前作『さよなら、人類』(14)で第71回ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)に輝き、5年ぶりとなる最新作となった本作で同映画祭受賞という快挙を成し遂げた巨匠ロイ・アンダーソン。
CGはほぼ使わず、野外撮影ではなく巨大なスタジオにセットを組み、模型や手描きのマットペイント(背景画)を多用するという、アナログにこだわった手法で傑作を生みだし続けてきた。動く絵画のような唯一無二の映像美と、独特のユーモアが散りばめられた哲学的な世界観が持ち味で、『散歩する惑星』(00)、『愛おしき隣人』(07)、『さよなら、人類』とカンヌやヴェネチアなど各国の映画祭で受賞を重ねてきた。

『ミッドサマー』アリ・アスター監督、『レヴェナント:蘇えりし者』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』アレハンドロ・G・イニャリトゥ、『ブラック・スワン』『マザー!』ダーレン・アロノフスキーなど、名だたる映画監督たちも敬愛する監督にロイ・アンダーソンの名を挙げている。
本作で描かれるのは、時代も性別も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇。この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル…悲しみは永遠のように感じられるが、長くは続かない。これから愛に出会う青年。陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャー…幸せはほんの一瞬でも、永遠に心に残り続ける――。
映像の魔術師アンダーソン監督が構図・色彩・美術と細部まで徹底的にこだわり、全33シーン全てをワンシーンワンカットで撮影した。圧倒の映像美にのせて「千夜一夜物語」の語り手シェヘラザードを彷彿とさせるナレーションが物語へと誘う。
悲しみと喜びを繰り返してきた不器用で愛おしい人類=ホモ・サピエンスの姿を万華鏡のように映し出した本作には、「観た誰もが、この映画を愛おしく思うだろう」(Cineuropa)、「精巧で完璧!この映画は、人類の<幸福のための闘い>について描いた、悲劇的な絵画の集合体だ」(Little White Lies)と海外メディアも絶賛を贈っている。
『ホモ・サピエンスの涙』は11月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。