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主人公エレナの幼い息子が旅先のフランスの海辺で失踪してから10年。彼女は地元のスペインを離れてフランスへと移り、その海辺の町ヴュー=ブコー=レ=バンにあるレストランで雇われ店長として働いていた。
この場面は、エレナがその海辺で息子の面影を宿す少年ジャン(ジュール・ポリエ)と初めて出会う運命的なシーンを切り取ったもの。ほんの一瞬の出来事だが、エレナの心に強烈な“何か”をもたらしたことが伝わる、強い印象を残す場面となっている。
息子が失踪した後のことは映画では明確には描かれないが、その理由についてロドリゴ・ソロゴイェン監督は「誰もが真っ先に想像するような、短編(本編オープニングシーン)の後に何が起こったかを語る作品にはしたくありませんでした」と語る。この映像に映るエレナはやせ細り、血の気すら感じない表情は余りにも痛ましく、仕事場と家を行き来するだけの日々をずっと送ってきたであろう、彼女の10年間をありありと感じることができる。
演じているマルタ・ニエトは短編『Madre』(原題)撮影後、本作のクランクインまでの約2年間で体つきが変わるまでの減量を行ったという。そんな彼女は「失踪の先には、想像を絶する濃い闇があるんだと思います。死の場合とは違い、なかなかそれを乗り越えられず、どうしても喪に服すことができないというか、人生の次のページをめくることができないのです」とその心情を代弁するかのよう。
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「不確実さが残るがゆえに、決して休まることがない。本当に拷問のような人生です。短編(本作オープニングシーン)でのエレナは生き生きとしていて決断力があり素直ですが、その後のエレナはボロボロになっていて、生きることへの欲や食べることへの欲もなく、何とか生き延びるような生き方しかできなかったのです…ジャンと出会うまでは」と言う。
さらに、「エレナにとってのこの10年間を省略することは、映画の中で描かれなくても自分の中で作り上げ、習慣化しなければならないものでした。そこが一番骨の折れる作業でもあり、そこに何カ月も費やしました」と語る。そんな彼女がこの先、少年ジャンと関わり始めることでその内面にどう変化が訪れるのか、ぜひ注目してほしい。
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また、本作のプロローグにあたる、エレナと必死で助けを求める息子との会話の様子をワンシーンワンカットで捉えた、緊迫感溢れる約18分の短編映画『Madre』は『おもかげ』公式サイトにて10月22日(木)23:59までの期間限定で無料公開中。
『おもかげ』は10月23日(金)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開。