その中でも個人的に特に興味があったのがこの特別セッション。
「配信と映画の未来」というテーマでのパネルトークで、そのパネラーが『新聞記者』などを手掛けたプロデューサー・河村光庸さん、パルムドール監督の是枝裕和監督、Netflixのコンテンツ・アクイジション部門ディレクター・坂本和隆さん、東宝の松岡宏泰さん(僕の国際部時代の上司)、『劇場』で劇場公開と配信を同時に行った行定勲監督、今年のTIFFにも『カム・アンド・ゴー』を出品しているマレーシア人のリム・カーワイ監督という、業界の人であればおぉぉ~~と唸るような面々で、僕も少なからずその1人だったわけで、クリエイティブからビジネス面におけるまさに日本のトップランナーたちが集まった。
映画祭の第一義はまずは何といっても良い映画(何をもって良い映画とするかはまた別のお話だけど)を紹介することだとは思うけど、映画について映画人が議論する場を持つこともとても大事なことで、今回はオンラインでそのような場が設定されている。そんな中でテーマが「配信と映画の未来」。コロナ禍を経て世界がSFのように変わってしまった中で、配信という新たなフォーマットが出てきて、映画の在り方が変わろうとしている激動の時代で、日本の映画界のトップランナーたちがどんなことを思っているのか? 興味が湧かないわけがない。
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映画を作る監督、映画を製作するプロデューサー、映画を配給公開する製作・配給会社、映画を配信する配信プラットフォーム会社、それぞれの立場での意見が交わされ、会場で聞きながら、何度も深く頷く瞬間がありました。行定監督が『劇場』を全世界配信したときに、配信会社にどのくらいの視聴者数かを訊いたら、正確な数字は出してくれないんだけど、大体70万人くらい、多くて100万人くらいかと思っていたら、二桁違うと言われたという話は驚きだったし、マレーシアではステイホーム期間で配信視聴が進み、そこでスペインやドイツのドラマも見られるようになって、いまは映画館でもそういった国の映画がかかるようになったというのもなるほどなぁと思って、でもそこに日本の映画やドラマが入ってこないという話に忸怩たる思いを抱いたかと思えば、行定監督はそれに対してそれは逆にチャンスだと言っていて、それに松岡さんがもっと日本映画を輸出するべきなんですねと呼応したり、勝ち負けの差が激しい日本の映画業界の構造に対して河村さんからはもっと製作者に寄り添うべきだとの意見が出たり、是枝監督からも日本の映画興収の全体の数%をミニシアターに還元するような仕組み作りをしてみたらと提案が出たり、Netflixからはコロナ禍で苦しむ製作者への支援として1億ドルを拠出したという話があったり、で多様性を追求していくべきという点でみなさん意見は一致していたんだけど、それぞれの立場でそれこそ多様な意見が飛び交い、これは本当に面白かったし、勉強になった。
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個人的にもっとも響いた言葉は行定監督が自分でくまもと復興映画祭というのを手掛けるきっかけになった言葉。くまもと復興映画祭は熊本県の菊池市という映画館もない小さな町で開催されることになったんだけど、その時に行定監督が何で映画祭をやりたいの?と訊いたら、「映画ってたくさんの人を集めてみんなで観るもの。だから映画をやってみんなで観てもらいたい」と言われてハッとしたと。まさしくっ! 映画はやっぱりみんなで楽しむもので、それが一番楽しい。もちろん一人で観ても楽しい。それでもやっぱりその感想なんかをほかの誰か、しかもいまは顔を知らない誰かとも共有できたりするから、それが楽しい。最近は配信でもリアリタイムで同時にほかの人と一緒に見られるサービスなんかもあるみたいで、ますます映画の観方は多様化していく。選択肢はあればあるだけいいと思っているので、あとはこっちがどれを選ぶか。いやぁ、ますます楽しくなりますな。
ちなみに、司会の人から最後に紹介されたのは、トッド・ヘインズ監督が今年のヴェネチア国際映画祭が各映画人に訊いた「映画とは?」との問いに対する言葉で、
「映画とは暗闇の中で私たちを1つに結ぶもの」
これも刺さったなぁ。そして、なぜ東京国際映画祭でもこういうことをやらなかったのかと激しく自戒。次回こそ!