「すべてが手探りで戸惑うことが多かった」と本人が語る通り、難しい役どころを見事に演じきった。共演の柄本さんも「僕の中では『天然コケッコー』のイメージで止まっていた」が、「現場の立ち姿とか居住まいがすごくかっこよかった」と語っている。役柄によって次々に新たな魅力を発揮していく彼女は、これまで多くの名監督たちとタッグを組んできた。
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◆『天然コケッコー』(2007年)初主演となる代表作

第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した、夏帆さんの初主演作品。山と田んぼが広がる木村町。方言丸出しの中学2年生・右田そよの通う、全校生徒たった6人の分校にある日、東京からかっこいい大沢広海(岡田将生)が転校してくる。初めてできた同級生との楽しく過ごす毎日に、期待に胸膨らませるそよだったが、そよとは正反対の性格で、ちょっと意地悪でとっつきづらい大沢をだんだんと気になりだす…。
清純派の代名詞として、いまなお語られる夏帆さんの代表作であり、制服姿の無邪気な笑顔が印象的。本作のメガホンをとったのは『味園ユニバース』や『オーバー・フェンス』などで知られる山下敦弘監督。
◆『砂時計』(2008年)松下奈緒の中高生時代役
『天然コケッコー』に続いて2度目の島根県ロケとなった、夏帆さんにとっても思い出の作品。芦原妃名子氏の人気漫画の実写化で、両親の離婚を機に田舎へ引っ越してきた主人公・杏とそれを支える大悟の12年の時を描いた純愛ストーリー。
松下奈緒演じる杏の少女時代を演じ、池松壮亮演じる少年時代の大悟と初々しいピュアな学生の恋を体現した。『図書館戦争』シリーズや『GANTZ』シリーズ、『キングダム』などのアクション作品が多い佐藤信介監督の作品の中でも、類を見ない王道のラブ・ストーリー。
◆『海街diary』(2015年)日本を代表する“4姉妹”の三女に

第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか数々の賞に輝き、第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された是枝裕和監督の作品。父親の死をきっかけに、腹違いの四女・鈴と3姉妹が出会い、鎌倉で共同生活を始める。徐々に4姉妹としての絆を深めていく。
静謐に描かれる鎌倉での4姉妹の日常を通して、本当の家族になるまでの姿を描いた本作は、綾瀬はるか、長澤まさみ、広瀬すずら日本映画界を代表する女優たちと4姉妹の三女・千佳を熱演した。
◆『ピンクとグレー』(2016年)中島裕翔&菅田将暉の幼なじみ

「NEWS」の加藤シゲアキが初めて書き上げた小説が原作となった本作。大人気スター俳優・白木蓮吾(中島裕翔)が突然亡くなる。第一発見者は幼い頃からの親友で、蓮吾とは対照的に売れない俳優の河田大貴(菅田将暉)。動揺する大貴は、蓮吾のそばに置かれた6通の遺書を手にする。遺書に導かれ、蓮吾の短い人生を綴った伝記を発表した大貴は、一躍時の人となり、憧れていたスターの地位を手に入れるが、蓮吾を失った喪失感と、その死によって与えられた偽りの名声に苦しみ、自分を見失っていく…。
夏帆さんは蓮吾、大貴と幼なじみのサリーを演じており、これまでの清純なイメージから一変、濃いめの化粧にパンクな服を着こなした。メガホンをとった行定勲監督のもと、文字通り新境地を見せたことでも話題となった。
◆『友罪』(2018年)永山瑛太と心通わせていく女性に

かつて世間を震撼させた事件を起こした少年犯の“その後”を描いた、薬丸岳の同名ミステリー小説を実写映画化。『64-ロクヨン-』シリーズを手掛けた瀬々敬久監督とスタッフが再集結し、人間の揺れ動く心情が繊細に描かれている。
ジャーナリストの夢に破れて町工場で働き始める益田(生田斗真)と、同じタイミングで工場勤務につく鈴木(永山瑛太)。鈴木は周囲との交流を避け、過去を語りたがらない影のある人物だが、同い年の2人は次第に打ち解け心を通わせていく。だが、あるきっかけと行動で、益田は鈴木が17年前の連続児童殺傷事件の犯人ではないかと疑い始め…。
夏帆は、本作であるきっかけで鈴木に助けられ、次第に好意を抱いていく藤沢美代子役を演じている。美代子は、かつてAV出演を強いられた過去を持つ女性ということで、これまで演じたことのない難役に体当たりで挑んだ。
◆『Red』(2020年)妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗の間で揺れ動く

30歳を目前に、夏帆さん自身が「何か新しいことにチャレンジしたい」という思いから挑んだ本作。直木賞作家・島本理生がセンセーショナルな表現で新境地を開いた同名小説を映画化、三島有紀子監督が女性の生き様をリアルに描き出した。

夏帆さんは誰もがうらやむ夫、かわいい娘、“何も問題のない生活”を過ごしていた、はずだった主人公・塔子を演じる。10年ぶりにかつて愛した男・鞍田秋彦(妻夫木聡)と再会したことで、ずっと行き場のなかった気持ちが、少しずつ解かれてゆく。そして、鞍田以外にも塔子の心にそっと寄り添う同僚・小鷹(柄本佑)、夫である真(間宮祥太朗)ら、3人の男性の前で揺れ動く主人公の心の葛藤を演じきり、誰もが想像し得ない映画オリジナルのラストは、賛否両論を呼びながらも力強く女性たちの背中を押すと話題になっている。

清純派から、大人の恋愛を見せる役柄へと役の幅を広げながら魅力を増していく夏帆さん。名監督たちに愛されてきた彼女の魅力は日本映画界において、これからも唯一無二の存在感を放ち続けるに違いない。
『Red』は2月21日(金)より新宿バルト9ほか全国にて公開。