「してほしい芝居」はないけど、「してほしくない芝居」はめちゃくちゃある
――本作も含め、今泉監督の作品に出演する俳優にはキャスティングの妙みたいなものを感じます。なぜぴったりの人を見初められるんでしょうか?もしくはそう寄せている?
今泉監督:キャスティングは、いや~…、基本的に役者さんがやりにくいとか、役者さんに違和感があるのは潰したいんです。「やりにくくないですか?」とか「どうですか?」って現場でよく聞きます。ちょっとやりにくそうっていうのを感じたら、芝居を変えて、「やりたくないこと、やらなくていいですよ」と言いますし、なるべく全員が無理しないほうがいいと思っているので、そうやって役とその役者さんを馴染ませたりします。…話していて思ったんですけど、「してほしい芝居」はないんですけど、「してほしくない芝居」は、めちゃくちゃ具体であるんですよ。
例えば、「安易に触らない」とか。例えば、ちょっと揉めるシーンも、胸ぐらをつかんだりもできると思うけど、顔を近づけるだけのほうが緊張感が出るとか。触ると簡単になっちゃうし、どんどんウソになるので。そういう自分ルールがいろいろありますね。

――「してほしくない芝居」をされた経験はあります?
今泉監督:まあありますけど(笑)、でも基本的には、まずそういう芝居をする人をキャスティングしないですね(笑)。あんまり言うとあれですけど、第一線で活躍している人たちでも、自分の作品に合う・合わないはめっちゃあると思う。昔、ある役者さんがすごく出たがってくれたんですけど、「でも、自分はたぶん今泉さんの作品には合わないですもんね」と言われたときに、「めちゃくちゃ俺の作品をわかってくれてる!」と思って。理解はあるけど相容れないという…すごい切なくなったことがありました(苦笑)。
――「謎片想い」ですね(笑)。
今泉監督:そうそう。もっと言えば、俺は、「自分が、自分が」になっちゃう人が一番苦手で。役者、監督、スタッフの全員が作品のためを思って動いてりゃいいと思うんですけど、「自分が」となった瞬間に、いろいろ壊れるというか。だから、今回田中さんとご一緒して一番思ったのは、本当に「かっこよく映ろう」とか「こうしよう」という意識がまったくなく、普通に自然にいてくれたんです。田中さんが真ん中にいることで、みんなも芝居しやすかったんだろうなって思いましたね。
