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貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)は、相手の顔さえ知らない見合いを控えて修道院から出てきたばかり。見合いのための肖像画を描かれることを拒んでいた。そんな彼女の前に、“散歩相手”であると身分を偽った画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)が現れる。ふたりはともに島を散策するが、親が決めた未来に悲観し心を閉ざしたエロイーズは笑うことさえしなかった。
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今回到着したシーンは、ミサでしか音楽を聴いたことのないエロイーズのために、マリアンヌが古いオルガンで好きなオーケストラ用の曲であるヴィヴァルディの協奏曲「四季」より「夏」を聴かせてあげる場面。エロイーズの表情は硬いままだが、マリアンヌの奏でる自然の息遣いとその解説に興味津々なことが伺える。そして、こわばりながらもマリアンヌに向けて初めて笑顔を見せる――。
アデル・エネルは、「修道院を出てきたばかりのエロイーズは誰かとコラボレーション(協働)をできるような状況にありませんが、エロイーズを演じる上で私が追求したのは、レジスタンスのもたらす可能性です。私たちは、現実に存在し抵抗する人物の生き様を描きたいと思いました」と語る。
マリアンヌとエロイーズがともに過ごすわずかな日々を通じて、ふたりの心にどんな解放と“レジスタンス”が生まれるのか、注目したい。
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音楽を「求めながらも遠い存在のものとして描きたい」
ちなみに、本作では音楽がこの「夏」を含め2曲しか使われておらず、それは登場人物たちが実際に歌い奏で耳にする音楽だ。セリーヌ・シアマ監督はこうした音楽の使い方について、「彼女たちの人生において、音楽は求めながらも遠い存在のものとして描きたいと思いました。そして、その感覚を観客の皆さんにも共有してほしかったのです」と明かし、「この映画で、美術や文学や音楽などのアートこそが、私たちの感情を完全に解放してくれることを描きたいと思いました」と狙いを語る。
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また、「夏」は後のシーンで実際にオーケストラによる曲としても登場する。シアマ監督が最初に脚本に取り掛かったのがそのシーンであるといい、そこで「夏」を使うことは当初から考えていたという。つまり、この本編シーンはその場面への伏線ともいえるが、その余りに圧倒的なシーンに触れれば、誰もがシアマ監督のビジョンに感嘆することだろう。
『燃ゆる女の肖像』は12月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開。