演じる上で大切にしたのは「愛情」

演じるうえでは、“場の力”も大きかったという。というのも本作は、足立監督の自宅を豪太とチカ、アキの家に見立てて撮影しているのだ。
「美術さんが置いてくださったものもありますが、足立さんの家にあるものがそのまま映ってるんです。あの生活感はなかなか出せない。演じるうえで、助けになりましたね」。
「あと、足立さんの家で岳くんと、あるノートを見つけたんです。監督が書いたプロットに、奥さんが赤ペン先生のように大量にダメだしを入れていて。その上に、監督が『クソ野郎!』って書いていたのを見て(笑)、岳くんと『このページだけで夫婦のすべてがわかるね』と話したことを覚えています」。

こういったアイテムのサポートもあり、倦怠期の夫婦になりきっていったふたり。また、水川さんがチカを演じる際、大切にしたのは「愛情」だという。
「長い間一緒にいると、生きることにいっぱいいっぱいになって埋もれてしまうけど、チカも豪太も、根本的にお互いへの愛情がありますよね。そこはすごく、素敵だなと感じた部分です」。
愛しているから、憎まれ口も叩いてしまう。信じているがゆえに、きつく当たったりもする。夫婦というのは、実に不思議ないきものだ。『喜劇 愛妻物語』を観ていると、そのことを改めて痛感させられる。
象徴的なのは、堪忍袋の緒が切れたチカが泣き出してしまうシーン。愛情や怒り、悲しみが混然一体となった水川さんの最大の見せ場は、意外にも「ぶっつけ本番だった」そうだ。

「長回しで撮るって監督は最初から決めていたみたいで、大体の立ち位置を決めたらすぐ本番でした。あのシーンは、泣いてるのに笑ってて、でもものすごく腹が立ってもいて…全部の感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、演じていてもすごく面白かったです。自分も好きなシーンですね」。
「それまでのチカって、口ではきつく言ってても、豪太への愛情が歯止めをかけてたんだと思います。でも、それがぷつんと切れてしまう。それなのに豪太はピンと来ていなくて、情けないやら腹が立つやら。でもそういう“人間っぽい”瞬間って、とても魅力的であり、素敵ですよね」。