌで見逃したら本当に見る機会が無いかもしれないと思った次第。

熊界と人間界の交流を描くおとぎ話で、ビジュアルも素敵でかわいいのだけれど、少しだけ子ども向けかな…。絵本が元になっているのだから当然と言えば当然なのだけど。総合映画祭の公式部門で上映するにはギリギリのところか、と思いつつ、見るかどうしようか迷っている人がいたら、見て損はないよ!と言える作品ではあるのは確か。実写とアニメを同じ土俵(というか目線)で見るのは口で言うほど容易いことではない…。

続いて19時15分から開始の「ある視点」部門の公式上映に向かい、オープニングも兼ねたカナダ作品の『A Brother’s Love』。まずは「ある視点」部門審査員が紹介され(僕が偏愛するアルゼンチンのイサンドロ・アロンゾ監督が一員なのが嬉しい)、委員長のナディーヌ・ラバキ監督がスピーチ。「審査員でご指名頂いたことはこの上なく光栄ですが、我々は審査するというよりは、映画で描かれる主人公とともにひとつの人生を生きるためにここにいるのだと考えています」、との発言に深く感じ入る。

『A Brother’s Love』のモニア・ショクリ監督は、『胸騒ぎの恋人』でグザヴィエ・ドランと共演している女優でもあり、客席にはドランの姿も。その監督作品にも期待が高まったのだけど…。んー、こちらも不発。

兄と仲の良過ぎる35歳の女性が、その兄に恋人が出来たことによって人生のペースを乱されてしまう物語。終始躁的でハイパーテンションな会話や描写に観客は置いて行かれてしまう。ジャンプショットを多用した撮影や編集の工夫も空回りしている感があり、僕も早々に集中力を奪われてしまった。アーティスティックな意気込みはさぞかし高かったろうと分かるだけに、なんだかとても無念でならない。

上映終わって外に出ると陽が落ちており、またまた寒い。今年のカンヌの気候は要注意だ。やはりセーターを買う必要があるかも。

22時半から、「批評家週間」のモロッコ映画で『The Unknown Saint』。盗んだ金を、墓を模して砂漠に埋めた男が、服役後に同地を訪れる。すると、そこは「未知なる聖人」を祀る聖廟になっており、巡礼者が後を絶たず、金の奪還は思うように行かない…。

これも冒頭は大いに期待を抱かせるのだけど、終始ペースが単調で、これまた少し残念な結果になってしまっている。

ホテルに戻り、ブログを書き始めたのが1時半。眠くてモウロウとしてしまってモロッコ映画の感想はもっと書きたかったのだけど限界!

あ、今日の朝イチに見て大喜びした『Deerskin』の公式オープニング上映が19時からあったらしく、出席した人から聞いたところによると、セレモニーの冒頭には「監督週間」が今年オマージュを捧げるジョン・カーペンターが登場するイベントがあったそうな。ああ、何を差し置いてもそこに行くべきだったか!

まあ、カンヌで全部を体験するのは到底無理なのは当たり前。いちいち気にしないようにして明日も臨もう。そろそろ3時。おやすみなさい。

《矢田部吉彦》

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