最初は『真実』というタイトルではなかった
ファビエンヌは自伝を発表するが、それを読んだ娘リュミールは「嘘ばっかりね」と指摘する。ファビエンヌが語る映画史的記憶も、どこまでが本当かわからない。この映画のファビエンヌはドヌーヴ自身と重なる部分が多く、どこまでが事実でどこからがフィクションか、虚実皮膜で面白い。
「脚本を作る段階で何度かドヌーヴさんに長いインタビューをさせてもらいました。彼女が最初にお芝居をし始めた時の話とか、娘さん(マルチェロ・マストロヤンニとの間に生まれたキアラもまた女優)との関係とかをいろいろ聞いて、もちろん、そのままではないんですが、脚本に反映させていきました。たとえば『ドヌーヴさんの俳優としてのDNAを受け継いでいる俳優はいますか?』という質問をした時に、『うーん、フランスには一人もいないわ』と答えたのがカッコよくて、セリフにして使わせてもらったり」
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そもそも企画段階ではドヌーヴの役はファビエンヌではなくカトリーヌで、タイトルも『カトリーヌの真実』だった。
「でも、ドヌーヴさんから『役名はカトリーヌじゃなくて、私のミドルネームのファビエンヌにして』と言われたんです。『そういうスタンスなのかな』と思いました」。
つまりある程度は自分自身だと。
「『この役は全然あたしとは違うわ』って最初から言ってましたけどね」。
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演技スタイルも役そのもの
娘リュミールが「嘘ばかりね」と言うのは、自伝のなかではファビエンヌはいい母親ぶっているが、実際は仕事を優先して、ロクに子育てをしなかったからだ。そのため、娘との関係は今もよくない。また、真面目な娘と、勝手気ままな母親とは性格も合わない。それは娘を演じるジュリエット・ビノシュとカトリーヌ・ドヌーヴの演技スタイルとも重なる。
「ジュリエット・ビノシュは、すごく役作りに時間をかけて、その役の気持ちを理解することにとても神経をつかうのが、彼女の持ち味だと思うんです。だから変更があることに慣れてない。僕が変更点のメモを渡すと『そういうのは、私は二週間前に渡されないと無理なのに』って言われましたよ」。
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「でも、ドヌーヴさんはもともと台本読まないで現場来るから(笑)。その日の朝に初めて台本読むから、変更したことすらわからない(笑)。だから、いくら変えても全然OKでした。それは助かりました。ドヌーヴさんはほとんどそのまま現場に来て、その場でセリフ覚えて、瞬間的に役をつかまえるんですよ。準備しないんですよ。ただ、それが非常に的確。役のつかみ方が本当に動物的だけど、ピンポイントでつかんで、一回OK出たら、『今のがベストよ』って自分で言っちゃう(笑)。『今の以上にはできないから、これで終わり』って。仕事してみて、非常に感覚的な人で、面白かった。大変だったけど(笑)」。