バッグを拾っただけなのに…“親切心”が悲劇を招く
すべては、ニューヨークの高級レストランで働くフランシス（クロエ・グレース・モレッツ）が、地下鉄に忘れられたバッグを純粋な親切心から落とし主に直接届けようとしたことが始まりだった。
都会ではそんな親切は悲劇を招く、と警告する親友エリカ（マイカ・モンロー）の心配をよそに、バッグの持ち主グレタ（イザベル・ユペール）は感じのよい人物で、入れ立てのコーヒーで「お礼をしたい」と言う。夫に先立たれ、娘はパリの音楽学校におり、隣人の騒音も筒抜けの古びた部屋でひとり暮らすグレタ。1年前に母を亡くし、母への恋しさがいまだ募るフランシスはその身の上話ですっかり心を許してしまう。
だが、気づいたときには、時すでに遅し――。
とても“普通じゃない”グレタと距離を置こうとするも、逃げれば逃げるほど、突き放せば突き放すほど、“ガムみたいにくっついて離れない”。それがグレタ。フランシスへのストーカー行為や奇行は日に日にエスカレートし、薄幸の未亡人はその狂気の素顔を覗かせていく。やがてフランシスは、グレタの娘ニコラをよく知る人物から衝撃的な事実を聞かされ…。
彼女に見初められたフランシスと共に、観る者も想像の斜め上ゆく恐怖を味わうことになる今作。もしかしたら、この世で殺人ピエロや怨霊よりも恐ろしいのは、歪んだ心のままに愛を求める孤独な人間の“執着”、なのかもしれない。
イザベル・ユペールが怪演！人恋しくてたまらない
最狂の未亡人・グレタに要注意
決してバッグを届けてはいけない相手グレタ・ヒデッグを演じるのは、アカデミー賞に初ノミネートされた『エル ELLE』をはじめ、近年いっそうの輝きを放つ“フランスの至宝”イザベル・ユペール。1972年のデビュー以来、ゴダールをはじめとするフランスの巨匠たちの作品に多数出演し、『ピアニスト』や『愛、アムール』『ハッピーエンド』とオーストリアの名匠ミヒャエル・ハネケ監督の常連でもある。
日本のファンからも“ユペール様”と呼ばれ親しまれている彼女が、ニューヨークの片隅で地味に暮らす儚げな未亡人からストーカーに豹変し、歪んだ母性を炸裂させていく姿はインパクト絶大！ 優雅さとクセのあるユーモアを合わせ持つ最狂の未亡人を、喜々として演じるユペールは最大の見どころだ。
また、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞した『ピアニスト』での経験もあり、ユペールはすべてのピアノのシーンで自ら演奏している。同作では過干渉で支配的な母親のもと、自傷行為と教え子への性的倒錯で精神のバランスを取るピアノ教師を演じていたユペール。今作ではクロエ演じるフランシスを“娘代わり”にレッスンを繰り広げ、怪演はさらなる進化を遂げている。
拾ったら終わり…
クローゼットに隠した大量のバッグを至るところに“置き忘れ”、心優しい若い女性が届けてくれるのを待つグレタ。母の死から立ち直れないフランシスは、見事にその術中にハマってしまう。グレタがピアノで奏でるリスト作曲の「愛の夢」は、フランシスの亡き母への思慕を駆り立てるが、その日から携帯にはグレタからの着信やメールがびっしり。無視すれば、勤務先の店先で1日中、じっとりとした視線を送り続ける。さらには通勤の地下鉄にも、自宅の前にも現れ…。
欺いたら終わり…
ついにグレタはフランシスが働くレストランでぶち切れ、一時、警察に拘束されることに。フランシスは正面切ってグレタに困惑を打ち明けるが、旅行に出かけるからしばらく会えないと嘘をつく。騒動が一段落したかに思えた矢先、現代ニューヨークを象徴する人気シンガー、セイント・ヴィンセントの「The Strangers」が流れる部屋で、グレタのサイコっぷりが転調を見せ…。
油断したら終わり…
グレタによって囚われの身となってしまったフランシス。彼女を監禁しながらも「愛しい人」と呼びかける姿は、この上ない不気味さ。軽快なショパンの「子犬のワルツ（ワルツ第6番）」で相手を油断させるユペール：グレタに、震え上がること間違いなし！
クロエ＆マイカ、“ガムみたいにくっついて離れない”
ユペールの狂気に巻き込まれる
そんなユペールと初共演でW主演をつとめるのが、最強少女ヒット・ガールを演じた『キック・アス』の大ブレイクからまもなく10年を迎えるクロエ・グレース・モレッツだ。今作では素直な性格ゆえに、グレタに翻弄されてしまうフランシス役を熱演。さらに、その親友エリカ役を、クロエとは『フィフス・ウェイブ』で共演し、プライベートでも仲良しというマイカ・モンローが演じ、人気と実力を備えた2人の若手女優がユペール：グレタの狂気に巻き込まれていく。
6歳で女優デビューしたクロエといえば、北欧スリラー『ぼくのエリ 200歳の少女』を基にした『モールス』や、スティーヴン・キングの名作ホラーのリメイク『キャリー』で強烈な印象を放ち、『ヒューゴの不思議な発明』『ダーク・シャドウ』『アクトレス～女たちの舞台～』などで着実にステップアップ。
近年では、実在の難病の女性を演じた『彼女が目覚めるその日まで』、同性愛“矯正”施設に送られる少女を演じた『ミスエデュケーション』、不穏な舞踏団から逃げ出すダンサーを演じた『サスペリア』など、精神的にも身体的にもハードな役どころに果敢に挑戦しており、今作でも得体の知れないグレタに翻弄される恐怖を、身をもって表現する。
また、マイカはタランティーノが大絶賛したホラー映画『イット・フォローズ』で主演に起用され、一躍注目を集めた。『フィフス・ウェイブ』や『インディペンデンス・デイ：リサージェンス』といった大作での勇ましい姿から、『ザ・ゲスト』『HOT SUMMER NIGHTS／ホット・サマー・ナイツ』など通好みの作品にも出演。
目力と演技力に定評ある彼女が扮するエリカが、見知らぬ他人グレタを簡単に信用するフランシスに釘を刺すのは親友を思えばこそだが、やがてグレタの魔の手は彼女にも…。2人を襲う恐怖の数々を、ぜひ劇場で"体感"してほしい。
拾っちゃいけない届けちゃいけない…
『グレタ GRETA』公式サイト
『グレタ GRETA』は11月8日（金）よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほか全国にて公開。
