【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭 Day12
コンペのエリア・スレイマン監督新作『It Must Be Heaven』(写真)ミニマルでオフビート、パレスチナに愛を込めた、諧謔精神に溢れる傑作だ。
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今日は朝イチで見る作品がないので、9時起床でよかったにも関わらず、慣習になってしまったのか6時半に目が覚めてしまい、たっぷり寝るには至らず。もったいない…。
余裕を持って朝食を食べて、外へ。今日は曇り。どんより。
本日はコンペの再上映がたくさん組まれているのだけど、毎年最終日の入場システムが微妙に変わるので(優先列があったり無かったり)、果たして予定通りに入れるかどうか、油断はならない。
最初の上映には問題なく入場。10時45分から、コンペの中国映画で『The Wild Goose Lake』。雰囲気は良いけど中身はイマイチ、という評価を耳にしていたのだけど、僕には大いに響いた!
窃盗グループの縄張り抗争が勃発する中、幹部格の男が誤って警官を殺してしまう。懸賞金がかけられた結果、男は全警察と全ヤクザに追われる羽目になる…。
光と影を駆使した映像、逃亡者に対して狭まる包囲網、そしてファム・ファタール的な娼婦などが揃い、クラシカルなフィルム・ノワールの世界をモダンな形で現代に蘇らせている。しっとりとした色遣いも美しく、映像はウォン・カーウァイを思わせ、サスペンスフルで遊び心に富んだモンタージュはヒッチコックだ。褒めすぎかな?
ディアオ・イーナン監督は前作『薄氷の殺人』で見せた実力がフロックでなかったことを証明し、カラフルなノワールという新たな世界を開拓している。今後がいっそう楽しみだ。
続けて13時45分から、テレンス・マリック監督新作『Hidden Life』へ。第2次大戦中、オーストリアの山村で農業を営む男がナチへの服従を拒んだことで、一家が文字通り村八分にされてしまう様を描く、事実に基づく物語。
オーストリアの山村が舞台なのだけれど、登場人物はみな英語で話す。この違和感を指摘するのはもはや野暮なのだろうか? 『ラストエンペラー』で中国人が英語を話してから30年、この問題は解決済みなのだろうか?少なくとも僕は絶対に慣れることはない。
ましてや今回は戦時ものだ。ナチスが敵国語を話している。周囲のガヤはドイツ語で、会話だけ英語という世界。しかもドイツ人の役者に英語を話させている。これを出鱈目だと感じるのは野暮なのだろうか。選民思想を否定するのだから、英語の支配も自重するべきでないのか? 一国の言語をもっと重んじるべきでないのか?
映画以前のことが気になり過ぎて作品に集中できない。もちろん映像はこの上なく美しく、主題の重要性にも文句があろうはずかない。それでも、3時間を要する内容ではない。オーストリアの山村はただでさえ美しい。マリックは美しいものを増幅させてさらに美しく撮ることはできる。しかし美をゼロから創造することはない。マリックはキューブリックではないのだ。
ああ、書き過ぎたかな。ごめんなさい。
続けて17時45分から、フランスのジュスティーヌ・トゥリエ監督新作『Sybil』。心理カウンセラーをやめて小説を書こうとする女性が、断りきれなかった女優の患者の相談に乗るうちに映画製作に巻き込まれていくコメディー・ドラマ。上質な商業映画で主演のヴィルジニー・エフィラの魅力が全開。高感度大の作品だ。
上映終わり、マーケット会場のロビーに設置されたテレビモニターの周りに出来た人だかりの後ろから首を伸ばし、授賞式の中継を見る。
結果は既報の通りで、パルムドールはポン・ジュノへ! これはとても嬉しい! おめでとうございます! そして僕の昨夜の予想も当たって嬉しい!
それから1時間半をかけて混乱を極める列に並び(かなり揉みくちゃ)、22時からいよいよ今年のカンヌの最後の上映。コンペのエリア・スレイマン監督新作『It Must Be Heaven』(写真)。
ミニマルでオフビート、パレスチナに愛を込めた、諧謔精神に溢れる傑作だ。同僚はジャック・タチを引き合いに出し、僕は映像の完璧な構図としてはロイ・アンダーソン、ユーモアセンスはカウリスマキ、そしてキアロスタミも挙げたい。しかし、あくまでもスレイマン独自の世界観なのだ…。素晴らしい。まさに有終の美だ!
これにてカンヌの全予定終了。同僚と合流し、0時から打ち上げ夕食して乾杯し、マイベストを披露し合う。
改めて今年の受賞作品を見てみると、概ね下馬評の高かった作品が入っている印象。ダルデンヌが脚本賞なのに(もちろんこれはこれで文句ないけど)、ケン・ローチが無冠なのが唯一残念。とはいえ、他の部門も含め、個人的に評価した作品がことごとく何らかの賞に絡んだので、今年は大満足のカンヌだ。
今年も体調も万全なまま乗り切れてよかった!ブログも毎日更新できて安堵です。
そういえば、今日の昼に話した日本の方から、「毎日カンヌのレポートを更新している人は多くないのだから、ヤタベさん来年はプレスパス(マスコミパス)を申請してみたら?」と言われた。なるほど。あまり考えたことが無かったけど、プレスパスがあったら行動範囲が桁違いに広がるなあ。来年もカンヌに来られそうだったら、検討してみよう。
以上、最後のブログを書いていたら、そろそろ3時。明日は6時起床で空港に向かうので、そろそろ閉店です。パッキングは明朝に回して寝よう。
今年も(ヨレヨレの日もあった)ブログに付き合って下さって、ありがとうございました! お疲れ様でした!
《矢田部吉彦》
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